ミミを警察から引き取り宿に向かっている道中の事だ。
結果的にミミとレッカの女神像破壊の罪は無実ではあったが、
国のシンボルの一つである女神像破壊で警察沙汰になり、ニュースにも報道され大騒ぎになってしまった事で、ミミは人々に注目され騒ぎになる恐れがあるので
当分の間、騒動が落ち着くまで目立たないようにして下さいと、警官から忠告を受けていた。
なので、一行はアプリ携帯のナビで、なるべく人通りの少ないルート探し出し人目を気にしながら歩いていた。
堂々としているのは、サクラとオブシディアン、ロゼ…そして、ミミくらいだ。
堂々とし過ぎて、サクラなんていつも通りを通り越して今日に限って饒舌にショウにお説教している。
…やめろ!
いつも、あまり喋らないくせに何故、今に限ってそんなに口数が多いんだ!!?
注目されたら、どうするんだとヨウコウ達はヒヤヒヤしている。
「よろしいですか?ショウ様。
いくら、ペットのような姿をしていても、その姿に騙されてはいけません!
その新参者はショウ様に下心を持っている“男”なのです。
そんな戯れ方をしてはショウ様に気があると勘違いされ、いつ襲われてもおかしくないのですよ?」
「…ロゼ、こんなに可愛いのに?子猫ちゃんだよ?」
ショウはロゼに猫を可愛いがるように頭や背中顎などを撫でたり抱っこしたり、挙げ句に頬同士をスリスリ、極め付けはチュウをしたりして喜んでいた。
ショウにとっては変化したロゼはどうしてもペットのようにしか思えず、その愛らしい姿に我慢できず可愛がっちゃうのだが。
それを見る度にサクラは、ペットではない男なんだから弁えてと目を釣り上げて言ってくる。
それでも、ショウはピンとこずペットに接するようにロゼを可愛がっちゃうのだ。
だって、凄くすっごく可愛くてたまらないから。
それには、サクラは頭を抱えてるし…ぶっちゃけロゼが羨ましい。
ショウがロゼを可愛がるのを見る度に、嫉妬でロゼを地面に叩き落としたくなる。
しかも、ロゼのヤローはちゃっかりと常にショウの頭か肩に乗ってご満悦そうにしている。
たまに、ショウに抱っこしてもらっている時もあり…羨ましい…。
…くそっ!
自分も変化の術が使えたらショウ様とイチャイチャできたのに!!
と、サクラは悔しくて仕方ない。
変化の術が出来るかどうか、何度かこっそり試みたが微塵もかすりもしなかった。
自分の能力の無さにムカつく!
あの新参者は猫に似た生物に変化しているが中身は人だ。
れっきとした男で、ショウ様に対し自分と同じ気持ちを持っている。
なのに、新参者だけあんなに可愛いがられて自分だけ不公平だ!
ロゼは人の姿になれば、
ショウと同い年くらいの少年になり…悔しいが年齢的にお似合いに見える。
自分だってショウと同い年だったらどんなに良かったかと何度思った事か。
と、ロゼを羨むサクラだが
ロゼはロゼで、年上のサクラは大人の余裕と包容力があるように感じ、
自分が年上の余裕でショウを包み込んであげられたならサクラのようにショウに頼りにされたい。
ショウのお世話だってしたい!
ショウに甘えるのはこの上なく大好きだが甘えるだけでなく、サクラのように年上の余裕でショウを思う存分甘やかしたい!!
と、サクラが羨ましくて羨ましくてたまらないと思っているのだ。
結局の話、
サクラとロゼの当人達は気づいてないが、互いに無いものねだりで嫉妬し合っているだけ。
お互い様なのである。
そんなやり取りをしながら宿に向かい歩いていると、ロゼの存在が気になっていたヨウコウ達はようやくその事について触れようとしていた。
何故、今なのかはお察しの通り。
朝早くに、ミミの事で警察からお呼ばれされそれどころではなかったからだ。
それから、ミミの
“自分は無実だむしろ被害者だ、私可哀想”
と、いう訴えを聞かされ。
その間もヨウコウ達はロゼの事は気になっていたが、それでもヨウコウはミミの話が最優先だと懸命にミミを慰めていた。
だから、ゴウランとミオもそれに付き合う羽目になり、
ミミの話が落ち着くまでロゼの事について触れるに触れられない状態だったのだ。
ゴウランとミオは、
何でこんなミミの嘘っぱちの話に付き合わなきゃいけないんだ。
時間の無駄だ。
ヨウコウもいい加減、ミミの本性に気づけ!
何で気づけないんだ!
馬鹿か!!
