醜女と絶美の宝石のあらかたの真実が分かった所で、ベス帝王が口を開いた。


「…しかし、こんな話が分かった所でダリアの事はどうするべきなのだ。
仮にだ。ダリアが復活した所で何があるというのだ?国に関係のない事であれば、ダリアが復活しようがしまいが関係なく思うのだが。」


ベス帝王の言う事はもっともな事だろう。
しかし、話を聞く限り大袈裟な話ではなくダリアは世界中を巻き込むだろう。
ダリアによって下手をすれば世界中の才色兼備な者達全てがダリアの愛人となり、各国はそれにより大損害を受けるであろう。

それほどまでにダリアの影響力は凄まじく感じる。

世界中の優秀者達ばかり集めたダリアは絶大なる力を持ち、ダリアの匙加減一つで世界中がダリアによって支配されてしまうと言っても過言ではないだろう。

世界がダリアの意のままになるのだ。

恐ろしい限りである。

その可能性が大いにある事をフウライが、ベス帝王に説明すると、ベス帝王は何という事か…と青ざめていた。

「もっと、最悪な事を言わねばな。
ダリアが完全に復活してしまえば、この星はおろかこの世の全てを消し去る力を持っている。
そのくらいに、ダリアの力は無限であり偉大だ。」

と、リュウキは恐ろしい事を言ってきた。
それには、みんな絶句し固まってしまった。

「とりあえずだ。今のところダリアは封印されたままだ。復活方法も分からなければ、ダリアが封印されているという宝石も見つかっていない。宝石箱はここにあるようだが。
だから、更にダリアの復活方法などについて調べつつ、このまま現状維持がベストだろう。今は、そうするしか方法はないからな。」

そうリュウキが提案し、とりあえずはこのままという事で終わった。

そして、シラユキとベス帝王には次の問題があった。


「シープの事は、どうすればいいのかしら?
まさか、このままという訳にはいかないわよね?私の国の犠牲者には違いないけど、どう対処すればいいのかしら?
…初代の血筋であって本来ならムーサディーテ国の王である筈だったのだから。」


と、悩むシラユキに、ベス帝王も悩む。

自分の城に忍び込み色々と弄り回していたようだが、それも自分の祖先と大きく関わりがありやはり彼は犠牲者なのだ。
自分も何か、彼にとっていい方法を見つけてやりたいのは山々だが、まだ混乱しているし、どうするのがベストなのか分からず口を閉じたままだった。


「ならば、考えがまとまるまでショウと共に旅をしてみてはどうか?
今まで、この城の中だけに居て外の世界を見た事もないのだ。色々勉強になると思うぞ。
仮にだ。ムーサディーテ国やベス帝国でも何ら対処が思いつかない、あるいはシープ自身その内容に不服がありどうしようもない状態に陥ったとしてもだ。

旅をする中でシープもやってみたい事、興味がある事など出てくるだろう。後はお前の才能と努力次第となるが、お前が自分の生き方を模索し見つけられたらできる限りお前のサポートをしよう。約束する。

お前は、我が娘の天守の犠牲者だ。
エリスの父である俺が責任をとろう。」


その提案にシープは


「いまさら、新しい生き方なんて分からないし。普通の暮らしというものもよく分からない。知らない事だらけで…そうだな。
旅をしてみるのもいいかもしれない。その中で自分がしたい事を探してみたいし、色んな人と暮らしを見てみたい。」


と、言ってきた。


「決まりだな。お前の待遇などについては、お前の旅が終わる頃までにはで我々が責任を持ち、お前がより良く生活できるよう考える。」

リュウキは、そこまで提案すると何故か立ち上がりシープに体ごと向け見てきた。

「そして、知らなかったでは済まされない事ではあるが、我が娘の天守によってシープ含め、シープの一族が犠牲になってしまった事を心より詫びる。うちのダリアがすまなかった。」


そして、リュウキはシープを真っ直ぐ見て謝ると深く頭を下げてきた。
それに驚く一同ではあったが、それに続きいつの間に起きていたのだろう、ハナも深く頭を下げていた。

それを見て、強く思う事があったのだろう。シラユキ、ベス帝王、フウライの順でシープに頭を下げたのだった。

それに困惑するシープだったが、シープも


「…謝るとかやめてほしい。どうすればいいのか分からなくなるし。俺が幻術で洗脳して今まで使ってきた従者を、今更どうすべきかも分からない。」


そう言って、いまさらながら一人の人間の時間を奪ってきた事の罪の大きさを考えてしまい、その重圧に押しつぶされそうになっていた。

そこに

「そこは、心配する事はない。これは、我が国で長い間、行方不明になっている部下がいた事にも気付けなかった余の責任。その者に関しては、余が責任を持って預かる。」

ベス帝王はシープの従者であった男を預かる事となった。シープはベス帝王に言われるまま、従者であった男の洗脳を解くと男はハッとした表情をし、ここは何処なのかと困惑混乱し、何故ベス帝王様が???とパニック状態。

