あり得ぬ!絶対、あり得ぬ!!

お主様一筋のこの我が、7人の女子にうつつをぬかす下衆ヤローなど!

その話が本当なれば、我はあちこち心変わりし過ぎの頭フワフワ、下半身ユルユルの不埒者ではないか!

それでは、あの男と女に節操のないダリアと変わらぬっ!!

挙げ句、その中の二人とは運命人じゃと!!

そんなもん、ないわぁぁーーーっっっ!!!


と、ロゼは気色悪さで全身ブルブルっと身震いさせながら、適当にワープ(瞬間移動)した場所で心の中で叫んでいた。

…じゃが…

もしもの話じゃ…

絶対にあり得んが微塵も無い話じゃが、仮にじゃ…あくまで仮に

それが本当だったとしたら、我のお主様に対するこの気持ちはなんじゃ?

それに、お主様が……


何より、ロゼがショックだったのが大好きで堪らない愛するショウが、こんな話をしていたという事。その事に関して、信じられん!お主様は我の事を信じてくれんのか?と、酷く裏切られた気持ちになったのだ。

…だって、こんなにもショウが大好きで毎日のように求愛しては大好きのスキンシップをとってアピールしているというのに。

なのに、ショウはロゼの気持ちを偽物だと判断していた事になる。


…何故?

ちょっぴり(?)おバカな子であるショウの事だから、何か勘違いしている可能性もあるし、誰かに唆され騙されたりしている可能性も大きい。

だけど、ショウは自分達では知り得ない何かが見えている時がある。もしも、その能力でロゼの“何か”を見て、そう言ってきたのだとしたら?

そう思うと、…ゾッとする。


…一体、お主様には我の何が見えたというんじゃ?

もし、それが真実だとして、何故にそんな心変わりの激しい浮気性の不埒者を【正式な天守の剣】として認めて下さったのか?

…分からぬ…

お主様は、一体何を考えとるんじゃ?


それにしても、この我が7人もの女にうつつを…?

…信じられぬ…


…ズーーーン…


と、ロゼが何処かの栄えた街中の一番高い屋根の上で、う〜ん、う〜ん唸って考えている時。

ロゼが居なくなった部屋では


「とりあえず、ロゼの事はオブシディアンに任せ話を続けよう。」

と、ロゼの行方をオブシディアンに追跡を命令し、リュウキはその場を仕切り直しつつ

ロゼについて、性格は明るく天真爛漫お調子者。だが、その裏では冷静に物事を見極める判断能力に長けていると思っていた。

だが、残念な事にショウが関わると、激情が先に立ち突発的な行動が多く見られる。
また問題なのが、まだ生まれたてという事も大きいのだろうが考え無しに衝動的に家出をしてしまう。

…勘弁してもらいたい。

ロゼのスピードは、我が国随一のスピードを誇っているオブシディアンと同等かそれ以上。
そして、何より厄介なのがワープが使える事。

ロゼの事は、本来ならフウライに頼めば早いのだが今回はそうはいかない。

ならば、我が国の誉れ隠密一のオブシディアンを向かわせるしかないだろう。

と、心の中でなんで、こうも面倒事ばかり起こるのかと深く溜め息を吐きつつ、今優先すべき問題について話した。


「ダリア。お前について、分からない事が多い。まず、第一に何故そこまでショウに執着する?お前は、無能で容姿も醜いショウ…いや、エリスが嫌で捨てるほどに嫌っている筈だろ?“天守”の力欲しさに近づいてるだけか?」

リュウキが、一番疑問に思っていた事をダリアに聞いてみた。すると


“…そんなの…分かんねー…”

と、呟くと


“それが俺様にも分かんねーんだよ!
けど、一緒にいなきゃ俺様の心にポッカリ穴が空いたみてーに、何の気力も湧かなくなる。
何をやっても心が動かねー。まるで、世界中の色を失ったかみてーな…何にも無くなっちまうんだよ。あの無能の木偶の坊がいねーと。”

ダリアの言葉を聞いて、リュウキは思った。
…何か変だと。聞いていると、包み隠さないダリアの本心の言葉を聞いている気がしてならないのだ。

あのプライドの高いダリアが、こうもアッサリと自分の気持ちを認め喋るだろうか?

少し考えた末、リュウキはこう訊ねてみた。


「お前は、ダリアの“魂”なのか?」

と。すると、ダリアから意外な答えが返ってきた。


“違う。俺様は、俺様の“魂”でも“肉体”でもない。”

そう、答えてきたのだ。魂でも肉体でもないなら何なのか?