と、イライラが積もるばかりだった。
しかも、最初からミミもロゼの事が気になっていたが、
何せん事が事なだけに懸命に嘘に嘘を重ね
“自分は悪くない、何か勘違いされて何が何だか分からないうちに警官に連れて行かれた”
と、懸命に弁明していた。
ただ、女神像についての事だけは、
本当に何が起きたのかさっぱり分からなく、これだけは濡れ衣を着せられ無実の罪に問われ可哀想な目にあったとは思うが。
そして、ミミが言いたい事だけひとしきり言ってミミの中だけでひと段落ついた所で
ミミはショウの元へと駆け寄り、ショウの肩に乗っているロゼを見て
「わぁぁ!かわいぃぃ〜〜〜!
すっごく綺麗な…猫?…う〜ん…なんか違うなぁ…う〜ん…。
でも、可愛いからどうでもいっか。
その仔猫、デブスのペット?どこで見つけたの?」
と、ショウに聞くも、すぐに返事がなかったのでロゼに顔を近づけ
「すっごぉぉ〜い。左右のお目々が色違いだぁ!
これ、オッドアイっていうんだよね?はじめて見たぁ。宝石みたいでキレイ。
見た事ない種類のネコちゃん…(?)だけど、どんな動物や妖獣、魔獣よりも全っっ然キレイだし可愛いぃぃ〜〜っっ!!
ミミ、この仔猫ちゃん絶対欲しぃぃ〜〜〜っっ!!!
デブスにこんなものすっごい美人なこねこは似合わない!!どっから盗んできたんだよ!
おい、デブス!
このこねこちゃん、もちろん可愛いミミにくれるよねぇ?」
二重人格かと思うほど、ショウとロゼに対する態度が違う。
ミミはお気に入りと見下してる相手とで態度は180度変わるのだ。
その変貌ぶりには、いつまで経ってもショウは慣れずギョッとしミミが怖くて固まってしまっていた。
そんなショウを鼻で笑うと
「こねこちゃぁ〜ん、ミミの所においでぇ?こんなデブスの所にいたって不幸になっちゃうだけだよ?
コイツはぁ、超絶貧乏の教養もないなぁ〜んにもできない出来損ないなんだよぉ〜。
見ての通り、超絶ドブスの無限大のデブで一緒にいるだけで恥ずかしい存在の底辺デブスなんだよ。
ミミはぁ、すっごく可愛くってぇ、料理とか掃除洗濯も得意だしぃ、優しいしぃ、家庭的なのぉ。
だからぁ、ミミの所に来たらぁすっごい幸せになれるよぉ。
可愛いミミとぉ、かわいいこねこちゃんが一緒だとお似合いでしょ?」
なんて、いつ息継ぎしてるんだというくらいに人を貶し自分自慢をすると、ヨウコウ達に見えるように可愛こぶりながら自信満々に
おいで、おいでぇ〜とロゼを撫でようと手を伸ばした。
その姿に、ヨウコウは相変わらずミミは可愛いな。
今夜も可愛がってやるかと下心丸出しに、優し気な笑顔の奥では目をギラギラギラつかせてミミを見ていたし、
あの美しい美獣には、
才貌両全かつ王子である自分こそが相応しいとヨウコウはロゼを自分のモノにしようと目論んでいた。
ゴウランとミオはというと、ミミに対しかなり苛立っていた。
ミミが警察沙汰を起こしみんなに多大な迷惑をかけておいて謝罪が少しあっただけ。
謝罪といっても、
“無実のミミは悪くないもん”!
だから、いっぱい慰めてほしいという魂胆が見え見えの口先ばかりの謝罪で悪いなんて気持ちは一切なく感じた。
それからはミミの一人演劇場の始まりだ。
“濡れ衣だ”
“自分は悪くない”
“自分は可哀想でしょ?”
“可哀想な私をいっぱい慰めて?”
のオンパレードで、聞くのが苦痛でしょうがなかった。
これが、全て本当なら親身になって話を聞いていただろう。
だが、ミミは自分の都合のいいように平気で嘘をつく。
男性関係にだらしない下半身ユルユル女だって事は知っていたので、シラけるしかない。
挙げ句の果ては自分が言いたいだけ言うと、ヨウコウ達を差し置いてショウの肩に乗っている美しくも愛くるしい美獣の元へと走り寄って行ったのだ。
自分達だって、あの美獣が気になっていたが、ミミの話を聞かなければならず我慢していたというのに。
あまりに自分勝手過ぎないか?
