ミミとレッカが警察に連行され、事情聴取を受けている時。


サクラはあまりの事に

「……ウワッ!!?」

らしくなく、思わず小さく声をあげた。
その声に隣の部屋で寝ていたオブシディアンは直ぐに飛び起き、ショウとサクラの部屋に駆けつけた。

そして、その光景を見て驚き固まってしまった。

『…一体、これは…!?』

オブシディアンが動いた事で、シープも何があったんだ?と、眠い目を擦りながら寝ぼけてフラフラしながらもオブシディアンの後を追い、ショウ達の部屋に着くと

やはり、それを見てビックリし過ぎてパッチリ目が覚めてしまった。

「…わっ!!!?」


何故なら

寝ているショウの周りを囲む様にに紅色と緋色のバラで埋め尽くされている。
ショウとサクラは一緒に寝ている為、サクラの上にもバラが敷かれていた。まるでサクラは、ベットの一部か…物扱いされてる様に見える。

そして、何よりショウとサクラの間に割り込むように、ショウの頬に顔を擦り寄せピットリとくっ付いている物体がいる事に驚いた。

それにも気づかず、ショウは呑気に気持ち良さそうに寝ている。


サクラはムッとし、その物体の首根っこを掴みショウから引き剥がそうとした。

すると、その黒い物体は音もなくいつの間にか立ち上がっていて

「……なにっ!?」

サクラは床に倒れていた。

サクラも最初自分に何が起きたのか分かってなく、気がついたら天井が見えていた状態だった。自分が床に倒れた事すら分かってなかったのだ。

それには、オブシディアンとシープも驚くしかない。自分達もよく見えなかった。

まるで数秒間時を止められていたかのような気持ちだ。

そして、サクラ達は黒い物体に注目した。

ショウの前に立っている黒い物体は、布団から5㎝くらい程空中に浮いてる。

全身真っ黒な少年だ。

本当に真っ黒で、肌のも髪の色も黒真珠のように真っ黒だ。

ゆっくり開かれた目は、左右の色が異なるオットアイ。
左目はアメジストのような紫色。右目はイエローダイヤモンドのような金色。

しかし、何たる美しさか。

中性的で体の線は細くモデル体型なせいか儚げで、顔立ちもカッコ良さも可愛さも兼ね備えていて全体的に現実離れした美貌がある為、尊く感じる。

全ての美がこの少年に集まったようなそんな美しさがあった。

そして、タイプ的にはサクラと真逆といっていい容姿で

例えるなら

サクラが闇の中にひっそりとたたずむ蒼白い月ならば、この少年は青空に眩しくギラギラ輝く真っ赤な太陽。

サクラが真っ白な雪国だとしたら、この少年は色鮮やかな南国。

サクラはシンプルな装いが似合うが、少年は派手な装いが似合う。

サクラは冷酷な正義・優等生といった顔立ちだが、少年は熱いヴィラン・不良といった顔立ちをしている。

そのくらいに、容姿のタイプが正反対である。

ちなみに言えば
サクラの髪がサラサラのストレートに対し、少年はウエーブがかった艶々の髪をしている。


嫌な予感しかない。


そんな中、シープは気になっていた事があった。バラの数だ。確か、この国の観光案内のパンフレットにも載っていたバラの色や数。

…まさかとは思うが、ショウを囲むように飾られた二種類の薔薇や本数にも意味があるのでは?と、考えた。…が、そこには少年がいるので近づけずいた。


「お前は何者だ?ショウ様をどうするつもりだ!?」

サクラは、急いで起き上がると敵意剥き出しで眉間に皺を寄せ少年に尋ねるも、少年は無反応でまた目を閉じてしまいショウに抱きつき眠ってしまった。

「ショウ様に触れるなっ!!?」

