「ゆずゆずーっ!英語の教科書持ってるー?」


「……え、え…?」



1時間目の授業が終わり、次の授業の準備をすべく鞄に手を伸ばしかけた時、聞き慣れない呼び方で私を呼ぶ声が教室中に響き渡った。


突然のその人の姿に、クラスは男女問わず騒つき始める。


教室の入り口で顔を覗かせたその人は私と目が合うと、白い歯を見せながら中に入ってきて、あっという間に私の席までやってきた。



「……え、み、宮城くん……?」

「おー覚えててくれてた?うれしーなあ」


そう言いながら、目尻を下げる宮城くん。



……そ、それにしても、今、私のこと『ゆずゆず』って、呼んだよね……?


体育祭の時に少しだけ会話のようなものを交わしたきり、全く接点はなかった……のに、いつの間に………?



「……え、と、今…」

「で、持ってる?教科書!」

「えっ、」


ずいっと顔を近づけてきた宮城くんに、私は反射的に体を引いてしまった。

それを見た宮城くんは、一瞬目を丸くしたあと、近づけた顔を戻した。肩を揺らしながら笑っている。


「ごめんて、そんなビビんないでよ〜!」

「……え、と……ごめんなさい…」


おもろいなあ〜と手の甲を口に当てて、なおも肩を揺らしている。


……今、面白いって言ってもらえるようなところ、あったのかな………


………あ、そうか、これも宮城くんの対人スキルが高すぎるがゆえの技なのか………社交辞令みたいな感じの……