「お前は、ダリアの何なんだ?」

“俺様は俺様だ。…が、そうだな。【本体】【核】とでも言えばいいか?簡単に言えば、【剥き出しになった意思、感情】と、いったところか?俺様が、魂と一体化すればそこに自制心や感情をコントロールする気持ちもできる。”


つまりは、複雑に絡み付いた感情を取っ払った“素直な気持ち”のダリアの意思、感情の塊。例えるなら、無垢な子供の心の様なものだろうか?性格には難があるが…。

だから、素直にショウのショウの側に居続け、ずっとずっとショウを守り続けてきたという事か?

…しかし…


「なら、何故今までエリスと会話しなかった?今の様に、会話をする事は可能だだろ?」

と、いうリュウキの疑問に


“魂に入らないと、体力や気、魔力のコントロールが出来なくて消耗が激しいんだよ。
だから、いざという時の為に眠って温存しているからな。…会話するなんて、エリーの日常を見る事すら出来ない。”

そうやって、ショウを守っては消耗した魔力などを回復させる為にまた長い眠りについて、それを繰り返していたのか。


“…おかしいと思わねーか?
あの無能の木偶の坊、挙げ句にブスときた。性格だって良いわけじゃねー。
何一つ、良いとこがねーのに…可愛いって思っちまうんだぜ?”

ここで、みんな…ん?と、思った。


“一緒にいると、穏やかな気持ちっつーの?
ただ側に居るだけで何だか心がポカポカする。なんでもいいから、色々尽くしてあげたい、アレの為に何かしてやりてーって思っちまう。
ちょっと、アレの肌に触れただけでグワーって体温が上がっちまうし、気持ちいい。ずっと、触ってたい気持ちになる。”

…あれ?これって…と、ダリア以外が思っていたが、要らなく茶々を入れると消えてしまいそうでみんな黙ってダリアの言葉を聞いていた。


“だから、俺様は思った。【有り得ねー】
だって、そうだろ?俺様みたいな世界一…いや、宇宙一のハイスペックに俺様が、宇宙一ゴミみてーなクソカスにこんな感情を抱くんだ?
おかしいって思った。
これは、絶対に何かあるってな。そこで考えついたのが【洗脳】だ。”

そこで、リュウキ達は思った。

…ああ、単に自分の気持ちを認めたくない、認めたくないんだなと。


“…だが、思いつく限り色々と手を尽くしても洗脳は解けねー。どんなに、アレを突き放してもアレが頭から離れねー。
離れる時間が長ければ長げーほど、俺様の心が苦しく辛くなるばっかで…ムシャクシャしてイライラするばっかだ。

それに、アレは俺様が居なきゃ何にも出来ねー馬鹿だし、メンタル弱々の寂しがりなんだ。
俺様が居ない間、どうしてるか心配になんだろ?

アレが、心配で心配で…気がおかしくなるんだぜ?おかしい話だろ?

何で、この俺様がアレの事を気にしなきゃいけねーんだ?隙ありゃ、アレの事ばっか考えてる。

こんなの洗脳以外の何者でもねーだろ?
そーでもない限り、俺様がアレを気に掛けるとか絶対ない筈だ!!”


そこまで言った所で

「なら、話は簡単だろ。お前の様な力を持ってすれば、自分の記憶からエリスを消す事も可能だろ?エリスがいる星から一番離れた星にでも移動して、そこでお前の記憶の中からエリスを消せばいい。」

と、リュウキは提案した。


“…なっ!?…いや、これまでにそれに近い事は何回、何十…何百回って程やってきた。
…やってきたってより、無理矢理にされたって方が正しいな。…クソッ!思い出すだけで、胸糞ワリーッッッ!!!”

