イケメン従者とおぶた姫。

ショウ達が大変な事に巻き込まれている最中、ヨウコウ達にも異変が起きていた。

それは


「…ミミ…それは、どういう…」


ソウは、今ここで起きている事に頭がついてこれないでいる。

ソウの目の前には、イチャイチャしている赤髪イケメンとミミがいる。

ミミは赤髪イケメンの腕に絡みつく様に体を密着させ、赤髪イケメンもドヤ顔でミミの腰に手を回している。

そして、この二人は今なんて言った?

訳が分からないとソウがミミにこれは、どいういう事だと理由を求める。

そんなソウにミミは


「えぇ〜〜?そぉ〜んな事も理解出来ないなんて本当バカじゃないんでぇ〜すかぁ?ソウ様、頭悪すぎですぅ。」


ソウは思った。

何なんだ?一体、自分の身に何が起きたというのか…。

今、目の前で自分を嘲笑ってるこの女は誰なんだ?

見た目は、自分が愛してやまない心優しい可愛いミミだ。

しかし…姿形はミミをしているが、この女の言動は自分の知っているミミとはあまりにかけ離れていて頭が追いつかない。


「だぁ〜かぁ〜らぁ〜。
チヨってデブスちゃんが離脱しちゃったって事わぁ。ソウ様はこの旅の失格者になるでしょう?つまりわぁ、王位継承資格が無くなっちゃう訳ですぅ。

そしたらぁ、ソウ様わぁ何にも持たない一般人になっちゃう。あるのは、その無駄にいい容姿だけ。」


…ドクン…


…ミミは、今なんて言った?
チヨの事を“デブス”と言ったか?

いや、心優しい思いやりのあるミミは絶対にそんな事なんて言わない。

…自分の聞き間違いだろうか?

ソウは、ミミの口から出る汚い言葉が信じられず、自分のミミはこんな事言わないと否定したい気持ちでいっぱいだった。

「噂だとぉ、ソウ様ってぇ“ぐーたらのぉ出来損ない王子”らしいじゃなぁいでぇすかぁ。
そんな将来もぉ希望もない無能さんは要らないって言ってるんですぅ。」


…ドクン…

…え?

今、なんて言った?

俺の事を

“グータラの出来損ない王子”

“無能”

と、言ったか?

可愛いミミの口からドンドン醜い言葉が飛び出してきて、更にはソウが今まで周りの人達から浴びせられてきた嫌な言葉が最愛のミミのその可愛いお口から出てきたのだ。

この言葉は、ソウを本格的に引きこもりへと追い込んだソウにとって忌々しい言葉。


「今までわぁ、王子って肩書きがあってぇ、地位も権力もお金もあったから付き合ってあげてたんですよぉ〜?
でなきゃ、イケメンしか取り柄のない出来損ないのデクノボウなんかと付き合わないでぇすよぉ〜。キャハ!」

ミミのあまりの言葉に、可愛いミミがこんな事言う筈がない。

…もしかしたら、隣にいる赤髪の男に脅され言わされてるだけかもしれない。

と、ソウはミミを信じたくて


「…ミミ、君は俺と初めて出会った時、俺の身分も知らなかった。身なりも態度も酷かったというのにとても親切に接してくれた。
それでも、何の差別もなく平等に俺と接してくれた。そんな優しい君が、例え俺の地位が剥奪されようとも見捨てるなんてある筈がないよ。俺は、君を信じている。」


そう、ミミを真っ直ぐな目で見て気持ちを訴えかけた。

真剣な眼差しで自分を見てくるソウの必死さが滑稽で情け無くてダサく思え、

ミミは赤髪の男と目を見合わせると盛大に

「プスッ!プスプス!キャハハ!ウケるぅ〜!ダッサぁぁ〜い。」


と、馬鹿にするように大笑いしていた。

そんなミミの姿に、ソウは目をまん丸くしている。


「これだから、ドーテーは。頭の中、お花畑でウケるを通り越してキモぉ〜い。ウザぁ〜い。
…あ〜!でも、今は辛うじてドーテーじゃないかぁ。私に感謝してくださぁ〜いよぉ?こぉ〜んな可愛い私がぁ相手してあげたんでぇすからねぇ?
って、いうかぁ王子の地位剥奪されちゃって王子様じゃなくなるじゃないでぇ〜すかぁ。

