ここは、ショウ達が宿泊している宿の食堂。

そこでヨウコウはとてもイライラしていた。席は別なのだが、なんか本当にムカつく!苛つき過ぎて、どうしても気になり見てしまう。


「ショウ様、いけません!おかわりは、2杯までですよ?」

サクラは、赤子か幼児に接するかのようにショウにピッタリとくっ付き食べ物を口に運んで食べさせてあげている。
…いや、幼児は将来の為にご飯を自力で食べる練習をするので乳幼児を相手にしている様な素振りとでもいうのだろうか。

サクラの食事はショウに食べさせる合間に食べていて、慣れているのかタイミングがバッチリだ。

それに、おかわり2杯までと厳しい事を言ってる感を醸し出しているが、中身は激甘だ。
もう、その地点でアウトだろう。大盛りを2杯…

ショウの口に食べカスがついてれば、舌で舐めとり綺麗にしている。
いやいや、自分で拭き取らせろよ!そもそも、何故わざわざ舌で舐めとる!と、ヨウコウ達は心の中でサクラの行動についてツッコみまくっていた。

シープもサクラの行動を見て、最初は驚いたものの、ああ、獣の時の名残りかと変に納得しつつドキドキしながらたまにチラリとその様子を見ていた。


…しかし、なんと妖艶なのだろう。
ショウの食事の世話をしているだけなのに、何故こんなにもドキドキして目が離せないのか。


「美味しいね、サクラ。」

ショウが嬉しそうにサクラに話し掛ければ、雪のように白い頬をピンク色に染め


「はい。」

とても幸せそうにはにかみ、ショウの顎にそっと手をを添えるとショウの頬に形のいい薄い唇をくっ付け、次に自然な流れで
サクラの手はショウの腿と肩に添えられ、唇はショウの耳元へと移動し何かを囁いているようで、それに対しショウはくすぐったいのだろうクスクス笑っている。

その中でも特に驚いたのが、ショウが食べ物を食べていて少し微妙な顔をしていると


「…お口に合わないのがありましたか?」

少しの変化にもサクラは敏感に反応し、ショウがコクリと頷くと

すかさずサクラはショウの片方の頬に手を添え、少しサクラの方に向かせるとショウの唇に唇を重ね、ショウの口の中に舌をねじ込むと中の食べ物を取り除きそれをサクラが食べていった。

そして、ショウの口の中を綺麗にすると

…ちゅぱ

最後の合図とばかりに、ショウの唇に吸い付くようなキスをし、名残惜しそうにゆっくりと艶めかしく唇を離していった。

その時のサクラは、とても食事中とは思えない程うっとりとした顔をしていて…まるで…まるで…


そこに居合わせた誰もが、ゴクリと生唾を飲む。

…え?なに、これ…

これ、ただの食事だよね?

何で、こんなに官能的な気持ちになってしまうんだろ、たまたま食堂に居合わせた他のお客さん達もサクラの美貌と妖艶さにドキドキ目が離せず、箸やスプーンもカチャリと落とすわ、食べ物を飲み込むのを忘れ零すわで大変な事になっている。
もっと大変なのが、サクラのあまりの色っぽさに当てられ下半身がズクリと重くなりムラムラしてしまっていた事だ。


食事が終わると、サクラは自分の膝にショウの頭を乗せ丁寧に歯磨きをしてあげる。

宿の風呂は基本的に大浴場で男女分かれてるのだが、これではショウの体を洗ってあげられないと部屋に備え付けてあるシャワールームに一緒に入った行った。

こんな狭い場所ではショウ様が体を痛めてしまう。ゆっくり体を休める事ができないだのぶつくさ文句を言いながら超狭い一人用のシャワールームへ二人で入ったのだ。
そんなに文句を言うなら大浴場に入れよ、と思うが、それでもサクラは開放感あふれゆったりお湯につかれる大浴場よりも、世話したいという理由で狭いシャワールームを選んだのだ。

ヨウコウ達は…え???と、思った。

一緒に入るの???

