あれから、私は東京と言う大きな街から出た

あの時の記憶を消し去ろうと故郷に帰ったのだ。

だけれど帰っても何も変わらない。

5年たったというのに、あの時の記憶が昨日の事のように覚えている。

「……はっ!」

私は夢を見ていた。

「はぁ、私何泣いてんだろ……」

涙が溢れて、視界が見づらい。

蓮が死んでしまった夢……。

そう、私の彼は吉澤 蓮(よしざわ れん)と言う。

パジャマの裾で涙を拭いた。

寝ぼけながら、充電してあったスマホをタップした。

「え?もう9時!?」

慌てて、クローゼットに向かおうとすると床に放っておいた本に躓いた。

「ぎゃぁ!」

顔面から床にぶつけた。

昔から私はドジなところがあった。
それでも蓮はドジすぎる私を支えてくれたんだ……。

こんな風にコケたときも、笑って「大丈夫?」と言って手を差し伸べてくれた。

過去の出来事が蘇る。

もう蓮の優しくて眩しい笑顔は見れないんだ、と涙が溢れてくる。

そんな事を思い出して、ぼけっとしていると

「紗夜!もうすぐ10時よ!」

お母さんの声が聞こえながらも、聞き逃した私は顔を摩った。

「香奈ちゃん達と、待ち合わせしてるんでしょ?」

その言葉に私は、はっとした。

やばい。香奈に怒られる。

そう、今日は香奈(かな)と恵美(えみ)と最近できた近くのカフェに行くのだ。