殴られた・・



キスの途中で殴られた?


なんなんだ?




僕は何時も知らないうちに範子を怒らせているようだ。



何故だか全く分からない訳ではない。



何時も一言が多いんだ。



急に範子の眉間にシワが出た。



怪しい空気を打ち消そうとふざけてキスをしたら。




ぶん殴られた。




何度こんな喧嘩になっただろう?



何時も喧嘩になると激しく怒り出す範子に夜中に脅迫紛いのメールで出頭させられた。




範子のアパートの玄関についてノックをする。




開いた玄関からメールの激しさとは違ってしおれた範子の疲れた顔があった。



範子は黙ってストーブに火を入れると僕と並んでストーブの前に座った。







「あのね。尚志は何時も私が悪いって言って。何かあったら逃げるでしょ?私も、自分が悪いんだと思って今までごめんなさい、ごめんなさいって謝って来た。だけどよく考えて。私が何かした事には必ず理由があるんよ。理由がなければこんなにはならない」




そう静かに話をした。



僕に言い聞かす様に。


気が付いた。



「そうやね」 と答えてまた頭の中でもよく考えた。



そして範子に言った。



「何で、大切にしてあげなかったんだろ?と思った」


そう言うと範子は泣きそうな顔を一瞬見せて頷いた。




「もう、ほっとかんといてね」




そう言った範子を僕は抱きしめて「はいよっ」て約束したのに。





約束したのに。



言い訳するなら毎日が忙しい。



本心、範子には毎日のメールをちゃんとしていたらそれでいいと思ってた。



当然の様に、メールは努力して考えて毎日範子に送る。



そんな繰り返しになると次第にメールも面倒だとか思い出す。




優先順位をつけるなら一番最後に範子を置いているかの様な僕の態度に範子はまた怒った。




範子と喧嘩をしても敵わないのは分かってるんだけど。



理由は解ってても「何で怒るのか解らん」と範子に言っては更に怒らせる。





さっき、範子は僕の部屋から飛び出した。



暫く唖然としてしまったけど、また範子が暴れ出すのが恐ろしくて追いかけた。





違う。



範子が怒るからでは無くて範子を傷付けた胸が傷付いた。




喧嘩なんて、解り会えるまでは胸が尋常では無いくらい痛くなるからしない方がいいのだ。



と以前、範子と話した事がある。



喧嘩は苦手だ。




だけどしてしまうのはお互いがお互いに求める物が違うからだと思う。



違う世界で生まれ育ち他人同士が一緒に抱き合いながら過ごすんだ。



すれ違っても当然なんだけど。




慌てて飛び出した割には範子は既にタクシーに乗り込んでいた。




タクシーは僕の目の前を静かに走り出した。





靴を履き忘れた僕はタクシーを追い掛けて走る事が出来ない。




出来ないんでは無くて。



靴を履くのを忘れる位、範子に追い付きたかったんだ。




ジーンズのポケットに手を入れた。



携帯までも忘れて来ている。




僕は、まだ寒い春まで少しの夜の風に冷たく吹かれタクシーの去った道を何時までも見ていた。



あの歌を口ずさみながら





こうしていると範子を乗せたタクシーが戻って来そうで