イケメン従者とおぶた姫。

自宅へ連れ帰ったハナは、早くお風呂に入りたいというアラガナの強い要望で急いで風呂の準備をしようとしたところ…

既に、浴槽であるドラム缶にお湯が入っていた。

まさかと思い、ハナにしがみついて離れないアラガナを見ると


「…一緒に入りたい…」

そう言ってきたのだ。

やはり、そうだ。このお湯はアラガナの魔導で作ったものだった。

水と火の融合魔導だろうか?

お湯加減も調整できるなんて、一体この子はどれだけ有能なのだろうかと驚きを隠せなかった。

それは、さて置いてだ。


「…一緒にってな…あんな…」

と、言いかけてハナは口を摘むんだ。

だって、

“あんな怖い目にあって”

そんな事を口走ってしまったら、せっかく少しだけ落ち着きを取り戻しつつあるアラガナの傷ついた心を掘り起こしてしまう。


「ドラム缶じゃ、一人しか入れないよ。」

ハナがそう言うと


「…じゃあ、ボクの体…ハナが綺麗に洗って?」

アラガナはそんなお願いをしてきた。

何故、そんな事を言ってくるのか分からないが震えの止まらないアラガナに


「服は自分で脱げるかい?任せな!しっかり、隅々まで綺麗に洗ってやるよ!」

困惑しつつ、何が正解か分からないままハナはアラガナの要望通りにしようとした。

すると


「…手が震えて脱げない。ハナが脱がして?」

そう言ってきたのだ。

確かに全身が震えている。これじゃ、立っている事さえ難しいかもしれない。

だけど、ルカに襲われて全身汚く思えて仕方ないのだろう。

早く、全身を洗って綺麗にしたいと精神的にも追い込まれているに違いないと思った。

だから、ハナはアラガナを抱きかかえたまま器用にアラガナの服を脱がせていった。

その様子をアラガナは、ジッと見ている。なんだか観察されてる気がして居心地の悪いハナだ。


「じゃあ、風呂に入れるぞ。」

そう言ってアラガナを確認しながらお風呂に入れたハナ。
そして、浴槽が汚れるのも構わず、風呂の中にアラガナを入れたまま石鹸でアラガナの頭を洗いはじめた。


「このまま、顔も洗っちまって大丈夫かい?」

と、聞きゴシゴシと頭と一緒に耳周辺を洗い始めた時だった。


「…そこ、アイツにいっぱい舐められたよ。」

アラガナはそんな事を言ってきた。
その言葉に一瞬だけハナの心臓が止まったような感覚に陥った。

思わず、洗っていた手が止まってしまったハナ。その手を取り、アラガナは頬に触れさせてきた。


「…ハナが、来る直前までここ、たくさん吸われたり舐められたりした。いっぱい、そこにキスされた。」

ハナは複雑な気持ちで、ルカに叩かれ腫れ上がったアラガナの頬をなるだけ痛くしないようそっと洗った。

それから、アラガナはハナの手を自分の胸に持ってきて


「…ずっと、ここ弄られて痛い。腫れてるかもしれないから優しく洗って?」

そう言いながら、ジッとハナを見上げてきた。

やっぱり違和感を感じる。

どうして、そんな探りを入れるように私を見てくるんだとハナは、どうしたらいいのか分からなくて「…そっか、分かった。」と、答えるしかなかった。

次にアラガナは魔導の力でお湯の上に浮かび、ハナの前に足を出してきた。


「ここからここまで、いっぱい撫でられて気持ち悪かった。」

と、ハナの手を足のつま先から太ももの付け根に掛けて触らせた。


「…ね?凄く気持ち悪かったから、ちゃんと洗って?」

…どうしよう…

アラガナの気持ちが分からない。

こういう時、どうしたらいいんだ?

繊細な子供に対しどう接すればいいんだ?

と、ハナは泣きたい気持ちだった。


「……ハナさ。ボクに嘘ついてるよね?」

…え?