と、ゴウランとミオは頭に血が上り爆発しそうになる。
ちなみに、ミミのこんな行動にもヨウコウは
“やれやれ。困ったやつだな。”
と、それさえも可愛いと包容力の高い彼氏を気取っていた。
(単なるセフレであって、決して付き合ってはないのだが。)
そんな様子のヨウコウにも、ゴウランとミオはイラッとしていた。
チームに入ったばかりのシープも、
この女はヤバイとは思っていたがここまでとは呆れる。
裏表ありすぎで恐ろしい女だ。
と、人間不信になりそうになってしまった。
まさか自分がそんな風に思われてるなんて露程にも感じてないミミは、可愛こぶりながらロゼを撫でようと手を伸ばした。
次の瞬間だった。
【何かが起こった。】
みんな何が起きたのか理解できず、しばらくの間フリーズした。
だが
「そのような汚らわしい手を我に近づけるでない!!」
と、いうロゼの怒鳴り声でみんなフリーズから解き放たれ
「…う、ウワァァァッッッ!!!!!???」
「…ッッッ!!!?な、何が起こったというの?」
「……ッッッ!!!!!!????」
それぞれに、悲鳴やら声にならない声をあげていた。
その声でミミもようやく自分に起こった事に気がつく。
ロゼの頭に伸ばした筈の自分の右腕が見えない。
何度、自分の手を見ようと意識して動かしても、自分の目には手が映らなかった。
自分の腕はどうしてしまったのかと恐る恐る右腕を見ると…
「ギャァァァァァァァーーーーーーーーーッッッッ!!!!!???み、みみミミの腕が、ミミの腕がナクナッテルゥゥゥゥッッッ!!???????」
ミミの腕は綺麗に斬られ根元から綺麗サッパリ消えていた。
しかも、何故か血は出ておらず骨や筋肉など人体模型の見本みたいだった。
…ミミの腕はどこへ行ってしまったのだろう。
ショウも、目の前のソレに恐怖で
「…ひゃ…ヒャァァァァッッッ!!!!????」
と、悲鳴をあげ腰を抜かし
「ショウ様!!!」
サクラに抱き支えられていた。
その様子を見たロゼは
「お主様をこんなに怯えさせるとは!
そんなグロいモノまで見せおって!!!ならば、全部消してしm…」
と、言いかけた所でサクラは、ハッとし
「ショウ様!ロゼに“やめろ”と命令して下さい!!今すぐに!!!」
焦った様子でショウにお願いをした。
ショウも訳が分からないが、サクラの切羽詰まった様子に言われるがまま
「…ろ、ろろロゼ、ダメ…!」
恐怖で声になっているか心配なカスカスの声だったが、ロゼには伝わったらしい。
ミミは全て消される前に…上半身だけ消え…
ボトリとミミの下半身が地面に倒れた。
それは綺麗に斬られていて血抜きをしたのかと思うほど一滴も血が流れなかった。
代わりに、中の内臓が重力に逆らえずゆっくり中から出てきている。
…上半身はどこに消えたのだろうと思う。
そして、グロ過ぎて目を逸らしても目を瞑っても瞼の裏にその光景が貼りつき消えない。
それを目の当たりにした一同は、
これが現実に起こっている事なのか驚きと恐怖で全身が凍りつき身動き一つできずいた。
一歩でも動けば、少しでも声を出せばミミの二の舞にされるのではという無意識の恐怖心からである。
「…ヒッ…!な、なんでミミさんの体がき…きき消えちゃったの!!?」
ショウは恐怖から、ガタガタ震えが止まらず必死にサクラにしがみついていた。
そんなショウをロゼは可哀想に思う。
ショウが怖がってると、何が何でも守らなきゃって強い使命感が出る。
ミミに対し嫌悪こそあったが関わりないからとスルーしていたが、
何故か自分に近づいてきた挙げ句、大好きなショウの悪口を言ってきて腹の底から怒りが湧いてきた。
ショウもとっても傷ついている。
そんな時だ。
あろう事か自分を触ろうとあの性悪女が手を伸ばしてきた。
あまりに気持ち悪過ぎて咄嗟的にあの女の腕の根元を切り燃やし塵にした。
女の腕の断面のグロさに、ショウが恐怖して青ざめ悲鳴をあげていた。
可哀想で恐怖を無くしてやろうとあの女を燃やし消してしまおうと思った。
それに丁度いいと思ったのだ。
あのミミとかいう性悪女が消えればショウを悪く言う奴が居なくなって喜ぶと思った。
だから、ロゼはショウの為だと思い行動に移した。
だが、しかし
いい事をしていると思ったのに、何故かショウは恐怖していた。
性悪女を消すのをやめろと言ってきた。…どうして?理解できない。
そんなロゼの様子をオブシディアンやシープは見て思った。
これは、まるで…
「…サクラさん!周りから我々が見えないようバリアーをお願いしたい。」
焦ったオブシディアンはサクラを見てお願いすると、サクラも思う所があったのだろう。
青ざめた顔で小さくうなづくと、自分達を隠す為のバリアーを張った。
「…ロゼ。あなたは、何故ミミさんを消そうとしたんだ?」
と、いうオブシディアンの問いかけに、ロゼは聞く耳を持たず恐怖で震え泣いているショウを慰める為に
「…主様はどうして泣いておるのじゃ?