サクラは怒りを剥き出しにし、少年に掴み掛かろうとするが何度向かっていっても気がつけば天井を見上げてしまってる状態であった。

力の差は歴然である。

ここで、あまりの騒がしさにようやくショウが目を覚まし


「…わぁっ!!?バラがいっぱい!!」

と、自分の周りにある薔薇に驚き

「…ヒャァァッッ!!!?」

目の前には自分と同い年くらいだろうか?見知らぬ少年の後ろ姿。しかも、足元を見ると浮いている。

「…サクラ?」

ベットの前にはサクラが立っており、気配を感じてキョロキョロすればドアの前にオブシディアンとシープが立っていてビックリした。

何事かとドキドキしていると

「ショウ様!そこから離れて下さい!!」

と、焦ったようにサクラが声を発した。何がなんだか分からないショウはパニックになりながらも、サクラに言われた通りここから離れる為にベットから降りようとした。

だが、焦りすぎた事と元々の鈍臭さで、足がシーツに引っ掛かりベットから転んでしまった。

「…フワァァッッ!!!??」

サクラをはじめ、オブシディアン達もそれに焦り魔導を発動させようとしたが

その前に

ショウは床に転ぶ痛さなど感じず、フワッとした感覚がし

……え?

と、思った時には、あの全身真っ黒な少年にお姫様抱っこされた状態だった。

そこで初めて、ショウは少年の顔を見たのだがビックリした!

サクラ以外に、こんなにカッコいい人を初めて見たからだ。


…か、カッコいい…!


それに、なんだかとても安心できて居心地がいい。うまく言えないが、しっくりくる感じ。

今まで、サクラもリュウキも側にいたっていうのに、何だかちょっと落ち着かない様な、寂しいような、欠けてるような気がしていた。

ここまで、しっかり考えた事もないし言葉で表した事もないが、何となくの感覚でどこか足りなく思っていた。

けど、この美少年と出会い

全てのピースが埋まった気がしたのだ。

サクラがいて、この美少年もいる。

ここが、私の居場所だ。そう思った。


美少年は、いつの間にかショウを下ろしていて、ショウと手を絡ませるようにして手を繋いでいた。しかも、顔を傾けショウにピットリとくっ付いている。

まるで、初々しいカップルのようだ。

それを見たサクラは

「ふ、ふざけるなっ!!?ショウ様から離れろっっ!!!」

いきり立っていた。そんなサクラを無視し、美少年は空いてる手の平を胸に持ってくると

そこに吸い込まれるように赤や白などの薔薇が集まり凝縮し手のひら大の薔薇の形を模した色とりどりに輝く透明な宝石へと姿を変えた。
ショウは、見た事もない宝石に目をキラキラ輝かせ

「…ほわぁ〜!こんな綺麗な宝石はじめて見た!!」

と、驚き感動していた。透明な宝石は、黒、赤、白、紅、緋とこの国に植えてあった薔薇とショウの周りを囲む様に飾られていた薔薇の色をこの中に閉じ込めそれぞれの色を反射させ輝いているように見える。


サクラは思った。ショウがはじめて見たというからには、このバラの形をした宝石はこの世でたった一つこの宝石しか存在しないのだろう。

そして、悔しいかな。

この真っ黒な美少年…ダリアと違って嫌な感じがしないのだ。むしろ、何故か“しっくり”くる。

他の誰であろうと、例えショウの父親であるリュウキだろうがショウに近づいたり触れたりすると相手に嫌悪を感じ、仲良くしてると嫉妬で引き剥がしたくなるというのに。

この美少年には、不思議とそんな負の感情が湧かないのだ。…あ、でも少し前言撤回する箇所があった。やっぱり、嫉妬はする。
だが、引き離すような嫉妬ではなく、自分だけ除け者は嫌だという嫉妬。