もちろん、それを初めて目にするシープも…え?と、自分の理解できない状況を目にしポカーンとしてしまっていた。

しばらくすると、二人お風呂からあがって来たのだが、理解不能になっているヨウコウ達は、…え?あ…本当に一緒に入ったんだ、と、理解したが理解したくない気持ちになっていた。

だが、しかし…

風呂からあがってきたサクラの艶っぽさといったらなかった。風呂あがりで全身がピンク色でしっとりしていて、普段よりもフェロモンが倍増し妖美である。

ヨウコウ達は、サクラの色香にうっとりと心奪われポ〜…と見惚れている。


そんなヨウコウ達など眼中にないらしく、サクラはベットの上でショウに全身マッサージをしていた。色情を感じさせる手つきで、丁寧にゆっくりとマッサージを施していく。時々、小さくショウの体に何度もキスを落としながら。

なんだか、いけないモノを見てしまっている気持ちになりヨウコウ達はドキドキしながら、サクラのマッサージに見入っている。


「…ハア。余計な輩がいるせいで、いつもの様なマッサージもできない。」

サクラは、そう不満を口にしショウと同じベットに入るとショウを包み込む様に抱きしめた。そして慈愛に満ちた表情でショウを見つめ、ショウの額に額をくっ付けると


「おやすみなさい、ショウ様。」

と、静かに優しい声をかけ


…ちう

小さくショウの唇にキスをし目を瞑った。


ショウが寝るまでのサクラの一連の行動を見ていてヨウコウ達は、サクラの欲情をかき立てられるお色気ムンムンなあだっぽさに気づかない内にドキドキはおろか、ハアハアと息があがっていた。もう、ムラムラが止まらない。

ムラムラしすぎて熱が上がっていたヨウコウ達は、誰かいい人はいないかと欲望の捌け口を探し周りを見て一気に興醒め、しらけてしまった。…何故なら、サクラの美貌を見てしまうと、他の人達に何の魅力も感じなくなってしまうからだ。

ヨウコウとミミはお互いを気に入り結構な頻度で体を合わせていた筈なのに、今、お互いを見た瞬間、めちゃくちゃに冷めテンションが下がり萎えるばかりだった。

もはや、何で自分はこんなブスとやってたんだ?と、疑問に思い気持ち悪く思うくらいに。


それからショウが本格的に寝付いた頃、サクラはムクリと起き上がりトイレに篭った。しばらくするとサクラは強く雄を感じさせる艶めかしい雰囲気を纏いながら出てきた。

その姿にヨウコウ達は、喉を上下させ恍惚と見惚れていた。

それからサクラは、ショウが寝入っている事を
確認すると勉強をし始めた。
ショウの世話を終え自分の世界に入ったサクラからは一切の色気を感じない。


サクラのあまりの美貌に、緊張し声を掛けられずいたヨウコウ達だったが


「…サクラは、何故あのような大ブタの世話をしているのだ?何か脅されているのか?
よければ、余が相談にのるぞ?」

ショウの世話をして話しかける隙を見せなかったサクラが仕事を終えた所で少し話しかけやすくなり、ヨウコウはサクラの前に立ち話し掛けた。

だが、サクラは何の反応も見せず、携帯アプリからパソコン機能を取り出し勉強をしている。おそらく学校の課題だろう。

ヨウコウ達も学校の単位などあるため、時間を見つけては課題をこなしている。


「サクラは、高校生なのか?その割に、課題内容が膨大で難易度も高いように見えるが。」

ヨウコウは、聞こえなかったのかもしれないと声を大きくして話しかけた。
無表情無感情かつ何の反応もないサクラに、めげずにドンドン話すヨウコウに流石に無視もできなくなったのだろう。キーボードを叩く動きがピタリと止んだ。