だからぁ、ミミわぁソウ様に騙されたって事でぇ慰謝料貰いたいくらいですぅ。

ちょっとの間とはいえ、こんな出来損ないのおバカ君とお付き合いしてたなんてぇミミの黒歴史になっちゃいましたよぉ〜。もぉ〜、最悪ぅ〜!プンプン!」


と、ミミは可愛らしくぷくぅ〜とホッペを膨らませて見せ、汚物でも見るかの様な目でソウを見ると

「それにぃ。“あんなの”ソウ様が王子だって分かってたから近づいただけに決まってるじゃないですかぁ。

私レベルだとぉ、ソウ様みたいなのわぁ、恋愛経験ない引きこもりの根暗って直ぐに分かっちゃうんですよねぇ。

私みたいな可愛い美人が、ちょぉ〜っと良い子ちゃん演じれば、すぅ〜ぐ騙されてのめりこんじゃうタイプ。

もう、面白いくらい騙されちゃって。
チョロすぎのちょろリンで楽チンでしたよぉ〜。ほぉ〜んと、バカとしか言いようがないですぅ〜。キャハハ!」

と、ミミは更にソウの事をボロクソに言ってきた。

ソウは、まんまとミミに騙されていた事をようやく理解すると、あまりのショックで崖から突き落とされた気持ちになっていた。


「私くらい可愛いとぉ、男わぁ、いくらでも寄ってくるんですぅ。
だからぁ、私レベルの女子にわぁイケメンってだけじゃなくってぇ〜、ハイスペックないい男じゃないとぉ釣り合わないっていうの分かってますぅぅ〜?

だぁ〜か〜ら〜、利用価値の無いお前は用済み、お払い箱だっつってるのぉ〜。」

と、ウザそうにソウに対し、シッシとアッチに行けという様にあしらい

「ソウ様に比べてぇ、烈火(れっか)様わぁ。将来有望でぇ、頼もしくって頼りがいがあってぇ、サイコーの彼ピッピなのぉ〜。

お前みたいな出来損ないのクソザコとは大違い。雲泥の差くらい違うんだからぁ。

お前はこれから地位も何も無い貧乏人。それに引き換え、レッカ様わぁ、超エリートのお金持ち。

お前は、お前に見合った出来損ないのクソ女と結婚して極貧生活するのがお似合いですぅ〜。キャハ!」


と、見下し嘲笑ってるミミの腰をレッカは更に引き寄せ、ソウに見せつけるかの様に激しい口づけを交わすと


「だとよ。バカで出来損ないの“元”王子様!ブハッ!あはは!!」


レッカは、下らない奴を相手にする様に適当な言葉をソウに吐き捨て、わざとらしく見せつける様にミミとイチャイチャしながらソウの前から去って行った。

しかも、ミミとレッカは可哀想なソウの姿が見たくて、チラチラと何度もソウの悲惨な姿を見ながら大笑いして居なくなるという胸糞なオマケ付きで。

その様子を建物の陰から、ゴウラン、ミオ、ピピ、ゴロウは遠い目をしながら3人のやり取りを見ていた。

…何故、そこにこの4人がいるか。それは…

なんやかんやで仲間意識が強くなりつつあるゴウランとミオは最近、行動を共にする事が多くなっていた。

そして、この国の特色などを勉強する為に街を探索していた時だった。見知った顔触れ二人と一人見知らぬ男が目に飛び込んできた。

何やら三人は揉めている様で、街にいる人達もなんだ?なんだ?と、悪目立ちしてる三人を通りすがりの人達は好奇の目で見てはヒソヒソ言っていた。

それを見たゴウランとミオは「ゲッ!」と思った。

こんな恥ずかしい人達と知り合いだと思われたくないという羞恥と、只事でないその様子に

“知っておかなければいけない事”

の様な気がして、ゴウランとミオは目配せをし建物の陰に身を潜め三人の様子を窺っていた。

そこに、ソウが心配で後をつけていたというピピとその付き添い人ゴロウと建物の物陰でバッタリと鉢合わせしてしまい、みんなビックリしていた。

こんな場面のしかも、こんな場所で鉢合わせるなんてある意味奇跡的な偶然だとみんな苦笑いしか出なかったが。

それはさて置き。4人はこの事について“知っておいて良かった”と、思った。

薄々は感じていたが、ミミの裏の顔が分かって心底良かったと。

ミミに関しては、ちょっと図々しい所や
モテ女にありがちな男達から尽くされて当たり前な態度で、何か困り事がある女性に対し

“困ってたら、何も言わなくても、みんな率先してやってくれるよ?やってくれないの?”

