そこは、ムーサディーテ国のとあるオシャレカフェ。

そこで、イチャついてるバカップルがいた。


カフェのテラスで人目も気にせず…


「ソウ様。はい、あ〜んですぅ。」


と、超上目遣いで甘々な猫撫で声で、見目麗しい男子にミミがクリームたっぷりのパンケーキを口に運び、それを見目麗しい男子が照れながらもパクリと食べていた。


「…ちょっと、照れるかも。」


照れ臭そうに笑みを浮かべミミを柔らかな目で見ている見目のいい男子。

どこからどう見ても、付き合いたてホヤホヤのイチャイチャカップルである。


その様子を隣の席で遠目で見ていた


………ヨウコウ達は驚いていた。


…ん?なんで、アイツらこんなイチャついてるんだ?

その前に、あの見目のいい男は本当に“蒼(ソウ)”なのか?


驚きを隠せないヨウコウ達のまた隣の席で


「…まあ、お陰でソウがやる気を出してくれたからこっちとしては、そこはありがたいが。
あれは、ちょっとなぁ…う〜ん…。
ソウにとったら初めての恋。しかも、初めてのお付き合いで浮かれのは分かるが…。
少々、浮かれ過ぎな気が…。
ちょっと、先行きが不安に思えるというか…」


と、ミミとソウのイチャイチャをシラー…っと見て発言したのは、ソウのチーム一般人専用用心棒のピピである。

ソウもピピも、“あのお喋りな試験監視係の商工兵”が注目人物と言っていた人達だ。
だから、ゴウランとミオは二人がとても気になっていた。ちなみに、この話はヨウコウは知らない。何故なら、お喋りな兵が話している時ヨウコウは気絶していたのだから。

ピピは、ビーストキングダム国出身で獣人だ。
年は29才。
姿はほぼ人間の姿で、狐の耳と尻尾が生えている。色は鉛色だ。爪は切ってあるが、一般的な人間と違い分厚く丈夫そうだ。
容姿は、黒い肌に鮮やかなピンクと白の腰まであるドレッドヘアーをポニーテールでまとめている。ラピスラズリ色のブルーの目。
胸は無いが、全体的にスレンダーで手足が長く腰のラインがとても美しい。
顔立ちも全体的にシャープでクール美人といった感じだろうか。少々性格がキツそうなツンツン系美人に見える。

ピピが護衛する一般人代表は男性で、45才の冴えない独身のおっさんのゴロウだ。
頭も悪ければ、魔法も使えない、運動神経も皆無のダメダメそうなもさいおっさん。
何故、一般応募選考を通過できたのか謎である。

チーム全体の護衛である、チヨはウォーサイズ(大きなカマ)を得意としている。
女子プロのガタイを連想させる様なガッチリムチムチした肉体で顔はブサイクではないが、全然モテないだろうな、異性に見向きもされないだろうなぁといった容姿だ。
ミオと同い年で大会ではいつもミオと決勝戦争いをしていたライバルである。
毎回の様にミオが優勝を掻っ攫っていたが。


「…何とも言いがたいべ。
まあ…ソウがあんなにイケメンだったってのが驚きでしかないけんど…。長い付き合いで、ソウは様々な分野においてポテンシャルが高いってのは薄々感じてたけっちょ…。
…まあ、ミミさんのおかげでやる気を出してくれたってのはいい事だべ。…けんども…」


チヨは、何とも言えない顔をしてソウとミミを見ていた。


…まず、ミミとソウが付き合い始めたキッカケを説明しなければならない。



〜遡る事、あのお喋りな試験監視係商工兵(フウライ)がヨウコウ達のもとを去って数日後の事である〜


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お喋りな商工兵が喋った内容をヨウコウに説明できないまま、ゴウランとミオは何とも複雑な気持ちで日々を過ごしていた。

あのお喋り兵が言った事は事実であろうが、その事実をヨウコウに教えた所で傲慢でプライドの高いヨウコウはこんな話は信じないだろうし不機嫌になるだけだと分かり切っていた。
その為、二人は面倒を増やさない為に必要な時が来るまでこの事はヨウコウに伝えない事にした。

そんなある日の事だった。


ヨウコウ達はそれぞれ別行動をしていた。
ゴウランとミオは旅に必要な物の買い出しとトレーニング。
ヨウコウとミミは一夜の相手を物色する為に。
ヨウコウは向こうから声を掛けられるのをひたすら待っているスタンスだ。

ミミは、好みの男にラブリーアタックしまくりだ。相手にされずもめげずにラブリーラブリーしていた。

だって、自分は可愛いんだもんって自信があるから。

今までも、どんな理不尽なわがままもミミが可愛いって理由で許されてきたし、それで通ってきた。

物心つく前から家族も親戚も周りの人達みんなミミが可愛いから今までずっとチヤホヤしてくれた。ちょっと、良い子のフリをすれば面白い様に自分の思った通りに事が進む事も知った。
だから日々、上っ面の良さに磨きをかけてきた。

みんな面白いように騙されてチョロいと思った。

本当に笑えるとミミはほくそ笑みながら、裏ではイジメや不倫、浮気など中々エゲツない事をしそれを楽しんでいた。

それが当たり前だった。

だから、自分に落ちない男がおかしいのだ。
ミミは本気でそう思っている。


「もう!!絶対、みんなおかしいぃ〜〜!!
ミミを見てくれないとかあり得ないから!!!
こんなに可愛いのにぃっ!!!」


今日はことごとく振られっぱなしで、気がつけば日が暮れ始めていた。

仕方ないから宿に戻ろうかなと思った、その時だった。


…ブオォッッ!!!