「それは、どういう事だ?お前の記憶からエリスを排除した経験があるのか?」

と、リュウキが聞くと


“…無理矢理、消された。”

どういう事だ?そう思っていると


“俺様が、あのクソ女の呪いのせいで、エリーと共に【畜生どもの住まう汚い世界】に落ちている途中だった。その時、俺様は何かに弾かれエリーと離れ離れになってしまった。
そこで、俺様の頭の中で声が響いてきた。

[そこまで、お主がエリスを拒むのならば仕方ない。お主の望み通り、エリスから解放してやろう。]

と。そこで、俺様はエリーの存在など忘れ、ここではない異世界の住人として過ごした。”


衝撃的な話である。

異世界というものがあるというのは、鬼から聞いて知ってはいたが半信半疑であった。

だが、ダリアから異世界という別の宇宙が存在する事を聞き、この宇宙(世界)の他にも無数に異世界が実在するのかもしれないという事実にただただ驚くしかなかった。

では、何故?エリスの記憶はなく、異世界というこの世界とは別の宇宙へ行ったのにも関わらずダリアは、この世界に戻って来る事になったのか。


“俺様は、異世界で生まれ変わろうと俺様は俺様だった。この美貌と才能は、どの異世界でも圧倒的で何も何もかもが俺様の思い通りだった。”

なら、良かったじゃないか。なのに、何故わざわざ、こっちの世界に戻って来たんだ。そんなに順風満帆なら不満だらけのこっちの世界に戻って来んなよ!
と、内心サクラとリュウキは苛つきながらも、その感情をグッと抑えダリアの話を聞く。


“…けど、何をしても心が満たされる事はなくて、心の中がポッカリ穴が空いたまま塞がる事はなかった。あるのは虚しさばっかで俺様はいつも、10代やそこらで自ら命を絶ってばっかいたなぁ。
そして、自分の命が消える間際に【自分には大切な何かがいる。その存在が欠けてるから心に穴が空いたままなんだ。】って気付く。

だが、不思議な事に肉体から魂が抜け出すと、それを思い出す。

思い出したら、いても立ってもいられねー。
俺様の力を存分に発揮して力ずくで【その世界の創造主、或いはそれに近い存在】を見つけだし掛け合い、元の世界に戻すよう頼んだ。”

ダリアの性格や、今の力ずくでと言う言葉を聞く限り…異世界のお偉いさんがドン引く程にしつこく食い下がり碌でもない事をしたに違いないと、サクラとリュウキは何となくだが

その光景が目に浮かぶようで、どこの世界へ行っても迷惑しかかけないなと呆れていた。


“そして、俺様の話が通ったはいいが、向こうから条件が出た。その条件は【罪人が受ける罰。地獄の拷問を一周する事】。
俺様は、元の世界に戻る為にその条件を呑んでここに戻ってきた。”


地獄の拷問を一通り味わってでも、こちらに戻って来ようとするダリアの執念にみんなゾワッ…!と、寒気が走った。

拷問だぞ?拷問!!?

どんな拷問かは分からないが、一周というからに様々な種類のありとあらゆる拷問を受けたという事だろう。

無理だ…何があっても自分は、拷問を条件にだなんて考えられない。あり得ない。

コイツは、頭が狂ってるのか!?

そう思うほど、ダリアが不気味に思えてしまった。


“だが、何回も【何か】が、俺様を邪魔すんだ。

[どうせ、元の世界に何回きた所でエリスを傷つけるだけじゃ。エリスを想うなら、大人しくお主の思う理想的な生活を送ると良い。
エリスと関わらなければ、ほぼほぼお主の思い通りの理想的な生活を送る事ができるじゃろう。]

その声が聞こえた瞬間、俺様はまた別の異世界へと転生させられる。

それを何回繰り返したか覚えてねー程、繰り返した。何度も何度も様々な拷問を受けて……それをどのくらい繰り返したか分かんねーけど。

ある時、遂に


[…何が不満なんじゃ?お主の望みを叶えてやってるというに。…仕方ない。もう少し様子を見よう。それ次第で、何度でもお主の記憶からエリスを消し異世界へ転生する呪いをかけ永遠とエリスと関わらぬようにする。]

その声と共に、ようやく俺様はこの世界に戻って来れた。

驚いたのが、異世界とこの世界の時間の進み方。俺様が、気が遠くなるくらいに転生を繰り返してたのに、エリスは畜生どもの住まう汚い世界に落とされまだ転生もしてなかったって事。

今度こそ、失敗しないって思って俺様は微かに残った【天守の能力】を頼りにエリスを探す旅に出た。”


…なるほど。それで、前世のダリアは、表はいい旦那。裏では妻を裏切る行為ばかりしていた上面のいいベーレ(前世のダリアの名前)の完成って訳か。

なら、そこで失敗したと思ったから、次は身や魂の汚れを落とす洗浄を行って今に至ると。そんな所か。

と、リュウキは酷く頭が痛くなる思いがした。


「…え?つまり、あんた…ショウ姫を好きだって認めたくないあまり、現実逃避して逃げ回ってたって事かい?」

そこに、呆れた風にハナがダリアに話し掛けた。

“…はあぁぁ⤴︎?誰が、誰を好きだって?
俺様の話、聞いてたかよ?”