“自分が困ってるって喋ったら?”

なんて、簡単に言ってくる。

同じ女性という立場の人達にとっては

“それはお前にだけだよ!あなたは美人だから下心ありありで特別扱いされてるの!”

“自分なんて微塵もそんな事された事もないし素振りさえないわ!!”

と、ミミは悪気なく言ってるのだろうが、それが

“…え!?そんな事してもらってたの?”

“それがあなたの当たり前なの?”

と、いう驚きと、羨ましいという気持ちと自分の虚しさと劣等感と

“男ってサイテー!”

と、いう怒りもぐちゃぐちゃに入り混じりカチンとくる事も多くある。

だが、ミミは明るくて思いやりのある器量好しの優しい“いい娘”と感じる。

感じるがだ。

同じ女としてミオは、色々と引っ掛かりを感じ不審に思ってたし

時折見せるミミの隠れ嘲笑いに気付いた時や、周りにバレない様にミオにマウントする事もあり苛立つ事も多かった。

だから、ミミに対し引っ掛かりと気持ち悪さを感じていたのだ。

もちろん、男性にはいい顔しかしないミミ。

ミミはよく

「男性女性関係なく接しちゃうから誤解されやすくてぇ。私わぁ、みんなと平等に仲良くなりたいだけなのにぃ〜。」

と、周りのみんなに言っているのをよく聞いていた。

その言葉で男性陣だけでなく女性陣にも好感があったようだ。

しかし、ミミは似たもの同士の女性とは上手くやっているものの

それ以外の女性陣に対する隠れた嘲笑いや隠れた見下し、マウントなどがありその人達からはミミは距離を置かれる。

距離を置かれるが大事にならない。

何故なら、ミミの信者化した男性陣がナイトの如くミミを守ろうとするから。

ミミを少しでも悪く言おうものならミミに関わる男性陣全員を敵に回す様なもの。

…怖すぎる。

だから、ミミの裏の顔が分かっても女性陣は何も動けず、上辺だけの付き合いはするものの(ミミのナイト気取りした男性陣が怖いので)なるだけ関わらない様にしている。

これが今までミミと旅を続け、ミミの行動と関わる人達の様子を見てきたミオのミミに対する感想である。

だから、できる限り関わりたくない人だと思っていた。

もう、その声を聞くだけで苛つくくらいには。

けど、今回のこれを見て絶対に関わりたくない。関わってはいけない人間だと

ゾッとしていた。


ゴウランも、一度はミミにゾッコンでのめり込んでいた男の一人。

ヨウコウとミミの関係を知っても尚、ミミを信じていたくらいミミに心酔していた。

ヨウコウとミミの“あの会話”を聞くまでは。

それを聞いてヨウコウとミミに不信感を抱き、ミオからの忠告もあり時間は掛かったが

自らの行いなどを振り返り、反省し自分を正そうと現在奮闘中である。


ピピの場合は、ソウと恋人関係な筈のミミがヨウコウと浮気しているのを見かけてからミミを見る目が変わったし。

ピピからミミの浮気話を聞いてはいたがゴロウは、器量良しで可愛いミミが…まさかと思いつつ

ピピは信用しているので真実を見極める為、ミミの事を注意深く警戒し様子を窺っていた。

そんな中、ミミの裏の顔を知る事ができた。

ゴウランは少し前までの自分を思い出していた。

ミオがミミの事をよく思ってないという話を聞いた時

「ミミは、そんな女じゃない。むしろ、お前には無い優しさと思いやりがある!
ヨウコウ様の事だって…きっと、話せば分かる。俺がミミの目を覚ましてやる。」

なんて、ミミを擁護する事ばかり言ってはミオと激しく喧嘩していた事を。

…だが、こんなのを見せられてしまっては…。

ミミには、ソウという恋人がいるのにレッカという浮気相手がいて、セフレのヨウコウと自分がいて。

この様子じゃ、ミミには恋人やセフレが数多く存在していそうだ。

…そう思った瞬間、性病が怖いから直ぐにでも病院へ行こうとゾッとしたゴウランだ。

ミオを批判しミミを庇っていた自分が恥ずかしい。

こんな女にのめり込んでいた自分が恥ずかしい。

穴があったら入りたい気分だ。

しかし、あの赤髪の長身の男…レッカって名前聞いた事あるな、と、ゴウランは考えていた。

…誰だっけな?