直感的に自分と“同じ”だと感じる。
そう思ってしまっている自分にサクラは驚き動揺している。

その間に、美少年の手のひらにある宝石は更にグッと凝縮し直径0・5ミリ程くらいまで小さくなった。

美少年はそれを胸の前に浮かせたまま、ショウをベットに座らせ自分は床に膝をついた。

そして、壊れ物を扱うように丁寧に両手でショウの足を持ち上げるとつま先にキスを落とし、次に足の裏、足の甲と続き

静かに足を解放したかと思うと

美少年はショウの手に自分の手を添え、ゆっくりと顔をショウに近づけ

今度はショウの胸、首筋、喉、唇とキスをしていき…最後はショウの右の耳たぶをパクリと口に含んだ。


美少年がこんな事をしているというのに、誰一人それを止めようとせず、ただじっとその光景を眺めていた。

それは、神聖な儀式のようで何故だか邪魔しては駄目だと感じ身動きできなかったからだ。
…いや、もしかしたら見入っていたという表現が正しいのかもかしれない。

美少年がショウの耳たぶから唇を離すと

ショウの右の耳たぶには、先程の薔薇の花の形をした宝石がキラキラと輝いていた。
見た目はピアスをつけているかのように見えるが、その宝石はショウの体の一部になったのだとサクラは感じとっていた。

同時に、美少年の肩や背中の全面にタトゥーのような直線や曲線を組み合わせた模様が浮かびあがってきた。その中には古代文字だろうか?見た事もない文字もその中に含まれている。

そのタトゥーらしき紋様はこの美少年によく似合っていて、少年の美しさが更に増したような気がした。


その神聖な儀式を見ていてサクラはあの少年がとても羨ましくて仕方なかった。だが、何故だか自分は“まだ、その時ではない”とも直感的に感じていた。


ベットに座るショウの前に、床に片膝をつきショウの手に手を乗せ見上げる少年は、まるで

姫を守る騎士でもあり最愛の伴侶のようでもあった。


「あなたの真名はーーー。愛称は“ロゼ”。」


そんな少年に対し、ショウは勝手に少年に名前をつけてしまった。

オブシディアンとシープは、おいおい…少年に名前がついてるだろうに。勝手に名前付けてしまったな。と、少年に怒られてしまうんじゃないかと呆れ笑いをしながらそれを見ていたのだが


「我が天。喜んで恩賜受け賜ります。
今この時より、我が名は“ロゼ”。」


そう声を出し、自然と笑みが溢れ心の底から喜んでいた。

ロゼは容姿だけでなく声までも中性的だった。その声は、まるで歌っているかのように耳触りが心地良く透き通っていた。

ここで、ようやくみんな我にかえり


「ショウ様、その少年は何者なんだ?」

オブシディアンがショウに問いかけると、ショウはハッとした様子で

「…そ、そういえば、ロゼは一体誰なの?」

と、今さらながらに正体不明の少年に問いかけた。すると

「我は、お主様の“剣”じゃ。」

「…剣?」

少年は柔らかな口調でそう名乗り、よく分からないショウは首をコテンと傾げた。

「我は、お主様に身も心も全てを捧げる。これからお主様を守りお仕えしようぞ。」

少々強気な言い方な気もしないでもないが、ロゼはショウの足の甲に額をつけ懇願した。

その行動にショウはビックリして

「…ひゃぁっ!!?」

と、声をあげ、思わずロゼの頬を両手で挟み軽く上を向かせた。すると、ロゼはショウの意図を汲み取りショウが力を入れずとも上を見上げてきた。

ショウは、ロゼのあまりの美貌に迂闊にもドキドキしている。おそらく、自分の顔は真っ赤っかだと思う。

ロゼの中性的な魅力の詰まった顔に、ショウはポゥ〜…っと見惚れ

「…王子さまみたい。」

と、思わず呟いていた。

ロゼもサクラ同様に、絵本から飛び出してきたかのようにカッコいいとショウは思った。

「…ふ、フンっ!仕方ないのぉ。
お主様がどうしてもと仰るのなら、ずっとずっと一緒に居てやってもかまわぞ?
永遠に側にいてやろう。感謝するがよい。」

ロゼは口では生意気な事を言っているが、顔の表情と行動は正直らしい。プイっとソッポを向いているものの頬を赤く染め、ショウの前で腕を広げて待っていた。

「…ん。」

だが、ロゼのこの行動にショウはついていけずキョトーンとしていた。

しばらく、その体勢で待っていても自分の胸に飛び込んでこないショウに痺れを切らしたロゼは

「…いつまで待たせるのじゃ!普通、大好きな伴侶が腕を広げて待っていたら飛び込んでくるものじゃろっ!!」

と、顔を真っ赤にして声を荒げていた。…肌が真っ黒なので実際は顔が赤いのかは分からないが、だが誰が見ても何となく分かる。

「…ホレ、もう一度じゃ。大好きな我の胸に思う存分飛び込んでくるがよい。…ん!」

気を取り直したロゼは、早く早くと胸をドキドキさせながらショウに催促をした。

だが、そこに待ったをかける声が!