と、否定するダリアに

「だって、そうだろ?完璧な自分には、完璧な相手が恋人じゃなきゃ嫌だ。
でも、好きになった相手は、自分の理想から外れた人間。だから、認めたくない。

そうやって自分の気持ちを否定して、上手くいかない自分の憂さ晴らしにショウ姫を虐めてたって事だろ?

随分と身勝手で、自己中だね。」


“…テメーッ!さっきから、何なんだよ!?この俺様に楯突くつもりか?”


「…はぁぁ〜。あんた、何様のつもりだい?
あんたの話聞いてる限りだと、あんたは全てにおいて完璧みたいだね。
あんたの話通りなら、あんたの話にもあったように自分の思い通りに何不自由なく生きてんだろうね。

それこそ、どんなワガママも許されてしまう。自分の何気ない一言で、国を滅ぼしてしまう程の恐ろしい魅力があるんだろうよ。

だけどね。

自分のせいで、周りにどれだけ迷惑掛けてると思ってるんだい?あんたは、一体何がしたいんだい?

ショウ姫のせいで自分の人生が滅茶苦茶だってなら、大人しく異世界とやらで面白おかしく生きりゃ良いじゃないかい?

どうして、わざわざそんな地獄を味わいながらも、この世界に戻って来てショウ姫と関わろうとするんだい?

あんたの言ってる事は、滅茶苦茶過ぎて頭の悪い私には理解できないね。」


“…テメ〜…、ムカつく!!マジで、ムカつくッ!!ぶっ殺してやるっ!!!”

ハナの言葉に、怒り心頭のダリアがぶち切れた様子にみんな、マズイと思った時だった。


「…うわぁ!綺麗…!」

と、言う寝ぼけた声が聞こえてきた。

そこを見ると、ダリアを見て目をパチクリさせているショウの姿があった。
どうやら、周りがあまりにうるさ過ぎて目が覚めてしまったらしい。

そこで、リュウキは


「ショウ、よく聞きなさい。お前が旅に出てから、様々な危険があり怖い思いをしただろ?」

「…う、うん…」


「その危険から、今までずっとお前の事をその紫の光が守ってくれていたそうだ。お礼を言いなさい。」

と、ショウに話した。ショウは、リュウキの言葉を疑う事なく、そうだったんだと感謝の気持ちを伝えるべく起き上がりベットに座り直すと


「…あ、ありがとう!」

お礼を言った。


“…………ッッッ!!?…………。”

だが、ダリアがそれに返事をする事はなかった。今は光の玉なので、表情が分からない為、ダリアがどんな気持ちでいるかは窺い知れない。

しかし、ショウがお礼を言った時、ダリアの体がビクッと大きく動いたので何かかしら思う事はあった筈だ。

…まあ、何はともあれ、ダリアに殺されなくて良かったと思う一同だ。一時はどうなるかとヒヤリとした。
後になってから、ショウとハナを除く一同は、冷たい汗がドッと吹き出しドックンドックンと心臓が恐ろしかったと悲鳴をあげていた。

たまに、ハナは周りの空気が読めずぶっ込んでくる事がある。それを忘れていたとリュウキは、もっとハナに注意を向け釘を刺しておけば良かったと反省していた。

危なっかしいハナではあるが、いつもなら何か考えがあっての事か野生の勘なのか…そこは分からないが、ハナのぶっ飛んだ行動はいい方向へと向かうのだが…。

しかし、気になるのはフウライだ。ハナの相棒のフウライならば、突拍子もないハナの暴走も予測して事前に防げたはず。

ダリアが切れた時こそ、ハナとルナの前に立ち二人を庇おうとする仕草こそあったが。
ハナの暴走も止めず、ハナの少し後ろで全体的に様子を窺っているようだった。

時折、不安気に「…母ちゃん…」と、ハナを心配するルナの背中に手を添え「大丈夫だ。」そう声を掛け、フウライはハナを見守っていた。
優しくルナを支える手の逆の手は、何かをグッと堪える様に強く握られ小刻みに震えていた。