だが、しっかり思い出せないも
あのレッカという男、王子、王族、或いはいい家柄の人間だという事だけは分かる。

でなきゃ、ミミがあんなにべったりな訳がない。

…ソウ王子も運が悪かった。

あんな女に騙されて…。

あ〜あ。信じていた恋人に裏切られて絶望的な顔で立ち尽くしてる。

なんて、不憫というか気の毒というか…とんだピエロだと自分の事は棚上げでソウに憐れみの目を向けていた。

「…ハア。本当、男って馬鹿。」

ミオは、下らないと言わんばかりに盛大なため息をついていた。

そんなミオの言葉に、ゴロウはごもっともと苦笑いし

「…は???
お前には人の心は無いのか!?」

と、カチンときたゴウランは怒鳴りつけた。

「ほんっと!あなたは、直ぐにカッとなって視野が狭くなるから嫌になるわ。
確かに全面的に絶対的にミミが悪い。
けど、その前によ?そもそも、ミミだけが悪いとも思えない。」

「…ハァァッ?あれは、どう考えたってミミだけが悪いだろ!?」

ゴウランは、ムカムカしながらミオの意見を真っ向から非難した。

「だって、そうじゃない。結局の話、ソウ王子はミミの容姿と上部っ面の良さばかり好きで、ミミの表面上しか見てなかったって事。
たった数日の出会いでミミの全てを分かった気になって、内面を見る事なく自分の理想と夢をミミに見て勝手な思い込みで心酔して信者化してバッカみたい。」

ミオは勿論ミミにはかなりムカつくが、ゴウランとソウ王子にも凄くムカついている。

「何、言ってるんだよ!あんなに可愛いコに優しくされたら誰だって勘違いするし、付き合いたいって思うのは当然だろ!!」


…結局…


「…要するに、容姿が良くて表面だけでも愛想が良ければ誰でもいいって事ね。」

と、ミオはこれが現実か…。
なんて元々恋愛に冷めた気持ちのあったミオの恋愛に対する思いは更に急降下。

こんなのだったら自分は恋人や旦那なんていらないやと再認識していた。

恋愛なんて裏切りしかない。

つまり、美形で自分好みだったら誰でもいいんでしょ?

それ以上に美形な人が現れたり新たに好みの人が現れたらそっちに目移りして乗り換えるんでしょ?

そんな事してたら浮気、不倫だらけ。
色んな人に色目を使って飽きたらゴミのようにポイ捨て。

そして簡単に乗り換えてのその繰り返し。

自分の子供の前でさえ…

もう、考えただけで吐き気がしそう。

と、自分の両親の事、元彼を思い出し身震いし胸糞な気持ちになっていた。


…最悪…


「…はぁぁ!?さっきから何なんだよ!?喧嘩売ってんのか?」

ゴウランはブチ切れ、耳障りなくらいギャーギャー騒いでいた。

なんで、私の話を理解できない馬鹿なんだろうとミオはゴウランに苛立ち。
ゴウランもそっくりそのままミオに対し思い。互いにはらわたが煮えくり返る思いだった。

そんな二人に


「…そうかな?自分的にはだが、相手の容姿を好きになっても別に悪くないと思う。そもそも、第一に目に入るのが容姿だから。

だが、考えてみよう。

もし、相手の容姿に惚れて付き合ったとしよう。

だのに、中身まで自分の夢と理想を相手に求めて押し付けるのはどうかなって思う。

それは、自分にあまりに都合良すぎるんじゃないか?そんなんじゃ、上手くいくわけない。

全てがパーフェクトな人間が自分の恋人だったらなという気持ちはもの凄く分かるが。」

なんて、ピピも自分の考えを口に出した。


「…う〜ん…。色んな意見があるね。
人それぞれ、色んな考え方や価値観を持っているから。
何が正解とは言い切れない所はあるね。人間関係も難しいけど…恋愛も難しいね。」

ギャーギャー自分達の考えをぶつけ合う3人を見て、ゴロウはなんとも言えない気持ちになっていた。すると


「確かに、人それぞれ色んな考えあるよな。自分は、“自分自身”を見て好きになってもらえたら嬉しいな。
なんつーの?上手く言えねーけど、気持ちってさ自然に芽生えるもんだし。
自分で自在にコントロールできるもんでもねーんだからさ。」