主様を苛める愚か者は、あともう少しでこの世から消えてくれるぞ。
もう安心して良いのじゃぞ?」
たくさんの心配の声を掛けては、
…可哀想なショウ…
大好きなショウが、嫌な思いをしていると自分の心も痛い
と、スリスリと頬ずりをしていた。
オブシディアンは正直これから、どうなるのかお先真っ暗状態だった。
…ロゼが殺人犯になった。
ミミの体は半分…しかも、生命維持する上で最重要な部分が全て失われた状態だ。
こんな状態は大聖女様のS級回復魔導ですら治す事などできない。
…だって、失われた命は戻ってはこないのだから。
もし、これを元通りにできるとしたら時を遡るか蘇生するしかない。
それしかないが、そんな事は自分達人間にはできない事。
もう、駄目だ。
どうする事もできない。
だが、こんな恐ろしい力を持っているロゼを敵に回せば確実に世界は終わる。
野放しにはできない
殺人を犯した事でロゼは逮捕されるだろうが…
それは即ちロゼを怒らせ敵に回すという事。
…どうすれば、いいんだ。
短時間の間にグルグルとオブシディアンは頭を働かせていたが、いい方法は見つからず
今の状態をリュウキに細かく伝えていた所、リュウキはとんでもない事を言い出してきた。
「…最悪な事になってしまったな。
だが、時間もない。
一か八かだが……ーーー」
……!!???
何を頭のおかしな事をと思ったが
王の命令は絶対なので、
こんな馬鹿馬鹿しい事してる暇なんてないのに…
と、思いつつ、オブシディアンはショウにある事を頼んだ。
緊急だから急いでくれ、と。
すると、ショウはあまり意味も理解できないまま
「…ロゼ、お願い。ミミさんを生き返してあげて?」
と、震えいっぱい泣きながらもロゼにお願いした。すると
「…流石の我も死んだ者を生き返す事など出来ぬが…。
あの愚か者の細胞はまだ生きているゆえ、今ならまだ“復元”する事ならできるが。お主様は、あの愚かな女の体を治す事を望むのか?」
ロゼは不思議そうに首を傾げ、不安気にショウに聞いてきた。
ショウは、ロゼの“復元”という言葉にミミが助かるのだと理解し力いっぱいに頷き
「大切な命だから助けてあげて?」
と、必死になってロゼにお願いした。
すると不満気ではあったが、ロゼは
「…お主様がそう言うのであれば…」
そう言った途端、バリアーの外から
「…あ、あれぇぇ?ミミ、いつの間に転んじゃったのかなぁ?」
なんて、ミミの間の抜けた声が聞こえてきた。
サクラやオブシディアン達は酷く驚くと共にショックを受けていた。
下半身の細胞が僅かに生き残っているというだけで全て元通りにしてしまった。
しかも、体が元通りってだけでなく
ちゃんと生きている。
これが復元…?
これは復元というより、蘇生に近いんじゃないのか?
ロゼの力は人の域を遥かに超えているのではないかと恐怖を抱いた。
ミミの復活にヨウコウ達も動揺を隠せずいた。ショウは良かった良かったと喜びの涙を流しながら
「ロゼ、ありがと!」
と、ロゼにお礼を言ってギュウっと抱きしめた。
ロゼは、何をそんなに喜ぶ事があったのか理解できなかったが、
ショウがとても嬉しそうなので、心がとっても幸福で満たされくすぐったい気持ちでいっぱいだった。
「……!…ふ、フンッ!お主様が、どうしてもと言うでな。仕方なくじゃ!」
ロゼは、ソッポを向いて顔を背けるも、長い尻尾をピンと立て嬉しさのあまりシビビビと全身を震わせていた。
黒くて分からないが顔を真っ赤にしているだろう事が丸わかりだった。
だが、ソッポを向いている時間はかなり短く、すぐさま全身を使いショウの頬にス-リスリと顔を擦りつけてきた。
お主様。お主様が嬉いのなら我も嬉しい!
大好き!大好きじゃぁぁぁぁ〜〜〜♾!!