シープの元従者を落ち着かせるのに、手こずったが落ち着きを取り戻したシープの元従者は元々ベス帝国の使用人であった為、建物の構造は把握しているようだったので、ベス帝王は自分が指示する場所へ行き自分が来るまで待機するよう命じた。
浦島太郎状態の彼はベス帝王の命により、何で、こんな所に自分はいたんだと首を傾げながら指示する場所へと向かって行った。

彼が部屋を出て行く際、みんな彼にも深く頭を下げた。その事に対し、彼が困惑してしまうだろう事を配慮し彼に気づかれないよう彼の後ろ姿にだ。だから、まさか自分に王達が頭を下げているなんて夢にも思わないだろう。



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ショウが目を覚ますと、赤い目をした化け物を見たショックから恐怖でパニックを起こしていたのでオブシディアンはパニックの治療法として、一部の記憶を曖昧にしておき

“悪い夢”を見ただけだという暗示をかけた。

おかげで、ショウは元気を取り戻していた。
なお、醜女と絶美の物語の真実については、隠密特有の波動によりリュウキから内容を聞き知っている。


次の日、ショウはリュウキ達と別れ

サクラ、オブシディアン、そして新たに仲間となった“お手伝いさん”のシープと共にヨウコウ達のいるムーサディーテ国に入国した。

久しぶりに父であるリュウキに会えたというのに、すぐ離れなければならずショウは寂しくて只今ホームシック中である。

それをいい事にサクラは、ひっつき虫になってるショウをここぞとばかりに甘やかしている。
まるで、今までの鬱憤を晴らすかの様な甘やかしようである。

波動と風の魔導を組み合わせ、ショウの巨体を浮かせ抱っこし歩くサクラは周りから見れば異様であり恐ろしい程の怪力に思われてるだろう。

しかしながら、サクラの溢れんばかりの才能や底知れぬ魔力量には驚かされるばかり。
…だが、その素晴らしい才能を、サクラはショウを甘やかす為に余す事なく発揮していた。

才能の無駄遣いとはこの事を言うのかといういいお手本を見てシープはシラーとした気持ちでサクラを見ていた。

それを当然の如く受け入れるショウにも驚く。もう、12才だと聞くが、まるで幼子のように甘やかされ恥ずかしくないのかと。

それにしても、昨日と今日ではまるで別人の様だとサクラを見てシープは驚く。
昨日のサクラは冷たく刺々しく思ったが、今はとても物腰柔らかく温かい。まるで、聖母を思わせる神秘的美しさがある。
サクラがダリアだと言っても納得してしまうくらいに美しいとシープは思っている。


そして、ヨウコウ達との待ち合わせ場所に着くと、そこにはハナ団長が説明の為に副騎士団長であるフウライと共にいた。
フウライは魔法衣を纏いフードを深く被っている為、正体不明で素性が分からないようになっている。


「お!来たな。後は、ヨウコウ達を待つだけだな。」

ハナは、あはは笑いながら、ショウ達とたわいもない話をしながらヨウコウ達を待った。
そして、少し待った所でヨウコウ達も店に到着し


「お待たせして申し訳ありません。」

ハナに気付くなり、ヨウコウ達はハナに頭を下げ見た事もない面々を見て驚いていた。


「こっちが急にお前達を呼び出したんだ、気にするな。」

と、言い向かい側の席に座るよう促し、ハナは話を始めた。


「お前達に新しい仲間を紹介する。私の隣にいるコイツの名前はシープ。年は、21才。
ショウがお前達の足手まといになっているという報告があってな。お前達の負担を軽くしようという提案があり超強いお手伝いさんを付ける事になった。」

と、ハナは話しシープを見た。それにコクリと頷くと


「はじめまして。さっき紹介にあがったシープという。一般人のショウひ……ゴホン!のお手伝いを任された。よろしく頼む。」

シープは自己紹介をした。が、ヨウコウ達は思った。このシープという男、なんか態度がでかいなと。
しかしながら、ムーサディーテ国で美男美女を見慣れた自分達から見てもかなりのイケメンだ。この国の中でも上位につくほどのイケメンだと思った。
ペリドット色の目、淡い紫色の髪。黒い肌で女性か男性か判断に迷う程中性的な容姿をしている。そこが魅力なのだろう、何だか少しエロスを感じてしまう。

そこで紹介が終わったようで、ヨウコウ達は…え???と、思った。いやいや!!!