お、ようやく!と、サクラと話せる事に心が踊るヨウコウだ。

そして、サクラはヨウコウの顔を見た。

サクラの端正な顔を直視したヨウコウは、これほど美しいとは!見れば見るほどに美しい…と、腰が抜けかけて膝がカクカク笑っていた。

しかし、そのフニャフニャになった腰は別の意味で砕ける事となる。


「…ウルセー、ブッ殺すぞ。このクソヤロー。」

サクラは、そのクールビューティーな顔をこれでもかってくらいにグシャリと顰め、美しい口から汚い暴言が飛び出してきた。低く脅すような声色だ。

冬の銀世界を思わせるサクラの雰囲気は氷の様に冷たく殺伐としていて畏怖の念を感じさせる。そんなサクラが怒ると一瞬にして空気が凍り付く。…恐ろしい…

あまりの恐怖に、ヨウコウは腰が抜け床にペタンと落ちてしまった。


…おかしい…!

ショウといた時は、とても物腰が柔らかくて温かくまるで聖母の様な慈愛を感じた。それと同時に、妖艶で魅惑的なフェロモンを纏っていた。

なのに、ショウから離れた途端に

冷血人間になってしまった。冷淡で、他人に対し無頓着、無関心。

まるで美しいだけの人形のようだと思う。

あんなにエロスのフェロモンを駄々流れにしていた人物とは思えない。あの妖艶さはどこに吹き飛んでしまったのかと思う程、ただただ美しく心を奪うだけの美術品に感じる。
そして、気高く崇高な汚してはならない神聖さがあり近寄りがたい。

二重人格と思うくらいに、ショウと他の人とでは180度人格が違う。違い過ぎて、同一人物と思えない程だ。

ゴウランやミオ、ミミも、この状況についていけずただただポカーンとするばかりである。

シープは、サクラは元獣、元肉体がない存在だったからな。行動が獣じみてて当たり前か。
肉体がなかった時の気持ちの影響も大きいのかなとしみじみ思っていた。

オブシディアンにとって、これが普通だったため大して思う事はなかったし気にならない。
しかし、やはりと思う事があり、大きな問題に直面していた。

ある程度、予測はしていた事ではあるが、サクラの美貌は人の心を酔わせ歩く公害となってしまっている。それに対しオブシディアンは頭を抱え、リュウキに報告、相談していた。


翌日、リュウキの命令により
サクラは、その美貌を隠す為、フウライ同様に魔法衣を与えられ深くフードを被る事でその問題を解決した。

お面をつける、マスクをつける、サングラスを…など様々な提案もあったが、蒸れて気持ち悪い、面倒くさい、邪魔というサクラの文句でフードを深く被るでおさまった。


おかげで、ヨウコウ達も普通に過ごせるようになった。…あの美貌を拝めなくなるのは非常に残念だ。
だが、あの状態ではまともに旅など続けられなかっただろうから致し方ない。

機会があれば、少しでもその姿を拝みたいものだとヨウコウ達は思っていた。

しかし、あのフードの中には、あの美貌が…と思うと、やっぱり凄く緊張してしまう。加え、元よりサクラは冷たく近寄りがたいので普通に怖くて緊張が倍増だ。

あの怖いもの知らずのミミでさえ、サクラが怖いらしく近づく事はなかった。
おそらく、フウライとの件があり学習したのかもしれないし、自分にとって有益がないと判断しての事だろう。だが、サクラの美しさ見たさにチラチラ気にはしているようではあるが。


しかし、サクラのあのショウへの激甘なお世話はどうかと思う。あそこまでする必要はないだろと見ていてイライラする。


「…何なのだ!目の毒過ぎる。
何故、あの大ブタがあんなお姫様状態なのだ!?しかも、相手はサクラだぞ!?
あの何とも美しい……!理解できんっ!!?」

「ヨウコウ様っ!その気持ち、よぉ〜く分かりますぅ。そもそも、あの二人どんな関係なぁ〜のでぇすかぁ?サクラ君は、どうしてあんなおブタちゃんをあんなにお世話しちゃってるぅ〜んですぅぅ〜!」