「誰が、大好きだと?伴侶だって?」

サクラだ!

サクラは、ムカつき過ぎて今にもロゼに飛びかかって行きたいのをグッと堪えているせいで、額に青筋を立てて苛つき体がプルプルと震えていた。


「生憎、ショウ様が大好きなのは俺だ!そして、ショウ様と結婚して伴侶となるのも俺だ!!」

と、サクラが言って事でロゼは立ち上がり、ようやく後ろを向きサクラの存在を認識した。

ここでショウは、サクラが結婚というワードを使った事で何となく伴侶の意味が分かった。


…しょえぇぇぇ〜〜〜っっ!!!??

サクラもロゼも、わ、私とけ、けけけ、結婚〜〜 ???

…え?え?

二人で私とって言ってる?
聞き間違いかなぁ?

ショウは、自分を巡りバチバチににらめ合う二人を見て夢でも見てるのかと呆気に取られながら、思わず


「…へ?サクラもロゼも…私と結婚したいの?」

なんて、疑問を誰も聞き取れない様な極々小さな声を口に漏らしていた。

しかし、そんな声さえ二人は敏感に感じとり


「もちろんです!」
「当たり前じゃ!」

と、息ピッタリに同じ内容の言葉を出し、二人はまたグヌヌヌと睨めあった。

ショウはビックリし過ぎて混乱中である。
ショウは頭の中でグルグルと考えていた。

………へ???

け、けけけっこん〜〜〜っっ!?

わ、わわ私と??

二人とも、私と結婚したいって…

…言った…よね?

聞き間違いじゃないよね?

でも、結婚って好きな人同士がするんだよね?
サクラとオバアから教えてもらったから知ってるよ。

…って、事は…

ドッキドッキ!!

あまりの出来事にショウの心臓はとっても大きく鳴っている。

「…ふ、二人とも、私の事…す、すす好きなの??」

学校に通いだしてからショウは自分の容姿など嫌というほど理解しているつもりなので、誰に対してもこんな勘違いした様な言葉は言えないし思えないのだが

ショウ自身気づいていないのだが、何故だか

サクラとロゼに対してだけは、そんな事を思えてしまうし堂々と言えてしまうようだ。


それに対し、オブシディアンは驚いたと思った。これは、サクラに対してだけだと思っていたが、ロゼも同じな事だという事に。

やはり“剣”という事が大きく関わっている様な気がすると、オブシディアンは考えていた。

しかしとオブシディアンは思う。
サクラの話では、ダリアは“剣の力をサクラに与えた”と言ってなかったか?

では、この“剣”を名乗る少年は一体…?

この目の前で起きている現象にオブシディアンは考え込んでしまった。
言葉飛ばしでリュウキにも事細かく伝えている最中であるが、リュウキは何となく分かっている様だった。

そして、リュウキから下された命令は

【ロゼも一緒に旅に参加させる事。
リンドウを監視し何か変わった動きがあれば随時報告する事。】

だった。

それ対し、オブシディアンは少し顔を顰めてしまっていた。

はたして、この少年と一緒に旅をして大丈夫なのか?

ロゼの正体は……その可能性は高い。現に、サクラでさえまるで少年に歯が立たない。
もしも、ランが自分達の敵だとしたら、ここに居る全員一致団結して向かっていったところで結果は目に見えている。

一体、王は何を考えているのか。

危険なのではないのか。

この少年の正体は、奴だと考えているが…前々世に王は奴に殺されたと言っていなかったか?そんな相手と一緒に旅をしろと?