最初こそ口では、ツンとした態度をとっているものの
そのあと直ぐに全身を使い、自分の本音と大好きが止まらないと表現し表情もニコニコ幸せいっぱいそうである。
その様子を見ていたサクラは、ある事を思い出し複雑そうな表情を浮かべると、ある決心した。
ついでに、ミミはまだ上半身が裸な事に気付いていなく人通りの少ない道であったが、たまたまそこを通った人に驚かれ二度見三度見され、ついには立ち止まりガン見されていた。
だって、可愛い美女のポロリなんて、なかなかお目にかかれるものじゃない。
正常な男子ならガン見してもおかしくないだろう。
結果的にミミとレッカの女神像破壊の罪は無実ではあったが、
国のシンボルの一つである女神像破壊で警察沙汰になり、ニュースにも報道され大騒ぎになってしまった事で、ミミは人々に注目され騒ぎになる恐れがあるので
当分の間、騒動が落ち着くまで目立たないようにして下さいと、警官から忠告を受けていた。
なので、一行はアプリ携帯のナビで、なるべく人通りの少ないルート探し出し人目を気にしながら歩いていた。
堂々としているのは、サクラとオブシディアン、ロゼ…そして、ミミくらいだ。
堂々とし過ぎて、サクラなんていつも通りを通り越して今日に限って饒舌にショウにお説教している。
…やめろ!
いつも、あまり喋らないくせに何故、今に限ってそんなに口数が多いんだ!!?
注目されたら、どうするんだとヨウコウ達はヒヤヒヤしている。
「よろしいですか?ショウ様。
いくら、ペットのような姿をしていても、その姿に騙されてはいけません!
その新参者はショウ様に下心を持っている“男”なのです。
そんな戯れ方をしてはショウ様に気があると勘違いされ、いつ襲われてもおかしくないのですよ?」
「…ロゼ、こんなに可愛いのに?子猫ちゃんだよ?」
ショウはロゼに猫を可愛いがるように頭や背中顎などを撫でたり抱っこしたり、挙げ句に頬同士をスリスリ、極め付けはチュウをしたりして喜んでいた。
ショウにとっては変化したロゼはどうしてもペットのようにしか思えず、その愛らしい姿に我慢できず可愛がっちゃうのだが。
それを見る度にサクラは、ペットではない男なんだから弁えてと目を釣り上げて言ってくる。
それでも、ショウはピンとこずペットに接するようにロゼを可愛がっちゃうのだ。
だって、凄くすっごく可愛くてたまらないから。
それには、サクラは頭を抱えてるし…ぶっちゃけロゼが羨ましい。
ショウがロゼを可愛がるのを見る度に、嫉妬でロゼを地面に叩き落としたくなる。
しかも、ロゼのヤローはちゃっかりと常にショウの頭か肩に乗ってご満悦そうにしている。
たまに、ショウに抱っこしてもらっている時もあり…羨ましい…。
…くそっ!
自分も変化の術が使えたらショウ様とイチャイチャできたのに!!
と、サクラは悔しくて仕方ない。
変化の術が出来るかどうか、何度かこっそり試みたが微塵もかすりもしなかった。
自分の能力の無さにムカつく!
あの新参者は猫に似た生物に変化しているが中身は人だ。
れっきとした男で、ショウ様に対し自分と同じ気持ちを持っている。
なのに、新参者だけあんなに可愛いがられて自分だけ不公平だ!
ロゼは人の姿になれば、
ショウと同い年くらいの少年になり…悔しいが年齢的にお似合いに見える。
自分だってショウと同い年だったらどんなに良かったかと何度思った事か。
と、ロゼを羨むサクラだが
ロゼはロゼで、年上のサクラは大人の余裕と包容力があるように感じ、
自分が年上の余裕でショウを包み込んであげられたならサクラのようにショウに頼りにされたい。
ショウのお世話だってしたい!
ショウに甘えるのはこの上なく大好きだが甘えるだけでなく、サクラのように年上の余裕でショウを思う存分甘やかしたい!!
と、サクラが羨ましくて羨ましくてたまらないと思っているのだ。
結局の話、
サクラとロゼの当人達は気づいてないが、互いに無いものねだりで嫉妬し合っているだけ。
お互い様なのである。
そんなやり取りをしながら宿に向かい歩いていると、ロゼの存在が気になっていたヨウコウ達はようやくその事について触れようとしていた。
何故、今なのかはお察しの通り。
朝早くに、ミミの事で警察からお呼ばれされそれどころではなかったからだ。
それから、ミミの
“自分は無実だむしろ被害者だ、私可哀想”
と、いう訴えを聞かされ。
その間もヨウコウ達はロゼの事は気になっていたが、それでもヨウコウはミミの話が最優先だと懸命にミミを慰めていた。
だから、ゴウランとミオもそれに付き合う羽目になり、
ミミの話が落ち着くまでロゼの事について触れるに触れられない状態だったのだ。
ゴウランとミオは、
何でこんなミミの嘘っぱちの話に付き合わなきゃいけないんだ。
時間の無駄だ。
ヨウコウもいい加減、ミミの本性に気づけ!
何で気づけないんだ!
馬鹿か!!
