「試しに普通に喋ってみろよ」
……そ、そうだよね、つ、付き合ってるんだし……!
「……が、頑張る…」
「ん、じゃあついでにもう1個」
まだあるの!?と思いつつ、次の言葉を待つ。
「いつまで成瀬くんなの?名前で呼んでくれねーの」
「えっ……」
全然予想していなかった。
まさか成瀬くんの口からそんな内容が出てくるなんて、全然予想していなかった。
「え、と……それには、まだちょっと、時間が必要かも……」
「はい試しに言ってみよう。『れ』」
「ええっ」
「ほら、『れ』」
「……っれ、」
「『ん』」
「………ん…」
「『れん』、はい」
「………っれ、蓮、くん」
振り絞った声で何とか名前を呼んだ。
むり、顔から火が出そう………………
恥ずかしさに耐えきれず、顔を背けた。
頑張って名前で呼んだのに……成瀬くんからの反応は、全くない。
恐る恐る振り返ろうとしたら、またもや手で制された。
「こっち見んな」
「え…」
「やっぱいい、名前は。しばらく成瀬でいいわ、俺が無理だった」
「え……無理って…」
「うるせーちょっと黙っとけ」
そう言った成瀬くんが急に近くなったかと思ったら、おでこに柔らかいものが触れた。
「…え……」
「いちいち可愛くて困る」
「え……」
「柚ちゃん可愛い」
「っ、!!」
初めて呼ばれた、あまりの威力に私の顔はみるみる熱を持ち始めた。
「顔真っ赤、可愛い」
「や、やめてください…!」
「柚ちゃん敬語」
「〜〜っ!!!」
くしゃっと笑った顔を、つい恨めしく思った。
……でも、どうしたって私は成瀬くんが大好きなんだよなあと、その横顔を見つめながら思った。
成瀬くんに出会えたから、心の底から笑えるようになった。新しい自分に出会えた。毎日がこんなにも楽しくて仕方がない。
そんな成瀬くんのこと、これからもずっと大事にしていきたい。
ずっとずっと、一緒に笑っていたい。
「あ〜笑いすぎて涙出た」
こんな毎日を、これからも2人で過ごしていこうね。


