煌めいて初恋


楓はヴァイオリン型のハードケースを開くと、中から飴色の使い込まれたヴァイオリンを取り出した。肩当てをつけて弓を張り、松脂を塗ると、調弦を済ませた。


緑のホールの中心に立ち、楽器を構える。
そして、深く息を吸う。


左手の人差し指を指板に乗せて、小刻みに動かす。
それから右手で持った弓を弦に載せ、静かに腕を開く。


広い緑の森林に、優しい、聖母の歌声のような豊かな響きの音が響く。
木々に音が共鳴して自然の中に溶けこむ。
楓が弾く曲は、アメイジング・グレイス。
神への恩龍。
豊かな自然、恵み。


優しい音色が楓の心に深く染み込んでいく。
何も入ることのない、ただありのままの音だけが響いていく。
何故か、幸せな気持ちになる。