いきなり、どうした!?ハナは、困惑しアラガナをジッと見てしまった。


「…ここも、ちゃんと洗って?」

そう言って、触れさせてきたアラガナのまだまだ小さなアラガナくんと可愛らしい桃。

ハナは陰部という事もあり、ちょっと戸惑う気持ちもあったが、それはほんのちょっとだけでゴシゴシと丁寧に洗ってあげた。


「…よし!綺麗になったよ。」

ハナがそう声を掛けてもアラガナは「…うん」と、小さく返事をするだけで何か思い詰めたように考えてる様子だった。小さな体が更に小さく見える。

そんな子供をハナは抱き上げて、大きなタオルで全身を拭き服も着せた。


「そろそろ寝よう。」

いつも通り布団を端と端に離して敷いたが、一向にハナから離れようとしないアラガナに


「…眠れないかい?」

と、聞くと小さく頷き


「…怖いから一緒に寝て?」

そう言ってきた。ハナは「いいよ。」と、大きな手でアラガナを撫でると一緒の布団に入った。

何の会話もなく無言のまま、眠れない時間だけが過ぎていく。
背を向けて寝るハナに、アラガナはピットリとくっ付いていてハナは疑問が湧く。


「…一緒にいて怖くない?」

「……怖くないよ。」

「そっか…」

「ハナだから怖くないよ。」


そう言われた時、ハナの心臓は迂闊にもドキリとした。
その大きな振動を肌で感じたアラガナはドキドキしながらハナの足の間に折れそうなくらいに細い足を食い込ませてきた。


「…ハナだったら、いいよ?」

アラガナは、ハナの大きな背中にチュッとキスをした。


…ドックン、ドックン…!


「…ねえ、ハナ。ボクは凄く怖くて心細いんだ。こっち向いてギュッてして?
ボクの事…好きにしていいから。ハナにボクの全部あげる。」


…ズキン、ズキン…

こんなの子供がいうセリフじゃない…こんな…!


思わず、ハナは自分の体をアラガナに向き直し大きな手でアラガナをぎゅうぅ〜〜っと抱きしめ


「大丈夫だからな!もう、大丈夫!」

と、なんの根拠のない言葉を繰り返し言って泣いた。大きな体が小刻みに震えるのを感じアラガナは


…やっぱり、ハナはバカだなぁ…

ボクの事でそんなに苦しまなくていいのにさ

きっと、凄く傷ついてる

…不器用過ぎるよ…

守ってあげたいな

ハナの事、誰も分かってくれなくてもボクだけはハナの味方であり理解者でありたい


ハナは温かくて柔らかいなぁ

…気持ちいい…


…ねえ、ハナ

ボクにいっぱい触って?

いっぱいいっぱいキスして?


そんな気持ちで思い余ったアラガナは、すぐ目の前にあるハナの胸にちゅうとキスをしてハナの手を掴み自分のお尻に誘導した。

ハナの体が強張ってるのが伝わってくる。


「……ハナ。シてくれないの?
ハナは、ボクの事いやらしい目で見てるんでしょ?ボクとエッチしたいんでしょ?いいよ。して?」

アラガナの言葉に、嗚咽混じりのハナの泣き声が聞こえた。


…どうして、そんなに泣いてるの?

嬉しくないの?

不安になるアラガナに


「…自暴自棄になっちゃダメだよ!もっと、自分を大事にしなっ!」

ハナは声を荒げ、注意すると力いっぱいにアラガナを抱き締めた。


…ああ…

やっぱり…そうなんだ…


ズキン…


「…ハナは酷いよ。」

「…そうだね。もっと、慎重に動かなきゃいけなかった。お前から目を離しちゃいけなかった。」

「違うよ!そこじゃないっ!!
ハナは、ボクの事エッチな目で見てるって言ってたくせに!嘘ついてたんだよね?」


「…ん?そりゃあな。
危機感が無さすぎるお前に警戒心を持ってほしかった。
あと、そういう危ない輩がいるって事を知っておいてほしかった。その意識があるだけで大分違うもんだ。」


…どうして…

…ボクは、ハナが好きなのに…

なのに、こんなにハナの事好きにさせておいて、肝心のハナがボクに興味がないとか…!

ねえ、酷すぎない?

ハナは残酷だ


アラガナは、ハナの胸の中で泣いた。

そんなアラガナに、ハナは

「ごめんな、ごめんな…」

と、謝ってきた。


…ごめんなんて言わないでよ!

どうせ、バカなハナの事だから守ってあげられなくてゴメンって謝ってるんだろうけど

違うからね!!


本当にバカ過ぎる!


…でも、そんな所も可愛いって思っちゃうボクは、もっとバカ…


…好き…大好きだよ、ハナ


こんなに繊細でか弱いなんて男として、どうかって思うけど。

ボクは、ハナのそんな所も可愛いって思うんだ


ずっとずっと側に居て、守ってあげたい


…きゅぅぅ〜んっ!


どうしよう…この気持ち…

止まらないよぉ〜…

…離れたくないよ、ハナ…


どうしたら、ハナはボクを一人の男として見てくれる?