なんて、いつの間にか会話の中に入ってきたハスキーボイスが。
みんなビックリして、ハスキーボイスのするゴロウの隣を見た。

すると、そこには

12、3才くらいのドえらい可憐な美少女が立っていた。

色白でホワイトシルバー色の髪、サラダグリーン(透明感ある薄い青緑色)の目のせいか、どこか儚く麗しい。

まるで、聖女様を思わせるような神秘的な美しさを持った美少女だ。

ムーサディーテ国の中でも、上位に立つほどの超美少女だとゴウラン達は思った。

ついでに、清楚で可愛い見た目の美人に弱いゴウランの目がハートになり鼻の下が伸びきっている。

顔も真っ赤でソワソワし何処か落ち着きがない。ゴウランはこの美少女に一瞬にして恋に落ちたなとミオ達は感じていた。

ついでに、その様子にミオはしら〜っと呆れきっていた。


「あー…、もしかしてだけど。
ソウ王子の知り合い?お前ら…アナタ達の様子を見てそういう風に感じたんデスケド。」

美少女は、慣れない丁寧語でぎこちなく聞いてきた。そんな美少女にミオは

「いきなり何なんですか?あなたは。
私達の話を盗み聞きした挙げ句、勝手に話に入ってきて失礼だと思うのですが。」

と、ツンとした態度でピシャッと美少女を指摘した。

ゴウラン達は、ミオの言う事は分かるしその通りだと思うが。

ミオのそのいけ好かない態度もいかがなものかと思いながらも、下手に口を出せずハラハラしながら二人の様子を見守っていた。

「あ、ワリーワリー!
オレの名前は“月(ルナ)”。目的は、多分お前らと一緒。」

ルナは、儚く可愛らしい容姿を裏切るようなガサツな喋りと、熱血漢を思わせるような暑苦しい態度でゴウラン達に自己紹介をしてきた。

そこで、ゴウランとミオはこの美少女が注目人物の一人“ルナ”なのかと驚きを隠せなかった。

こんな儚げな美少女が…え?この少女が“ルナ”?こんな小さくて戦えるの?

こんな年端もいかない少女が旅なんてできるの?大丈夫なの?

なんて、二人の心が透けて見えるようでルナは米神に青筋をピキリと立て


「オレの年齢は“18才”。王族である将校の“息子”で王位継承候補者で旅に出ている。」


と、自己紹介に言葉を付け加えた。

そこで、ゴウラン達はピッシャーンと全身に大きな衝撃が走った。

…な、何だと?

この幼気で儚い美少女が“男”だと!!?
どこから、どう見ても美少女にしか見えない。

それに、こんな幼い姿なのに“18才”だと!!!?

こんななりをしてゴウランとミオより年上だなんてビックリもビックリで、みんなピシリと固まってしまった。

しかし、彼の自己紹介。これでハッキリした。つまり、そういう事。

この旅の参加者は、王子、姫達だけでない。

王の血筋はみんな、この旅に参加しているって事になる。


「…ところで、あそこで突っ立ってるソウ王子だよな?…まあ、今はそれは置いといて。
オレさ。“チヨ”って女、探してんだけど。確か、チヨはソウ王子と同じチームだったはずだよな?どこ居るか教えてくれないか?」


と、ゴウラン達にルナはチヨの居場所を聞いてきた。

おそらく、ルナは修羅場のソウを見かけそれを建物の陰で見ていたゴウラン達。

そして、みんなが話す内容。それらを結びつけ、ゴウラン達はソウのチーム或いは何らかの関係者だと思い近づいてきたらしい。

そして、今はとてもじゃないがソウに話し掛けられる状態ではなかったので、ソウの関係者らしきゴウラン達に声を掛けてきたのではないかという想像がつく。

それでも、この“ルナ”をなのる美少女…いや美青年が何故、チヨの存在を知り居場所を知りたがっているのか怪しく感じる所があり一同は簡単に教えられず口籠っていると


「オレとチヨは“相弟子”だ。チヨとソウ王子が幼馴染だって事も、ソウ王子と同じチームになった事も知ってる。
旅に出る前にチヨから教えてもらったからな。ここまで言っても教えてもらえないのか?」