と、イライラが積もるばかりだった。
しかも、最初からミミもロゼの事が気になっていたが、
何せん事が事なだけに懸命に嘘に嘘を重ね
“自分は悪くない、何か勘違いされて何が何だか分からないうちに警官に連れて行かれた”
と、懸命に弁明していた。
ただ、女神像についての事だけは、
本当に何が起きたのかさっぱり分からなく、これだけは濡れ衣を着せられ無実の罪に問われ可哀想な目にあったとは思うが。
そして、ミミが言いたい事だけひとしきり言ってミミの中だけでひと段落ついた所で
ミミはショウの元へと駆け寄り、ショウの肩に乗っているロゼを見て
「わぁぁ!かわいぃぃ〜〜〜!
すっごく綺麗な…猫?…う〜ん…なんか違うなぁ…う〜ん…。
でも、可愛いからどうでもいっか。
その仔猫、デブスのペット?どこで見つけたの?」
と、ショウに聞くも、すぐに返事がなかったのでロゼに顔を近づけ
「すっごぉぉ〜い。左右のお目々が色違いだぁ!
これ、オッドアイっていうんだよね?はじめて見たぁ。宝石みたいでキレイ。
見た事ない種類のネコちゃん…(?)だけど、どんな動物や妖獣、魔獣よりも全っっ然キレイだし可愛いぃぃ〜〜っっ!!
ミミ、この仔猫ちゃん絶対欲しぃぃ〜〜〜っっ!!!
デブスにこんなものすっごい美人なこねこは似合わない!!どっから盗んできたんだよ!
おい、デブス!
このこねこちゃん、もちろん可愛いミミにくれるよねぇ?」
二重人格かと思うほど、ショウとロゼに対する態度が違う。
ミミはお気に入りと見下してる相手とで態度は180度変わるのだ。
その変貌ぶりには、いつまで経ってもショウは慣れずギョッとしミミが怖くて固まってしまっていた。
そんなショウを鼻で笑うと
「こねこちゃぁ〜ん、ミミの所においでぇ?こんなデブスの所にいたって不幸になっちゃうだけだよ?
コイツはぁ、超絶貧乏の教養もないなぁ〜んにもできない出来損ないなんだよぉ〜。
見ての通り、超絶ドブスの無限大のデブで一緒にいるだけで恥ずかしい存在の底辺デブスなんだよ。
ミミはぁ、すっごく可愛くってぇ、料理とか掃除洗濯も得意だしぃ、優しいしぃ、家庭的なのぉ。
だからぁ、ミミの所に来たらぁすっごい幸せになれるよぉ。
可愛いミミとぉ、かわいいこねこちゃんが一緒だとお似合いでしょ?」
なんて、いつ息継ぎしてるんだというくらいに人を貶し自分自慢をすると、ヨウコウ達に見えるように可愛こぶりながら自信満々に
おいで、おいでぇ〜とロゼを撫でようと手を伸ばした。
その姿に、ヨウコウは相変わらずミミは可愛いな。
今夜も可愛がってやるかと下心丸出しに、優し気な笑顔の奥では目をギラギラギラつかせてミミを見ていたし、
あの美しい美獣には、
才貌両全かつ王子である自分こそが相応しいとヨウコウはロゼを自分のモノにしようと目論んでいた。
ゴウランとミオはというと、ミミに対しかなり苛立っていた。
ミミが警察沙汰を起こしみんなに多大な迷惑をかけておいて謝罪が少しあっただけ。
謝罪といっても、
“無実のミミは悪くないもん”!
だから、いっぱい慰めてほしいという魂胆が見え見えの口先ばかりの謝罪で悪いなんて気持ちは一切なく感じた。
それからはミミの一人演劇場の始まりだ。
“濡れ衣だ”
“自分は悪くない”
“自分は可哀想でしょ?”
“可哀想な私をいっぱい慰めて?”
のオンパレードで、聞くのが苦痛でしょうがなかった。
これが、全て本当なら親身になって話を聞いていただろう。
だが、ミミは自分の都合のいいように平気で嘘をつく。
男性関係にだらしない下半身ユルユル女だって事は知っていたので、シラけるしかない。
挙げ句の果ては自分が言いたいだけ言うと、ヨウコウ達を差し置いてショウの肩に乗っている美しくも愛くるしい美獣の元へと走り寄って行ったのだ。
自分達だって、あの美獣が気になっていたが、ミミの話を聞かなければならず我慢していたというのに。
あまりに自分勝手過ぎないか?