どうしたら、ずっと一緒にいられる?


と、アラガナは考えた。考えて考えて…眠れないまま朝が来てしまった。


多分、ハナはボクの招いた事件のせいで責任を取らされてクビになるに違いない

だったら、ボクの世話係としてハナを側におく?

…いや、それは父上と母上が許してくれない

じゃあ、どうすれば…


と、ごちゃごちゃと考えているうちに、気がつけば城の応接間で商工王リュウキと向き合う形で座っていた。

だけど、ハナが自分の隣に座ってた事にホッとした。


「話はあらかた、ハナから聞いた。
アラガナを誘拐、監禁、強姦未遂した犯人は無事に捕まった。事も事なだけに、一生牢獄から出てくる事はないだろう。」

その話を聞いて、アラガナはホッとした。


「しかし、今回の件。ハナの失態は決して許されるものではない。」


…あ…

と、思った。

自分が悪いのに、ハナの言いつけを破って逃げ出したのは自分なのにと


「叔父様!今回の事はボクが悪いです!ハナは全然悪くないっ!!」

そう、抗議した。だが


「それでも、お前を危険に晒した事には変わりない。ハナの責任だ。」

ハナを責め立てる容赦ないリュウキの言葉に、今さらながらに


なんて軽率な行動をしてしまったんだ、ボクは…

ハナは悪くないのに、ボクが悪いのに…全部ボクのせいだ

ボクがいくら弁解しても、どうしても全ての責任がハナにいってしまう


と、アラガナはサー…と血の気が引くのを感じた。

だが、そんなアラガナにハナはポンポンと優しく頭に触れると


「あはは!大丈夫だよ。」

なんて、笑っていた。

なんとも居心地の悪い空間だ。
そこで、アラガナは一か八かリュウキにある事を持ちかけてきた。


「聞いてもいいですか?」

いきなりの質問に、渋い顔をしたままリュウキは


「どうした?言ってみろ。」

と、言って来た。


「この事件について知っている人は、叔父様とハナとボク以外にいますか?」

まさか、そんな感じの質問がくるとは思わなかったリュウキは


「今のところはいない。この事件について、これからどうするべきか相談する為にお前達を呼んだ。」

そう答えてきたのだ。


…これだ!!!

アラガナはそう思った。ここで、全てが決まる。そう、直感していた。


「結論から言えば、その報告はハナの早とちりです。」

アラガナの言葉に、ハナは驚きアラガナの顔を見た。リュウキも少々驚いたものの、アラガナの次の言葉を待った。


「早とちりだと?」

「はい。ボクは、その犯人から拉致、監禁もされてなければ強姦されそうになった事実もありません。」

その言葉に、ハナだけでなくリュウキも驚いてアラガナを見た。


「だが、お前はルカの家に荷物を送っていたそうだが?」

「ああ、それは単に城に預けてた荷物も要らないしどうしようかなってぼやいてたら、うちには君と同い年の息子がいるからくれないかって言ってきたのであげたんですよ。」


「…昼食後、お前の姿が見当たらなくハナが探し回ってたようだが?」

「それは、……気のせいじゃないですか?ボクは、“どんな手段を使ってもいいから自分を捕まえろ”と、いうハナの訓練をしていましたから。」


「…話が見えないが?」

「どうしてもハナを捕まえられないボクは、ハナの目を眩ませる事にしたんです。つまりはあちこちに移動しながら隠れていました。
ボクが居ないって油断している隙にハナを捕まえるという作戦です。
だから、ボクの姿が見えなくて当たり前です。」


「…ほう?ならば、昼食後にルカと一緒に城を出て行くお前の姿。ルカの家の中に入って行ったお前の目撃情報が多くあるが?」

「気のせいですよ。誰が好きこのんで、自分の息子を犯して殺したって自慢する悍ましい殺人者に着いて行くんですか。
いくら、口から出まかせを言ってたとしても、冗談でもそんな事を言う人は警戒しますよ。」