「あの…失礼ですが、そこにいる方々はどなたでしょうか?」

ヨウコウは、こんな人見た事ないぞとサクラとフウライを見た。それに気が付き

「ああ、そうか!お前達は知らないよな。悪い、悪い。アハハ!
私の後ろに立っている奴は、商工王国聖騎士副団長のフウライだ。」

と、ハナの後ろに立っている魔法衣を纏っている人物を紹介した。ヨウコウ達は、まさかあの天才と言われる副団長にお目にかかれるとは何と運がいいんだと感動していた。そして、ここに英雄の二人が居ると思ったら一気に緊張し萎縮してしまった。ただでさえ、ハナだけでも恐れ多いというのに。

「あと、ショウを抱っこしてるコイツは、お前らもよく知っているだろう。一緒に旅をしてきたんだからな。」

と、言われてもヨウコウ達はいまいちピンとこないようでキョトンとしている。

「…んん?忘れたか?シルバーだよ、シルバー・ストーム。」

そんなに存在感薄かったのかとハナは首を傾げていたが


「「「「エエエェェーーーーーーーッッッ!!!!!?????」」」」


ヨウコウ達は、思わず店内中響き渡る声を上げ仰天していた。

「…ん?ああ、そうだった、そうだった。
アハハ!忘れてたよ。
シルバーは、この通りえげつないくらいの美人さんでな。そのせいで旅に支障が出ることを危惧して変装させてたんだ。

だが、変装が面倒くさいと抗議されてな。それなら仕方ないと変装しなくてもいい事にしたんだよ。

ちなみにな。変装するならついでにってお茶目を出してシルバー・ストームって偽名もつけたんだよな。アハハ!

コイツの本当の名前は、サクラって言うんだ。よろしくな。」

なんて、ハナは説明してきたが…


シルバー…いや、サクラという男

なんという美しさだろうか。

この国の美男美女達ですら霞んで見える程に美しい。綺麗だ。…本当に…。

全体的にキラキラと幻想的な白銀色を思わせる。肌も雪の様に白く、髪はサラサラのまとまりのあるストレートかつ白銀色で光のあたり具合などで変わる美しいキューティクルの青。
目の色も透き通る様な空色で何から何まで隅々まで美しく綺麗だ。
何と神々しい美しさなんだろうかと時間を忘れサクラに見入っていた。

こんなに美しい者がこの世に存在するなんてと驚くしかなくサクラから目が離せない。


「まあ、サクラは見ての通りショウのものだからな。変装を解き正体も明かした所で、役割の変更をしておく事にする。」


ハナの声で、骨抜き状態でポ〜…っとサクラに見惚れていたヨウコウ達は、ハッ!と、我にかえりハナを見た。
そんな中でも、チラチラとサクラを見てしまうのは仕方ないと言えよう。