…自分の娘が心配ではないのか?

王の命令は絶対なので、どんなに不満があろうと命令は遂行しなければならない。

そもそもの問題。
何故、ロゼはショウ様の前に現れた?

…警戒しなければ…


オブシディアンがロゼを怪しんでいる中


「こんな得体の知れない新参者の言う事などに耳を傾けてはなりません。
私はこんな者とは違いショウ様が赤ん坊の頃よりずっと一緒にいました。ショウ様の事は何でも知っているつもりです。お側でショウ様の成長を見守り続けショウ様を愛おしいと想う気持ちは日々増すばかりです。

心の底より愛しているのはもちろんの事、言葉では言い表せないくらいに好きなのです。」

「…カッチーン!
確かに我はたった今、生まれたばかりじゃが愛に時間など関係ない。
我より多少多く主様と時間を過ごしたくらいでいい気になるでない。そちの薄っぺらい時間など簡単に吹き飛ばすくらいに、これから主様と我は濃密な時間を過ごしていくのだからのう。
しかし…こんな貧弱者が主様の“盾”とは。同じ“天守”として恥ずかしくてたまらんわ。」

と、ロゼはサクラを雑魚扱いし、ハンッ!と嫌味に笑い飛ばした。かと思うと、直ぐにショウに向かい

「主様は我にとって全てじゃ。ありのままの主様を見せてほしい。我はそれを全て受け止め受け入れよう。
…何故だか…我は…」

自分の胸をぎゅっと抑え

「お主様が…愛しゅうて愛しゅうて…」

と、声を震わせ涙を流していた。
そして、ギュウとショウに抱きつき

「…お主様から離れとうない。いっときも離れとうない!」

何故じゃ?何故こんなにも狂おしいほどに愛おしいのじゃ?

分からぬ、分からぬがお主様を絶対に何が何でも離してはならぬと心の奥底から悲痛な叫びが聞こえる。

と、ロゼは

全身を小刻みに震わせボロボロと涙を流しながらショウの首口に顔を擦り寄せて甘えていた。ショウはくすぐったそうにしつつ、自然とロゼを抱きしめ返していた。


「…うん。」

初対面の筈の二人なのに、まるで、長年離れ離れになっていた最愛の恋人とやっと再会できたかのようなそんな雰囲気だ。

だが、その感動的な場面をぶち壊す者がいた。

「…ア"ッ!?ふざけるなっっ!!
俺の方がショウ様と離れたくない!俺の方がショウ様の事を心の底から…いや、魂の芯から愛している!!」

と、サクラはドスドスと大きな足音を立てながら、ショウからロゼを引き剥がそうと近づきロゼに向かい乱暴に手を伸ばした。

それに反応し、ロゼはギッとサクラを睨むと

「…雑魚ほど、よく吠えるのぅ。」

わざと、サクラに聞こえる様に呟くと何か仕掛ける様な雰囲気を出していた。

オブシディアンとシープは、マズイ!乱闘が起こる!…いや、それ以前にサクラとロゼでは圧倒的な差がある。これでは、サクラが危険だ。
と、焦りサクラを止めに入ろうとした、その時だった。


サクラとロゼの只ならぬ様子にショウはとても心が痛くて痛くて…


「ダメッ!!!」


と、二人に向かって叫んでいた。

すると、サクラとロゼの動きはピタリと止まり二人はショウの顔を見た。

ショウはポロっと涙を流して


「…二人には仲良くしてもらいたい…。
なかよく…してくれなきゃヤダよぉ〜〜〜…」

と、えーんえーんと泣いた。

すると、驚く事にサクラとロゼは悲しげな表情になりロゼはショウに甘えるように頬擦りし、サクラはショウに吸い寄せられるようにヨタヨタとショウの元へ向かうとギュッと包み込むように抱きしめ

「…このように、ショウ様を悲しませてしまい申し訳ありません。
…ショウ様が望むのであれば、不本意ではありますが……とても嫌ですが、本当に嫌ですが…この新参者をショウ様のしもべとして認めるよう努力致します。」

