『ああ、白波か』


昴の視線に気付いた甲田先生が呟いた。


『白波?』


『ああ、いつもギリギリで来てるんだよな。確か同じクラスだったはず』


甲田先生はそう言って名簿を確認した。


『へぇ、そうなんですか』


抑揚のない声で興味なさそうに答えると、再び歩き出した。




『白波の隣だな』


それを聞くと、さっきの走っていた黒髪の少女の姿を思い出した。

入った教室は想像通りで、皆こちらに好奇の目を向けてきた。
前の学校での個人情報流出の件から、注意するようにお願いをし、普段通りの営業スマイルも想像通りのシナリオ。

ただ一つ、意外だったのが、さっき見かけた白波という少女のこと。誰かと仲良くなりたいという気はないが、彼女のことは少しだけ興味が湧いた。


『宜しく』


着席間際にそう言うと、彼女、白波(名前は知らない)はいつ直したのか、さっきより整った黒髪に困ったような、戸惑うような表情で、


『こちらこそ』


と返事を返してきた。