と、ルナが言った所でピピとゴロウは目配せをしお互いに頷いた。

そして

「ルナ様…」

ピピがルナの名前を声に出すと

「“様”はいらねーよ。んな硬っ苦しいの苦手だし、何より今は試験の旅の途中だ。」

と、同じ目的で旅をしているのだから理由は分かるだろと含みのある言い方をしてきた。

一瞬だけ、ルナからピリ…となんとも言えないオーラを感じピピは“只者じゃない”と感じた。

「先日、チヨはチームを離脱しました。」

と、告げた。

すると、ルナの目は驚愕でみるみる大きく見開かれ

「……は?」

一瞬だけ声を失うも、すぐに取り直し


「理由を聞いてもいいか?」


と、チヨの離脱理由を聞いてきた。
ピピとゴロウは、話してもいいものだろうかと戸惑うもルナの圧倒的オーラに押され、その一部始終を話してしまった。

その理由に、ルナだけでなくゴウラン、ミオも絶句した。

ソウ王子の事をあんなに世話をし尽くしてきたチヨをソウは酷く罵倒しチームを追い出したというのだ。

ただ、ピピとゴロウはその現場を見た訳ではなく、チヨが居なくなりどうも様子のおかしいソウを問い詰めたところ逆ギレしたソウが

『あんなに口うるさく世話されてて正直ウンザリだった!俺の事を何でもかんでも分かってる風なな素振りが大嫌いだった。

女の欠片も魅力もないウザいデブスが俺の近くにいるのが凄く嫌だった。

しかも、あんなのに好かれるとか気持ち悪い他ない。チヨに恋愛感情で好意的に見られてる事に気付いてからは絶望的な気持ちだった。こんなヤツにしか俺の近くに寄って来ないのかって。

それに比べてミミは、何でも俺の事を分かってくれる。明るくて思いやりがあって優しい素晴らしい女性だ。行動の一つ一つも可愛い。

こんな素敵な女性が俺の側にいてくれるのが嬉しく幸せだ。

チヨとは比べ物にならないくらい理想的な女性だ。そんなチヨが、嫉妬からミミの事を悪く言うのが許せなかった。

そんな醜いチヨの心に反吐が出て、風紀を乱さないようこのチームから抜けるように言ったまでだ。』


そんな事を言ったのだという。

その内容を聞き、ルナは握り拳を作り


「…マジでありえねぇ…マジでっ!!?」


ワナワナと怒りを露わにしていた。

そして、キッと呆然と立ち尽くしたままのソウを睨みつけると


「テメー、ふざけんじゃねーーーーーっっ!!!」


声を荒げ、もの凄いスピードでソウに向かって行った。いきなりの出来事に一同がハッとした時には


…ドゴッッ!!!!!


ルナの拳が、ソウの頬にめり込んでいた。その勢いでソウは地面に倒れ込んだ。いきなり殴られ痛む頬を押さえながらソウは何が起きたのかと上を見上げた。

そこには、ソウにとって見覚えのある顔が自分を怒りの籠もった表情で睨みつける姿があった。

…何故、自分はこの人に殴られているんだ?訳が分からない。

自分とこの人はただの従兄弟同士で直接なんの関わりもないし。あるとすれば、城のイベントで顔を合わせ挨拶する程度。

それだけの関係性なのに。

意味が分からない。

と、ソウはキョトンとしていたが段々と冷静になってくると何もしてないのに何故殴りかかってきたのかと怒りが込み上げてくる。

その間にも、ルナは倒れたソウに馬乗りになり胸ぐらを掴むと


「…テメー、チヨに何て事してくれたんだ!!?」


と、ゴッ!頭突きまでしてきた。
…なんて石頭なんだ。見た目に反してもの凄い石頭のルナの繰り出した頭突きでソウは軽い脳震とうで頭はクラクラ目から火花が散っていた。


「いきなり、何するんだよ。…それより、何故あなたがチヨの事知ってるの?…チヨ違い??」


ソウは、クラクラする頭でルナに疑問を投げかけた。

チヨは城に招待もされない程の超貧乏貴族のど田舎出身だから、イベントにも参加できないチヨはこの人とは一切関わり合う事もない。

…なら、考えられる事はチヨって名前の別人とアイツを勘違いしてる可能性が高い。

…はあ。面倒くさいのに巻き込まれちゃったなぁ。チヨ違いで、殴られたり頭突きされたり…ミミも…。

…最悪だ。今日はなんてついてない日なんだ。


と、ソウは深いため息をついた。