「我の本心はお主様を独り占めしたい。
じゃが…そうはいかぬようじゃ。お主様が心から望むのならば、それに従おう。
なーに、我を永遠の伴侶とし、この盾はお主様の下僕としておけばよいのだからな。クククッ!」


と、二人は同時に似たような事を喋り、それに気づくとまたバチバチと睨み合い

それを見て、不安気なショウに二人は同時に気づくと

ショウの前ではニッコリ仲良しに見せて、ショウの見えない所では足蹴りだったりちぎったりと小さな戦いを繰り広げていた。

それを見ていたオブシディアンとシープは、まるで二人は双子の様だと思った。
容姿のタイプも性格、言動も真逆な二人なのに妙にシンクロしていると思った。

それは、ショウが関わることオンリーではあるが。


しかし、少々問題が出てきた。

ロゼを仲間にするにしてもだ。サクラと同等…いやそれ以上の美貌を持つロゼをそのままの姿で人前に出す訳にはいかない。
おそらく…いや、絶対に、歩く公害になってしまう。

サクラのように、魔法衣を着せてフードで顔を隠すという手も無くはないが…
フードで顔を隠す者が一人いても少々不気味な集団だと思われるのに、それが二人となれば不気味さは倍増以上。怪しい集団として注目され下手をすれば不気味過ぎると警察に通報されかねないとオブシディアンは頭を抱えた。

場が少し落ち着いたところで、オブシディアンがその話をすると


「確かに、サクラ同様にロゼもあまりに目立ちすぎるな。…それに、ヨウコウ達にどのようにしてロゼを紹介すればいいんだ?
ただでさえ、俺達のチームは人数が多いんだ。この大人数で街を歩くなんて少し無理があるんじゃないか?」

と、シープも頭を悩ませていた。
すると、サクラが


「簡単な事だ。この新参者をリュウキに預ければいい。」

なんて、サクラがツンとした態度で言うと

「…ハァ"ア"ッッ!?
そちこそ、あまりに弱すぎて足手まといになるから母国に帰った方がいいのではないか?」

ロゼはあからさまに顔を歪めサクラに嫌味を言ってきた。…とても悪い顔だ。言葉使いだけで騙されてしまいそうになるが、言動が悪者の様だ。


「…なら、ここで決着をつけるか?どっちが、ショウ様の旅のお供として相応しいのか。」

「ホウ。面白い!受けてたとうではないか!」


ショウを真ん中に挟みベットに座る二人の一触即発な二人の雰囲気にオブシディアンとシープはハラハラしながら、誰の言う事も聞かない二人の我が儘なお子様達をどう宥めるか悩み…ハッとしショウを見た。

オブシディアンとシープの視線が一度にきて、どうしてそんな怖い顔でコッチを見るの?と、ショウはビックリしたものの


「サクラもロゼもケンカしないで?
一緒に考えよ?どうしたらロゼも一緒に旅ができるのか。」

と、ショウは両サイドがうるさかったのでナチュラルに注意した。

すると、二人は犬猫のようにフーフー威嚇しつつも大人しくショウの隣に座った。


「…う〜ん。よく分からないけど、ロゼが小さくなればいいのかな?例えば、手のひらサイズの小さな動物になるとか!
可愛いペットと一緒に旅ができたら嬉しいよね。」

なんて、ずっと可愛いペットが欲しかったショウの願望を入れつつのちょっとしたアイディアをショウは言った。

できないとは、もちろん分かってるけど。
可愛いペットと一緒だと癒されるだろうなぁ…いいなぁ、欲しいなぁなんてポヤポヤ妄想してたが、ピリピリする場の雰囲気でハッと我に返った。

