全く私はじゃん拳に弱い。

昔働いていたSHOPで朝の掃除のモップを誰がするのかじゃん拳で決めていた。


何時も私が負けて1ヶ月もの間欠かさずモップをフロアにかけていた。


その作業に慣れて来たある日。


内緒でお付き合いしていた店長の英(すぐる)が何時ものモップがけを終わらせた私の側にやって来た。


「咲。お前はなんでじゃん拳に負けるかしってるか?」



そんな事知る訳がない。


「あれやで、咲はいっつもチョキを先に出すんや。だから負けるねん」



そう言って英はモップを洗うのを変わってくれた。


知らなかった。



簡単に負けていたんだと知った今では[最初はグー]の後にパーを出す様にしていた。



案外勝てた。





それから数年後の今では洋とのじゃん拳には負けた事が無い。



何時もの様にじゃん拳をした。



おでんを食べたかったからだ。






でも今日は「最初はグー」の後にチョキを出したらどうなるか?



試して見たくなった。



「じゃぁ、じゃん拳する?」

「またぁ?僕いっつも負けるからいややし。他の勝負ないん?」



そう言われ益々チョキを出したらどうなるかやって見たくなった。



「そんなん、たまにまぐれとかあったりするやん。今まで負けてたんとか気にして負のスパイラルに巻き込まれてたらあかんやん。やってみなわかれへん」



そう偉そうに言って洋をなだめてみた。



あかん、益々に更に益々が重なってどうしても[最初はグー]の後にチョキを出したらどうなるか知りたくて堪らなくなった。




私のギラギラした目を見て諦めた洋は息を吸ってから止めて。



握りこぶしに力を入れた。


私もワクワクしながら握りこぶしを更に握って力を入れた。




「最初はグー!!じゃん拳」



うおりゃぁー!






同時に叫びながら出したその勝負!








私は自転車をこぎながら寒い寒い風に吹かれてブルブルと急いで一番近くのコンビニへ行った。




たまご1つと、大根2つと厚揚げ2つに、それと蒟蒻2つ汁だくでお願しまして。



そうだ久しぶりにイイチコ買って帰って2人で飲むとする。




しかし一番最寄りのコンビニが自転車ダッシュで5分もかかるなんて・・・



発泡酒350缶を一本でも飲んでいたのが悔やまれた。



急いで部屋に帰るとおでんは少し冷めてしまっていたからストーブの上で温めながら檸檬を絞った。




洋はまだじゃん拳に勝った事が嬉しいらしく勝負で出したグーの手を見詰めていた。


それが何となく幸せな気持ちにさせてくれた。


私は絞った檸檬とイイチコを持って洋に渡してから。


「おでん出来たよ。食べよう」




と鍋の厚揚げを皿に移した。