「急にダンマリして、どうしたんだい?さっきまで、ショウ姫が嫌いだの何だの言いたい放題喋ってたじゃないか。」

と、またもハナがダリアに突っかかっていき、リュウキはギョッとし、ハナの口を塞ぎ止めようとしたが

『今はショウ姫がいる為、ダリアは下手に動けない筈です。…もう少し、様子を見ましょう。』

フウライから、そんなテレパシーが届き、なるほど、と、リュウキはフウライにコクリと頷いて見せた。


「…え?私の事が嫌い…?」

と、ショウはハナの言葉に驚いたが

「…なのに、助けてくれたの?でも、助けてくれて、ありがとう。」

例え、知らない人から嫌いって言われたって傷つく。ショウは、どうして嫌われちゃったのかな?と思いながらも、嫌いでも助けてくれたダリアに再度、お礼を言った。


“…あ、いや…違っ…!!?……ッッッ!!”

それに対し、ダリアは何か声を掛けようとするも、何も言葉が浮かんでこず声を詰まらせていた。そこに


「あ〜あ、ショウ姫が関わった途端、とんだヘタレになっちまったね。さっきまでの勢いは、どこ行っちまったんだろうね?
ショウ姫がブスだの、無能な木偶の坊だの散々言ってたじゃないか。」

と、ハナはダリアの言葉を代弁して喋った。


“…なっ!?テメー…あ、そうじゃねぇ…エリー、違うんだ。俺様は……”

ショウが居なければ、ここに居る全員皆殺しにできたのだが。ショウがいる今、そんな事はできない。

ショウがいる事をいい事に、ハナが言いたい放題言ってくる。しかも、ショウに聞かれたくない事ばかり。ダリアもタジタジで、しどろもどろになっていた。


「ヘタレに何言ったって、何にも話が進まないから仕方ない。ショウ姫に、相談なんだがね。」

と、今度はショウに話を振ってきた。


「…へ?わ、私???」

ショウは、何が何だか分からなく困惑している。そんなショウに、ハナはニッコリ笑顔を向けた。


「そう、ショウ姫の意見が聞きたくてね。
な〜に、大した話じゃないから、深く考えないで自分が思ったままの事を言えばいいんだ。」

あはは!と、豪快に笑い


「私の知り合いの話さ。物凄くイケメンで頭が良くてさ。運動神経もいい完璧な男がいるんだけどね。
どうも、そのイケメンに好きな女ができたらしい。だけど、ここからが問題さ。」


ほえぇぇ〜〜!
そんな完璧なイケメンの人っているんだぁ

なんか、サクラみたいだなぁ

と、ショウは思っていた。

ロゼの事は、甘えん坊でちょっと我が儘だから完璧から外れるもんねと心の中で苦笑いしているショウは知らない。それこそ、サクラに性格に問題がある事を。


「その女ってのは、ブサイクで根暗で勉強も運動も何をやってもてんでダメ。一緒に居るだけで恥ずかしい女だったのさ。」

なんか、その女性の話を聞くと、あまりに欠点だらけで自分の様な気がして他人事に思えなくなっていた。

けど

欠点だらけの女性が、完璧イケメンに好かれるなんて羨ましいっっ!!!

なんて、夢みたいな話なんだろうとショウは、ドキドキ胸を高鳴らせながらハナの話を聞いていた。

もう、素敵な話の予感しかないとキラキラ目を輝かせながら、ショウは食い入るようにハナの話を聞いている。

ドラマや演劇、ミュージカル好きのショウにとって、この夢物語のような話は大好物なのだ。

けど、どの物語も主人公は美男美女ばかり。

…やっぱり、現実はそうだよねぇと、たまに虚しい気持ちにもなるが…。

だけど、今聞いた話は
ドラマや映画などでも、見た事のないような夢のような話。コンプレックスが多そうな女性には親近感も湧く。興味がないわけがない。
むしろ、その恋バナをいっぱいしてほしいとワクワクしていた。

なんて、夢の広がるような素敵な話なんだろ。続きが気になると、ショウは興奮している。

ドキドキ!


「だから、その女が好きだって認めたくないイケメンは、いっぱい女に意地悪をしたんだ。

理由は単純さ。

自分は完璧イケメンなのに、好きになった女性は底辺のブス。最高にハイスペックな自分には見合わない。

自分のような最高の男には、それに見合う最高の女じゃなきゃ嫌だってね。」


…え…?