みんな真面目に考えてる時に(サクラとロゼ以外)ちょっと、おふざけが過ぎちゃったかな?と、ショウはちょっぴり反省した。


すると

「お主様は、どの様な動物がお望みじゃ?」

なんて、ロゼが話の中に入ってくれた。それが嬉しくてショウは夢中になって、こんなサイズだったらとか犬も捨てがたいけど猫が欲しいとか自分の理想のペットを話した。

夢中になって話すショウをサクラは微笑ましそうに見ている。

ショウが話し終えると


「…うむ。こんな感じか?」

と、ロゼはポンと

手のひらサイズの真っ黒な猫のようで猫でない愛らしさとカッコ良さの両方を持ち合わせた美獣に姿を変えた。

美獣にはロゼのタトゥーの模様がそのまま毛の模様として出ていて、そこがまた魅力的だ。


それを見たショウは


「…ハワワワ…!か、かわいいぃぃぃぃぃ〜〜〜!!!」

と、目をキラキラ輝かせ歓喜の声を出した。

可愛いが過ぎて、ショウは美獣を抱きしめるとスリスリ頬ずりした。
それに美獣は最初驚き固まるも、ショウが頬ずりしてくれた事に嬉しくて自らもゴロゴロ喉を鳴らしながら頬ずりした。

さらに、ショウは美獣の愛らしさにキュンキュンし思いあまってチュッチュとキスをして喜んでいた。

美獣は更に驚いたが、ショウのキスが嬉しく…そしてムラムラしちゃって
もちろん、このチャンスは逃すはずもなく美獣化したロゼはさりげなく短い前足をショウの首に回し、遠慮なく自分からもチュッチュ、ペロペロしていた。

その様子にショックのあまり現実逃避して固まっていたサクラだったが

ロゼのスリスリ、チュッチュ更にはペロペロの甘々攻撃に、ショウはくすぐったそうに身を捩ったり「…くふっ!く、くすぐったい…ふふっ!」と、笑っていた。

その瞬間だった。調子こいたロゼは、くふくふ笑い小さく開いたショウの口の中に舌を入れ、ショウの口の中を…

「それは、まだ許すかっ!!!」

まさぐる寸前でサクラは、まずショウの目を隠し「…へ?」と、困惑した間抜けな声を出すショウの声と同時に鬼の形相でロゼの首根っこを掴み床に投げ捨てた。

…ぽてんっ!

本来ならば、サクラに指一本たりとも触れさせはしないだろうが何故かロゼは避ける事などしなかった。

何かあったのだろうかとオブシディアンとシープは床に転がるロゼを見ると…

心なしかうっとりと顔が蕩けている。

……???

どうしたのかと様子を窺っていると


「…ほっとけ。その新参者は、初めての“快楽”に骨抜きになってるだけだ。」

と、苛ついたように自分の経験から言える言葉だろう事をサクラは言い、すぐさまショウの視界にロゼが入らないよう場所を移動しショウと向き合うと


「いけません!まだ、恋人にもなっていない者同士が口にキスなど!まして、舌を絡ませようなどと…」

なんて、自分の事は棚上げでショウにお説教をかましていた。

サクラのその必死な様子に、オブシディアンはどの口がと苦笑いしていた。


「…快楽???ただの軽いバードキスだろ?」

シープは、軽いバードキスで快楽なんてあり得ないだろと冗談かと笑っていたが(自分はバードキスすら経験がないが)。

その言葉をサクラはスルーし

ロゼは、なんだかとっても気持ち良さそうにしていて、ポ〜っと夢見心地のようで術を保っていられなくなり元の人の姿に戻ってしまっていた。

しかも、裸である。

ロゼのあまりの艶麗さに、これはマズイとオブシディアンはロゼの妖艶さに当てられフニャフニャに腰を抜かすシープを受け止め、すぐさまロゼから視線を外した。

しかしだ。

今さらだが、オブシディアンは思った。

…一体、ロゼはいつから服を着ていたのだろうかと。見間違いでなければ一番最初に見た時、ロゼがベットで寝ていた時は肌だった気がする。いつの間に服を…?

そして、妖魔?魔獣?…いや、それにしては何だか違う気がする。
サラッと変化していたが上級魔導の変化の術だろうか?特殊魔導の使い手なのだろうか?

色々と謎の多い少年だ。