と、ゴウランとミオは頭に血が上り爆発しそうになる。
ちなみに、ミミのこんな行動にもヨウコウは
“やれやれ。困ったやつだな。”
と、それさえも可愛いと包容力の高い彼氏を気取っていた。
(単なるセフレであって、決して付き合ってはないのだが。)
そんな様子のヨウコウにも、ゴウランとミオはイラッとしていた。
チームに入ったばかりのシープも、
この女はヤバイとは思っていたがここまでとは呆れる。
裏表ありすぎで恐ろしい女だ。
と、人間不信になりそうになってしまった。
まさか自分がそんな風に思われてるなんて露程にも感じてないミミは、可愛こぶりながらロゼを撫でようと手を伸ばした。
次の瞬間だった。
【何かが起こった。】
みんな何が起きたのか理解できず、しばらくの間フリーズした。
だが
「そのような汚らわしい手を我に近づけるでない!!」
と、いうロゼの怒鳴り声でみんなフリーズから解き放たれ
「…う、ウワァァァッッッ!!!!!???」
「…ッッッ!!!?な、何が起こったというの?」
「……ッッッ!!!!!!????」
それぞれに、悲鳴やら声にならない声をあげていた。
その声でミミもようやく自分に起こった事に気がつく。
ロゼの頭に伸ばした筈の自分の右腕が見えない。
何度、自分の手を見ようと意識して動かしても、自分の目には手が映らなかった。
自分の腕はどうしてしまったのかと恐る恐る右腕を見ると…
「ギャァァァァァァァーーーーーーーーーッッッッ!!!!!???み、みみミミの腕が、ミミの腕がナクナッテルゥゥゥゥッッッ!!???????」
ミミの腕は綺麗に斬られ根元から綺麗サッパリ消えていた。
しかも、何故か血は出ておらず骨や筋肉など人体模型の見本みたいだった。
…ミミの腕はどこへ行ってしまったのだろう。
ショウも、目の前のソレに恐怖で
「…ひゃ…ヒャァァァァッッッ!!!!????」
と、悲鳴をあげ腰を抜かし
「ショウ様!!!」
サクラに抱き支えられていた。
その様子を見たロゼは
「お主様をこんなに怯えさせるとは!
そんなグロいモノまで見せおって!!!ならば、全部消してしm…」
と、言いかけた所でサクラは、ハッとし
「ショウ様!ロゼに“やめろ”と命令して下さい!!今すぐに!!!」
焦った様子でショウにお願いをした。
ショウも訳が分からないが、サクラの切羽詰まった様子に言われるがまま
「…ろ、ろろロゼ、ダメ…!」
恐怖で声になっているか心配なカスカスの声だったが、ロゼには伝わったらしい。
ミミは全て消される前に…上半身だけ消え…
ボトリとミミの下半身が地面に倒れた。
それは綺麗に斬られていて血抜きをしたのかと思うほど一滴も血が流れなかった。
代わりに、中の内臓が重力に逆らえずゆっくり中から出てきている。
…上半身はどこに消えたのだろうと思う。
そして、グロ過ぎて目を逸らしても目を瞑っても瞼の裏にその光景が貼りつき消えない。
それを目の当たりにした一同は、
これが現実に起こっている事なのか驚きと恐怖で全身が凍りつき身動き一つできずいた。
一歩でも動けば、少しでも声を出せばミミの二の舞にされるのではという無意識の恐怖心からである。
「…ヒッ…!な、なんでミミさんの体がき…きき消えちゃったの!!?」
ショウは恐怖から、ガタガタ震えが止まらず必死にサクラにしがみついていた。
そんなショウをロゼは可哀想に思う。
ショウが怖がってると、何が何でも守らなきゃって強い使命感が出る。
ミミに対し嫌悪こそあったが関わりないからとスルーしていたが、
何故か自分に近づいてきた挙げ句、大好きなショウの悪口を言ってきて腹の底から怒りが湧いてきた。
ショウもとっても傷ついている。
そんな時だ。
あろう事か自分を触ろうとあの性悪女が手を伸ばしてきた。
あまりに気持ち悪過ぎて咄嗟的にあの女の腕の根元を切り燃やし塵にした。
女の腕の断面のグロさに、ショウが恐怖して青ざめ悲鳴をあげていた。
可哀想で恐怖を無くしてやろうとあの女を燃やし消してしまおうと思った。
それに丁度いいと思ったのだ。
あのミミとかいう性悪女が消えればショウを悪く言う奴が居なくなって喜ぶと思った。
だから、ロゼはショウの為だと思い行動に移した。
だが、しかし
いい事をしていると思ったのに、何故かショウは恐怖していた。
性悪女を消すのをやめろと言ってきた。…どうして?理解できない。
そんなロゼの様子をオブシディアンやシープは見て思った。
これは、まるで…
「…サクラさん!周りから我々が見えないようバリアーをお願いしたい。」
焦ったオブシディアンはサクラを見てお願いすると、サクラも思う所があったのだろう。
青ざめた顔で小さくうなづくと、自分達を隠す為のバリアーを張った。
「…ロゼ。あなたは、何故ミミさんを消そうとしたんだ?」
と、いうオブシディアンの問いかけに、ロゼは聞く耳を持たず恐怖で震え泣いているショウを慰める為に
「…主様はどうして泣いておるのじゃ?