好きな気持ちを持て余して、気を引きたくて意地悪するとかドラマなどで見てドキドキして見ていたが…

容姿とか能力なんて…特に容姿は、生まれもったもの。ダイエットや美容で努力して着飾る才能がある人はいいだろうが、ショウが美容で努力した時かなり痛い目に合いイジメが悪化したもんだ。…自己嫌悪に陥るくらいの恐怖のトラウマである。

他人は、努力しないからだの何だの言うかもしれないが、それが出来ない理由まで知らない。知らないくせに、好き勝手言うもんだ。

そこで、更に人を闇に突き落とし、落とされた者は精神的に病み……

だが、精神的に追い詰められ病んだ人の事も、ボロクソに悪く言う人もいるのだから世の中は酷く冷たい。

なんて、ショウは考えながら


その完璧イケメンは、そんな辛い経験もなく周りからチヤホヤされて生きてきた羨ましい人物なんだなと思った。

と、同時に

…なんか、嫌な人だなぁと嫌悪を抱いてしまった。


「ショウ姫は、そんな完璧イケメンに好かれたら、やっぱり嬉しいかい?」

ハナが、問いかけてきたので


「…いくら、完璧なイケメンでも人の事を思いやれない冷たい人は嫌だな…。」

ショウは、素直に自分の気持ちを伝えた。


「…おや?だって、完璧なイケメンに好かれて嬉しくない女はいないだろ?ショウ姫は違うのかい?」

わざとらしく驚いたように、ハナが言うと


「…だって、人が生まれもって持ったものを否定するなんて…。容姿が良くないとか、勉強や運動ができないとか努力でどうにかなる人もいるかも知れないけど。

努力しても、どうにもならない人。努力できない何か可哀想な理由がある人。いっぱい事情があってそこにあると思うの。

それを否定して、意地悪するなんて…。その女の人が凄く可哀想。」

ショウは、この女性の話に共感できる部分が多くて、この女性に対し心を痛めていた。

すると


“……いや、何で?世界一美しくて、何でも完璧にこなす男に惚れられたってだけで光栄な話だろ?嬉しくないわけないだろ?”

と、紫の光までも、ショウに聞いてきた。


…え?

何で、こんな話を私に聞いてくるんだろう?

…もしかして、私がブサイクだからって事?

なんて、ショウは何故か自分ばかりに、この手の質問が集中している事に深読みしてしまい何気にショックを受けていた。

そこにいち早く気づいたのは、やはりサクラで


「ショウ様が演劇やドラマが好きな事を知っているので、人よりも感性が豊かだと思い質問しているようです。
なにせ、ここに居る方々は演劇など興味がなく、人の気持ちを考えるのが苦手な方々ばかりなので…。申し訳ありませんが、もう少しこの方々の相談に乗っていただけませんか?」

と、サクラはサラッとダリア達をディスりながら、ショウにお願いをした。

サクラの言葉に、そういうことだったんだとホッとしたショウは自分にも何かできるんだったら嬉しいなと意気込んでいる。

それを見て、サクラとリュウキ、ハナは可愛いなとホッコリした気持ちでショウを見ていた。

ただ、サクラはちょっと不満気味である。本来なら、ショウの手を握ったり体を密着させ顔を近づけて声を掛けたい所だが

ショウの直ぐ側にダリアがいるので、下手に近づけなかったから。

そこで、ショウがずっと気になっていたけど、それを聞く隙が無かった為聞くに聞けなかった事をサクラに聞いた。


「…ロゼは?ロゼが居ないんだけど?」

心配そうに、聞いてくるショウに

「大丈夫ですよ。ロゼは暇だからと土地に詳しいオブシディアンと一緒に散歩に出かけています。迷子になってはいけませんからね。」

「そうなんだ。早く、帰ってくるといいなぁ。」

と、二人は自然体でほんわかした雰囲気で会話をしていた。


そんな二人の様子を見て、ダリアに衝撃が走った。

…こんな風に笑って砕けた喋り方するのか…

…こんな、エリーは見たことなかった…


…いや、エリーが5才くらいの時までは、俺様にもこんな風に笑いかけてきてたっけか

俺様が、エリーを突き放す様になってから、ずっと見た事ない姿だ


…おかしい…

サクラのいる場所は、本来なら俺様のいるべき場所だ

なのに、何故そこにお前がいる?

…あれ?

いつから、こんな風になっちまったんだ?

こんな筈じゃ…


と、ショウ達が話をしていた一方で、何故かゴウランはタイジュと共にいた。