「それじゃ、行ってきまーす」 玄関で母に声をかけると、「もう行くの〜?」とのんびりした声が返ってきた。 「うん、日が暮れるまでには帰るから〜」 楓は答えると、履き慣れたスニーカーを履いてケースを担ぎ、家を飛び出した。 「まだ引きずってるのかしら…?」 母の口から漏れた不安の声音が、柔らかい春の匂いの中に混じり合っていった。