それからその人は、

うちのコーヒーが気に入ったのか、

毎週月曜日にコーヒーを一杯飲みに来るようになった。

「いらっしゃいませ。
いつものでよろしいでしょうか。」

「はい。お願いします。」

そんな会話になってしばらく経った頃。

お姉さんの長かった髪がショートヘアになっていた。

「どうされたんですか。」

「少し心境の変化がありまして…。

変…ですか?」

「いえ!全然!
寧ろ綺麗さがアップした気がします!」

「まぁ、ありがとう。

…その、あの。」

「?はい。」

「連絡先交換しないかな?
あ、迷惑なら大丈夫だけど、
その、プライベートでもお話したいなぁって。」

「ぜ、ぜひ!喜んで!」


それからお姉さんとはいっぱい会話をようになった。

お姉さんは色んなことを知っていて、

それでいて凄く大人の余裕があった。

お姉さんのことを聞いていくうちに、

ますますお姉さんの事が気になっていき、

お姉さんが来るのをまだかまだかと待ちわびるようになっていた。


「ねーえ!」

「わっ先輩!どうしたんですか?」

「ちょっとちょっと〜あのお姉さんと随分仲良くなったわね〜
ねぇ、私にも紹介してよ!」

「え?」

「丁度男友達二人がね、彼女欲しそうなのよ〜
ねっ!二人とも彼氏いないならいい機会じゃない?」

「え、あの、その、お姉さんには、恋人がいます、から、だめです。」

「あらそうなの…残念だったなー」


まずい。

まずいまずい。

嘘ついちゃった。

本当はいないって言ってたのに。

私、お姉さんに彼氏ができるの想像したら、

口が勝手に動いてた。

最低だ。

お姉さんはもしかしたら受けていたかもしれないのに…。

悶々とした中、お姉さんが来る日がやってきた。

「久しぶり♪」

「お、お久しぶりです。」

「…?どうしたの?」

「あ、いえ!なんでもないです!
すぐお持ちしますね!」

「…うん?」


だめよ、今はお仕事中。

集中しなきゃ。

「お待たせしました。」

「ありがとう。」

「いえ。」

お姉さんが一口飲み私に向き直る。

「ねぇこの前話してたあれのことなんだけど…」

「す、すみません。
今日は仕事がありまして。」

「あら、じゃあまた次ね…。」

お姉さんは少しシュンとしたが、直ぐに笑顔を向けた。

背を向け歩く。

あぁ、お姉さんにあんな顔させるつもりじゃ無かったのに…。

でも、自分でもこの気持ちが分からない。

どうしたら。


トントン


肩を誰かが叩いた。

「先輩…?」

「どうしたの。
ずっと変だよ。」

「いえ、なんでもな…」

「なんでもなくないでしょ。」

先輩が私の言葉のを遮り言った。

「何かあるならこの先輩に相談なさい。」

「先輩…。

私…!」

私は思ったこと全てさらけ出した。

先輩はうんうんと頷き静かに聞いてくれた。

「あんた。

それは恋だよ。」

「え、でも私もお姉さんも…」

「好きって気持ちに、性別は関係ないのよ。

さぁ、うじうじしてないで愛しのお姉さんと話してきなさい。」

「え、でも。」

「こういうのは時間を置くと喋りずらくなるものよ。」

「あ…、はい…!

あ、そうだ。今日は…」

「もう上がりなさい。大丈夫だから。」

「!

ありがとうございます!

行ってきます!」


私は私服に着替えると、表玄関から店に入った。


「あれ、今日はお仕事忙しいんじゃ…」

「すみません。嘘つきました。

ほんとは、お姉さんに顔向けできなくて避けました。」

「…そう。」

「その、私、お姉さんと話せて楽しいです。

お姉さんの笑顔も好きです。

お姉さんの柔らかい髪も好きです。

お姉さん、お姉さんのこと、私…」

その瞬間私の口は塞がった。

コーヒーの少し苦い味がした。


「お姉、さん…」

「私も、好きよ。」

「好き、好きです。

お姉さん、私と付き合ってください。」

「喜んで…!」