「そう。私はその中でも、アメイジング・グレイスが一番好きなの」
楓がにっこり笑って言った。
「アメイジング・グレイスか…。」
昴は優しく目を伏しませて、微笑んだ。
「…」
その表情に楓の胸がドキリと音を立てた。
胸が締め付けられる感覚がして、どうしてか分からないが、愛おしさを感じさせた。
「あのさっ!」
昴が顔をガバッと上げて、楓を見た。
強い眼差しで。
「なっ、何?」
楓は先ほどの感情を思い出して昴のことを直視できなかった。しかしなんとか見上げた。
「弾いてくれないかな、目の前で」
「へっ?」
あまりに間抜けな返答をしてしまい、楓は頬をおさえた。
「それは、鬼島くんが…見ている側で?ってこと?」
恐る恐る尋ねると、昴はコクリと頷いた。
「えっとお……」
楓は視線を彷徨わせた。
人前で弾くのなんていつぶりだろうか?
下手な演奏をして幻滅されるのは嫌だ。
「そんな、すごい演奏とか出来ないし、聴いててもつまんないと思うけど…」