「…ああ、一応だが聞いておきたい事があったな。」


何かを思い出したかの様にハナは、ゴウランを見ると

「ゴウラン、お前に聞きたかった。
お前は“専用のメイドさん”は必要か?」

そう聞いてきた。その質問にゴウランはドキリとし、グッと身に力を入れ

「必要ありません。自分は旅の護衛として、チームを守ります。」

と、真っ直ぐにハナを見てきた。
それには、ハナは一瞬だけ目を見開き、すぐにいつも通りの雰囲気に戻ると

「分かった。お前の意思を尊重しよう。
ゴウラン、お前にチームの護衛を任す。これからの成長を期待する。」

そう声を掛けた。

「はい。」

それに対しゴウランは力強く返事をし、もっと自分を見直し前に進まないとなと気持ちを引き締めた。


「ミオもゴウラン同様にチームの護衛を続けてくれ。
ヨウコウはそのままに。ミミは引き続きヨウコウ専用メイドとして好きに動け。

サクラは、ショウの侍従。オブシディアンは、一般人であるショウ専門の用心棒。シープは、ショウのお手伝いさんかつ、オブシディアンの助手。

以上だ。」


と、ハナが話を終わらせようとした時だった。


「…あ、あのっ!!」

緊張した面持ちで、ミオが声を掛けた。


「ん?どうした?」

「…は、はい。質問なのですが、他のチームは、四人だと聞きます。なのに、何故、私達のチームはこんなに人数が多いのですか?」


ずっと疑問に思っていた事だ。最初のうちは、ヨウコウが特別だからだと思っていた。
だが、旅を続けるうちに少しずつ違和感を感じ始めてきた。
他のチームにも会って、ヨウコウや自分達は別に特別なんかじゃないと気づいた。では、何故?と、疑問が浮かんできたのだ。

すると、ハナは


「どうしてだと思う?少なくとも、お前達と関わった事のあるダイヤは気づいたようだぞ?
話はそれだけか?なら、私達は帰るよ。」


それ以上は教えてくれず、ハナはフウライと共に店から出て行った。

自分達で考えろという事なのだろう。

しかし


「…え?嘘だろ…何で分からないんだ?」

と、思わず声が出てしまったのだろうシープの声に、ヨウコウ達は少々カチンときたようで

「シープと言ったか?新参者のお前に何が分かるというのだ。言ってみろ。」


ヨウコウは、シープに問いかけた。

「…ああ、なるほど。あなたがヨウコウだな。それよりも、本当に分からないのか?」


再度、こんな事も分からないのかと問いかけるシープにヨウコウはカッと頭に血が上り

「貴様、余を侮辱するのか?余は、商工王国の王子なのだぞ!本来なら貴様の様な一般人がそう安易と接する事のできん存在だ!頭が高い!身の程を知れっ!!!」

そう怒鳴ってきた。


そのヨウコウの姿に、シープは目をパチクリさせ、フ…と小さく笑った。

「全くもって小さい男だな。本当に、あの商工王の血筋の者か?」


「…なっ、何だとっ!?貴様、余を侮辱するのか!?覚えていろ!貴様の様な無礼な愚民風情が!!」

ヨウコウは怒りのまま立ち上がりシープを睨みつけた。


「おい!ゴウラン、ミオ!この無礼者に痛い目をみせてやれっ!!」

そう二人に向かって命令をした。それに対し、ゴウランとミオは驚きお互いに目を見合わせ、どうしたらいいものかと困惑し動けずいた。

ゴウランとミオが命令に従わない事に苛ついたヨウコウは


「役に立たない奴らめっ!!
腑抜け共が!仕方ない、俺が相手してやるっ!!目に物言わせてやる!」

と、息巻いていた。


「…うわぁ…こんな奴、本当にいるんだ。」


シープはドン引きでヨウコウを見ていた。
それを恥ずかしそうに、ゴウランとミオは身を縮めさせ少し俯いてしまった。

ミミは、いつもなら迷わずヨウコウの応援をするのだが、ヨウコウよりずっと美形のシープに良く思われたくて黙って二人の様子を見ていた。

権力(ヨウコウ)と美人(シープ)、どっちも捨てがたいというミミの思惑が手にとる様に分かり、ゴウランとミオはため息しか出てこない。

本当に問題児ばかりで手がつけられないと、先行きが不安になるばかりだ。正直、この場にヨウコウとミミ二人を投げ捨ててしまいたい気持ちだ。

ショウ達に目を向けてみれば、赤の他人ですと言わんばかりに我関せずである。
と、いうかショウとサクラの目も当てられないくらいのイチャつきは何なんだ?…いや、あれはイチャつくというのか、ペットと飼い主の様にも見える。
アイツらの関係は一体なんなんだ?オブシディアンは、自分の世界に入ってるし。

どうすれば…と、ゴウランとミオが戸惑っていると


「…ウルセー。ショウ様に悪影響だ。」

と、サクラは呟き

ショウを抱っこしその場を去って行った。そのあとにオブシディアンが続き、それに気付いたシープは


「…あ!俺もいかないと!」

と、慌てた様にオブシディアンの後を追って行った。


「貴様っ!逃げるのか!!」

ヨウコウが声を荒げシープに呼びかけるも


「お前に構ってる暇はないんだよ。」

シープはそう言って居なくなってしまった。


「余にビビって逃げて行くとは。本当に情け無い奴め。」


ヨウコウは、そう口にする事で自分を落ち着かせようとしていた。

これから、どうなるんだろうと不安しかないゴウランとミオだった。

前途多難である。