「第五部隊副隊長ルカが、そんな事を言っていたのか?」


「はい。そりゃあ、もう自慢気に。
浮気性の妻が穢らわしい。自分は汚い妻のせいで穢れない子供を犯すのが趣味になったんだって言ってました。」

「その話が真実かどうか、ルカの家を家宅捜査してみよう。」

そんな風に、アラガナとリュウキだけで話はどんどんと進んでいった。

二人の話に、ハナの頭は全くついていけず何が何だか分からないうちに話は終了していた。


「ハナ。この話は、なかった事にする。」

「…え?なんで…」

と、言いかけ強い視線を感じアラガナを見ると、フルフルと頭を振ってみせた。


…ズキ…

このまま、この話が長引けば長引くほどアラガナの傷ついた心は抉れるばかりって事なんだろうか。

なんで、こんな幼い子供がこんなに傷つかなきゃなんないんだと、ハナは凄く心が痛かった。


そんな様子のハナを見ていたアラガナとリュウキは、そうでもあるけど違うんだよなぁ。そこには気づけないんだよなぁ。

可哀想だが、いつ何処で誰が聞き耳立ててるか分からないからこれ以上は言えないけど。


結局、ルカの家を家宅捜査したところ、数体の子供の死体の発見、写真、PCなどから多くの証拠が集まった。
それらは、あまりに残忍かつ凶悪な事件として死刑が言い渡された。


事件も解決し、アラガナの訓練も無事終了。

アラガナは、礼儀正しくリュウキやハナにお礼を言って帰って行った。

あまりに、呆気なく帰って行くアラガナに、ハナは寂しさを感じていたらしく

アラガナ・ロスで、一週間ほどハナはシュン…と元気を無くすし、時折ポカーンと上の空になっていて使い物にならなかった。

ハナによく懐いていたアラガナが元気を無くすっていうのなら分かるが、まさか楽観的で単細胞なハナがこんなになってしまうとは意外だったが。

まさか、アラガナ一人でこんなポンコツになってしまうとは。

だが、リュウキはおかしいと感じていた。


アラガナがまだ商工王国で社会勉強をしていた時。

ハナから毎日のようにアラガナの様子を聞いていたし、何度かハナを交えてアラガナと会って話す機会もありリュウキは感じていた。

ハナに恋しちゃった、生意気な天才がこんなにもすんなりと大人しく家に帰るのだろうかと。

何か、物凄い事を企んでるんじゃないかと勘くぐってしまう。


なにせ、アラガナ拉致・誘拐・強姦未遂の事件に巻き込まれ

アラガナの教育係であったハナに重い処分が下されるのを想定し、ハナの罪を軽減あわよくば無くそうと、曲者キレもので有名なリュウキを出し抜こうとしたんだから。



あの時は、本当に恐れ入った

アラガナの意図が分かってからは、うまくいくかどうか賭けではあったが

結果、賢いアラガナも俺の考えている意図を汲み取り、それからはとんとん拍子だった

アラガナは、お世話抜きで優秀有能だった

アラガナには驚かされっぱなしだった

叔父のエゴってやつだろうか


と、当時の事を思い出し、これから先あの天才がどんな道に進んでいくのか楽しみだなと考えていた。


だが、リュウキのその考えは見事に的中する事になる。


アラガナがムーサディーテ国に帰って、既に二年の月日が流れようとしていた。


…ある日の事だった…



また、ムーサディーテ国女王の妹と結婚し婿養子になった兄から、

“アラガナを助けてくれ!”

と、いう相談を持ちかけられるのだった。

今度は何があったのだと聞くと


商工王国から帰ってきたアラガナは、とてもいい子になっていた。
勉強や運動はもちろん、親や周りも気にかけて、人を見下すという事も減り学校での評判もかなり良かったという。

自分も妻も、本当に自慢の息子で誇りに思っていた。

ところが、一年ほどそんな素晴らしい日々を過ごしていたのだが、ある日を境にアラガナは学校を休むようになり…遂には不登校になった。

心配になった自分達は、何度もその理由を聞いた。だが、答えてくれる訳もなく…

しかし、自分達の気持ちが伝わったのか
それから二週間ほど経って、部屋の中に引きこもっていたアラガナが出てきた。

そこで、アラガナから衝撃的な話を聞いた。


「……先生が、エッチしようって言ってボクにキスしようとしてきた。
ボクは怖くて、そこから逃げたんだけど…先生が、逃げたら内申書を落とすって脅してきたんだ。
…でも、ボクは先生に何されるか…そっちの方が怖くて逃げてたんだ。」


ショックだった。

教育者である立場の人間が、子供に対しそんな愚かな行為をしようとするなんて。
国でトップクラスのエリート小学校だと安心していただけにショッキングな話だったよ。


その教師は、それ以前にも執拗にアラガナの体に触れてくる事が多かったみたいだ。

だが、そんな胸糞悪い出来事があったせいだろう。アラガナは、急に性に強い興味を持ってしまったらしい。

引きこもり中、トイレや入浴の為に部屋から出た時…

“うっかり屋さんのアラガナ”