主様を苛める愚か者は、あともう少しでこの世から消えてくれるぞ。
もう安心して良いのじゃぞ?」
たくさんの心配の声を掛けては、
…可哀想なショウ…
大好きなショウが、嫌な思いをしていると自分の心も痛い
と、スリスリと頬ずりをしていた。
オブシディアンは正直これから、どうなるのかお先真っ暗状態だった。
…ロゼが殺人犯になった。
ミミの体は半分…しかも、生命維持する上で最重要な部分が全て失われた状態だ。
こんな状態は大聖女様のS級回復魔導ですら治す事などできない。
…だって、失われた命は戻ってはこないのだから。
もし、これを元通りにできるとしたら時を遡るか蘇生するしかない。
それしかないが、そんな事は自分達人間にはできない事。
もう、駄目だ。
どうする事もできない。
だが、こんな恐ろしい力を持っているロゼを敵に回せば確実に世界は終わる。
野放しにはできない
殺人を犯した事でロゼは逮捕されるだろうが…
それは即ちロゼを怒らせ敵に回すという事。
…どうすれば、いいんだ。
短時間の間にグルグルとオブシディアンは頭を働かせていたが、いい方法は見つからず
今の状態をリュウキに細かく伝えていた所、リュウキはとんでもない事を言い出してきた。
「…最悪な事になってしまったな。
だが、時間もない。
一か八かだが……ーーー」
……!!???
何を頭のおかしな事をと思ったが
王の命令は絶対なので、
こんな馬鹿馬鹿しい事してる暇なんてないのに…
と、思いつつ、オブシディアンはショウにある事を頼んだ。
緊急だから急いでくれ、と。
すると、ショウはあまり意味も理解できないまま
「…ロゼ、お願い。ミミさんを生き返してあげて?」
と、震えいっぱい泣きながらもロゼにお願いした。すると
「…流石の我も死んだ者を生き返す事など出来ぬが…。
あの愚か者の細胞はまだ生きているゆえ、今ならまだ“復元”する事ならできるが。お主様は、あの愚かな女の体を治す事を望むのか?」
ロゼは不思議そうに首を傾げ、不安気にショウに聞いてきた。
ショウは、ロゼの“復元”という言葉にミミが助かるのだと理解し力いっぱいに頷き
「大切な命だから助けてあげて?」
と、必死になってロゼにお願いした。
すると不満気ではあったが、ロゼは
「…お主様がそう言うのであれば…」
そう言った途端、バリアーの外から
「…あ、あれぇぇ?ミミ、いつの間に転んじゃったのかなぁ?」
なんて、ミミの間の抜けた声が聞こえてきた。
サクラやオブシディアン達は酷く驚くと共にショックを受けていた。
下半身の細胞が僅かに生き残っているというだけで全て元通りにしてしまった。
しかも、体が元通りってだけでなく
ちゃんと生きている。
これが復元…?
これは復元というより、蘇生に近いんじゃないのか?
ロゼの力は人の域を遥かに超えているのではないかと恐怖を抱いた。
ミミの復活にヨウコウ達も動揺を隠せずいた。ショウは良かった良かったと喜びの涙を流しながら
「ロゼ、ありがと!」
と、ロゼにお礼を言ってギュウっと抱きしめた。
ロゼは、何をそんなに喜ぶ事があったのか理解できなかったが、
ショウがとても嬉しそうなので、心がとっても幸福で満たされくすぐったい気持ちでいっぱいだった。
「……!…ふ、フンッ!お主様が、どうしてもと言うでな。仕方なくじゃ!」
ロゼは、ソッポを向いて顔を背けるも、長い尻尾をピンと立て嬉しさのあまりシビビビと全身を震わせていた。
黒くて分からないが顔を真っ赤にしているだろう事が丸わかりだった。
だが、ソッポを向いている時間はかなり短く、すぐさま全身を使いショウの頬にス-リスリと顔を擦りつけてきた。
お主様。お主様が嬉いのなら我も嬉しい!
大好き!大好きじゃぁぁぁぁ〜〜〜♾!!
最初こそ口では、ツンとした態度をとっているものの
そのあと直ぐに全身を使い、自分の本音と大好きが止まらないと表現し表情もニコニコ幸せいっぱいそうである。
その様子を見ていたサクラは、ある事を思い出し複雑そうな表情を浮かべると、ある決心した。
ついでに、ミミはまだ上半身が裸な事に気付いていなく人通りの少ない道であったが、たまたまそこを通った人に驚かれ二度見三度見され、ついには立ち止まりガン見されていた。
だって、可愛い美女のポロリなんて、なかなかお目にかかれるものじゃない。
正常な男子ならガン見してもおかしくないだろう。