ヨウコウとミミは、ショウに対して不満だらけで納得できないとばかりに文句を言っている。

お前らがそれを言うなとゴウランとミオ、そしてシープは、シラけた気持ちでヨウコウとミミを見た。

ヨウコウとミミは、恋人かと思う程、常にべったりとくっ付いている。ご飯の時も


「ヨウコウ様。これ、美味しいですよ?
ハイ、ア〜ン!」

なんて、食べさせあいっこしたりしてイチャイチャしているというのに…。

時折、ヨウコウは膝の上に体の小さなミミを乗せ、周りに見せつける様に深いキスをしてみたり。服の中に手を入れ弄ってみたりと周りが不快に思う様ないかがわしい行為までしていた。

自分達が上だとマウントを取り見せつけようとする悪意ある行動は、傲慢ちきで軽率過ぎる。ヨウコウとミミ本人達だけの世界に入り込み、周りなど全然見えていない下衆と化し品位を下げるばかりだ。

ゴウランとミオは、こんな二人と同じ仲間と思われるのが恥ずかしく嫌な気持ちになっていた。そして、ゴウランは少し前までは、自分もコイツらと同類だったんだよなと思うと過去の自分が痛々し過ぎて…思い出したくもない黒歴史となった。


だが、ショウとサクラに関しては気になる事だらけだと、ゴウランとミオも感じていた。

何故、あんなにまでサクラはショウに尽くすのか。嫌ではないのか。
そもそも、サクラは何者であるのか気になって気になって仕方ない。

サクラに直接聞く勇気はないし、オブシディアンは少し不気味で声を掛けづらい。
なので、新参者という理由から比較的話しやすそうなシープに声を掛けてみた。


「…シープ、少しいいか?」

ゴウランに声を掛けられ、振り向くシープにドキリとしてしまう。サクラの反則級の美貌で霞んでしまっていたが、シープもえげつないくらいに美人だったから。


「ショウとサクラは、どういった関係なんだ?
サクラは一体、何者なんだ?」

と、聞くと


「二人の関係性もサクラの正体も見たまんまだ。それ以外、答えようがない。」

なんて、答えにならない答えが返ってきた。


「…いや、見たまんまって言われても全く分からないんだが…。主人と奴隷?」

全然分からないとばかりに、ゴウランが適当な事を言うとシープは顔を顰めながら


「…本当に、お前達の頭を疑う。お前達の目は節穴か?あんなに幸せそうな奴隷がどこにいるんだ?」

なんて、ゴウランの奴隷という言葉に嫌悪していた。

ミオは、シープの“お前達”の中に自分も入ってるのかと不快感を露わにし


「…聞き捨てならないんだけど。そのお前達の中に私も入っているって事?」

眉間に皺を寄せながらシープに抗議した。
ミオの発言により、ミオが自分を下に見ている或いは馬鹿にしていると感じたゴウランは

いつもコイツは上から目線で話してた気がしてたが、ここでハッキリした。前々から思ってたがコイツ、やっぱりムカつくと思った。


「そうだが?」

「…本当、やめてくれない?」

ミオは、嫌悪丸出しでシープを見た。


「…ハア。そうだろ?お前は何様なんだ?
何でも上から目線で、自分だけまともな考えをしてるとでも言いたいのか?
少し考えれば分かるものも、自分の都合に合わせて考え現実を受け入れられない。その方が、楽だし過ごしやすいからな。だが、オレはそれも間違ってるとは思えないが。だが…」

と、シープが言いかけた所で


『シープ。あまり、他人の考え方に自分の考えを押し付けるのは良くない。』


オブシディアンが、そこに割り込みシープを止めた。


『ボクの弟子が、すまない。』

と、ゴウランとミオに謝罪し、シープの頭を下げさせた。


「なんで、オレがっ!」

シープは、不服そうにオブシディアンにブーブー言っていたが、オブシディアンはそれを綺麗にスルーした。

ここで、オブシディアンとシープの関係性が見えた。…あ、この二人、師弟関係なんだと。
だから、“助手”なのか。