「楓っ!」


後になっても自分がどう教室へ戻ったのか思い出せないが、教室へ戻るなり、恵が抱きついてきた。


「大丈夫⁈何もされてない?ごめんね楓、ごめんね!」


恵は目を潤ませながら何度もそう謝ってきた。


「恵っ、何で泣くの。恵のせいじゃないでしょ」


楓が泣きそうな恵の肩を抱き返すと、恵は「でも、だって…」と声を震わせた。


「悪いのは恵じゃないよ!それに私は何もされてないから。ちょっとびっくりはしたけど、全然大丈夫だよ」


安心させるように笑うと、恵は力が抜けたようにへなへなと座り込んだ。


「よかった……ほんとによかった。私、恵に何かあったらって思うとほんとに心臓止まりそうで…!」


「心配しすぎだよ〜。確かに錦川さんたちにはびっくりしたけど、これからきっと呼び出しくらうことは多分ないから」


そう言ったところで予鈴がなった。


「えっ、ちょっと楓どうゆうこと!?…」


抗議の声を上げる恵にひらひらと手を振り、楓は自分の席へついた。


席に着いても、昴とは目が合わせられなかった。 


抱く感情に頭が追いついていかなくて、自然的に彼を避けてしまう。


でも、胸の高鳴りは止まらない。
感じる息遣いやちょっとした動きにトクトク、と軽やかな鼓動が揺れる。


恋なのか、これが。


楓はきゅっと胸を掴んだ。