は、たまに戸を閉め忘れる事もあってね。

俺達夫婦は、そこで衝撃を受けた。

アラガナのPCから、小学生が見るべきではないアダルトな動画が流れていたからだ。

ショックのあまり気を失いそうになる妻を支えながら、まさかと思いつつもアラガナのPCや携帯の履歴を調べた。

すると、おびただしい程のいかがわしい動画の検索履歴が残っていた。それも、毎回のように見ているようだった。


俺達夫婦は、アラガナを精神的に追い詰めた教師を恨んだよ。

だが、それから少し経ちこれからどうしたらいいものかと悩んでいた、ある日…

俺が仕事から帰って来た時、泣きながら助けを求めるアラガナの声が聞こえた。嫌な予感がして、声のする方へ急ぐと

乱れた服のまま、泣きながらこっちに向かって来るアラガナの姿があった。

驚いて、何があってのかと聞けば…言いづらかったのかしばらく無言だった。

だが、アラガナの乱れた衣服と助けを求めるように必死になって逃げる様をみて何となく察しがついた。

この屋敷の使用人、あるいは出入りする客人に性的なイタズラをされそうになったのだろうと。


そして、アラガナがだいぶ落ち着きを取り戻した時に再度問いただした。

アラガナに恐怖を植えつけた奴を絶対に許さないと強い怒りを感じながら。
だが、アラガナから発せられた言葉に俺は崖から突き落とされた気持ちになった。


「……母上が…

“そんなにエッチに興味あるならママが教えてあげる”

って言って…ボクに触ってこようとした。」

そうか…だから、この場に妻の姿がないのか!

と、…ゾッとした。

それからだ。

アラガナは、誰のことも信じられず人間不信になった。

あんな事をした妻はもちろん……俺に対してもだ。

誰に対しても心を閉ざしてしまったアラガナは……遂に手のつけられない不良になってしまった。


日に日に増えるピアス……そして、遂にはタトゥーまで入れはじめた。

その内、だんだんと家にいる時間も少なくなってしまって…今では全く寄り付かなくなってしまった。

そこで聞こえてくるのは、アラガナの悪行ばかり。あまりの強さに手がつけられなく

“無敵の王”

と、恐れられるようになってしまった。

そして、遂には王族の名に傷がつく事を恐れた親戚達は、アラガナと縁を切るように迫ってきてる状態だ。

あれから妻は、愛人を作り遊び呆けるようになってしまった。

…もう、どうしたらいいのか分からないんだ。

なんて、とんでもない状況に陥ってしまった事を打ち明けてきた。


アラガナの再教育で、お前に預けた時。アラガナは見違えるように素晴らしい子供になった。

だから、今回の事もお前なら何かいい改善策を思いつくんじゃないかと思い、恥をしのんでここに来たと兄は言った。


アイツ、やりやがったな

と、リュウキはアラガナのある計画に気付いてしまった。


ぶっ飛んでやがる

しかし、周りの大人達をよくも、まあ…上手く出し抜いたもんだ

緻密に計算された計画なのだろうが、それを実行してしまう大胆さ

…ハハ!嫌いじゃないぜ


面白い!

お前がどれだけやれるか

そして、お前の覚悟ってやつを見せてもらおうじゃないか


それ次第で、俺はお前の望みを叶えてやろう


そこで、リュウキはアラガナの決意と覚悟を確かめるべくある事を実行した。


「兄上の話では、アラガナは大勢の不良をまとめ上げるトップになったんだったよな?」

「…ああ、そうだ。あまりの強さ。そして、アジトの場所も変わるから警察もお手上げ状態らしい。…何より、アラガナには王族って肩書きもあるからな。それが一番厄介なんだろう。」

と、肩を落とす兄。


「分かった。なら、その組織を壊滅させよう。」

なんて、リュウキが言うもんだから


「ど、どうやって?お前は分からないんだ!アラガナの異常なまでの強さ、そして怜悧な頭脳を!!」

と、言ってリュウキを見た瞬間、リュウキの兄はハタっと止まり、「…あ」と、何か思い立ったようだ。

「いや、だがしかし!そうだ…そうだ!!確かに、お前だからな。
…俺が知る限りでは、アラガナに対抗できるのはお前しかいない。…頼む!俺の息子、アラガナを助けてくれ!!」


と、深く頭を下げてお願いしてきた。

その姿をリュウキは複雑な気持ちで眺めていた。


「…だが、気をつけてくれ!アラガナを12才の子供と侮ったらダメだ!!」