突然の突風が吹き、ミミは思わず風から身を守る為に身を捩った。


「…もう!今日はもう散々!!」


目にゴミは入るし、セットした髪もボサボサになるしで最低な気持ちになっていた。
その時までは。

突風が止み、イライラしながら顔を上げると目の先には自分好みの男性がいた。
しかも、ラッキーな事に


「…わわっ!いきなり、強い風が吹いてビックリしたね。大丈夫?ソウ王子。」


と、もさいダッセーおっさんが言うと

綺麗な顔の男は、風で乱れた髪を自分の顔を隠す様にグシャグシャっと鳥の巣の様にした。
おかげで、綺麗な顔は隠れ、髪は鳥の巣。洋服もどうでもいいダサい恰好なので、それはそれはもさいダッセーおっさん同様の隠キャそのものになっていた。

だが、ミミは見て知ってしまった。

このクソダッセー不細工そうな男子は、実はとんでもないイケメンだって事を!

しかも、もさいおっさんはこの隠れイケメンの事を“王子”と呼んでいた。
彼らを見れば、いかにも冒険者って感じで強そうな女性も二人ほどいる。これは、もしかしなくても、絶対そうだ!!!

…ちょっと、どうかなぁ…って思う所もあるけど。プロレスラーみたいなムチムチのブス女が、ソウって隠れイケメンの王子をおぶってるのが何か異様な光景だが。
その理由も、ソウ一行の会話で知る事ができた。


「いい加減、自分で歩け。」


「…えぇ〜。めんどー。」


「…ったく!オメーってヤツは昔っから…はぁ…」



プロレスラー並みのボディを持った女は、訛りが凄くてそれが可笑しくて笑っちゃいそうだが、それを何とか堪えミミは考えた。
このソウって王子、面倒臭がりの問題児なのだなと。しかし、考えてみると美味しい話かもしれない。

コイツに取り入れれば、将来的に自分はお金使いたい放題の好き勝手し放題!
ヨウコウやゴウランよりもずっとずっと簡単に騙せそうだ。
だって、いかにも世間知らずでチョロそうな絶好のカモ!
しかも、身なりを整えれば周りに自慢できるもの凄いイケメンになるであろう。そこは、自分が育て上げればいい。


そう思っていた矢先、更なる絶好のチャンスが到来した。


ソウ王子とプロレスラー並みの女が言い合いをしていると、興奮したプロレスラー並みの女が怒りに任せてユサユサとソウ王子を大きく揺すっていた。
そのせいで、ソウのズボンのポケットからポロリと何かが落ちた。


それを見たミミの行動は早かった。



「…あのぉ、すみません。ちょっと、いいでぇすかぁ?」



そう、上目遣いでソウに話しかけた。

一行は、声をかけてきたミミに気が付くと、立ち止まってミミを見た。



「…これ、落としましたよ?」


ミミは、小首をコテンと傾げるとふわっと愛らしい笑みを浮かべて見せた。
それには、ソウは興味を示さずプイっと別の方向を向いてしまい訛りの強いムチムチボディの女が代わりに


「ありがとうございます。助かりました。」


にっこり笑い頭を下げた。そして



「ほら!オメーもお礼言いな!」


と、体を揺すってソウにもお礼を言う様促した。すると



「…アリガトーゴザイマス。」


渋々といった感じで、面倒くさそうに棒読みにお礼を言ってきた。
普通なら、この態度にイラつくだろうが先を見ているミミには、この行動はどうでも良く思えた。
むしろ、こういう奴ほど一度信じ込ませると自分の意のままに動いてくれる最高の下僕になるのだ。
今までの経験で、それをよく知っている。

だから、ミミは


「…あのぉ〜…。大丈夫ですかぁ?具合悪いんですか?」


と、心配そうにソウを見上げ声を掛けると


「…あ!待ってて下さいね。」


そう言うと、慌てたようにパタパタ走って、すぐ近くの出店で水とゼリーを買ってきた。


「良かったら、これをどうぞ?
少しは楽になると思いますよ?」


ハアハアと息を切らしながら 
心配そうにソウに自分の買ってきた物を差し出した。さらに


「…あ!あと、あと!!これと…」


自分のカバンを漁り、細々とお菓子を出してきた。そのミミの必死な様子に、ソウ一行はなんていい娘なんだ、行動の一つ一つさえ可愛いし…と思った。

可愛いのに、それをひけらかす事なく人の為に必死になれる。人の見た目など気にせず平等に接してくれる。

ソウはこの瞬間にミミを気に入ってしまった。…つまり、恋に落ちたのだった。


恋に落ちたソウは、いそいそとムチムチボディの女の背から降りるとボサボサ頭を手櫛で直す素振りを見せミミの前に立ち



「…大切な物を拾ってくれたお礼がしたい…デス。」



と、恥ずかしそうに、俯き加減にボソボソっと話しかけてきた。
その様子に、ミミは内心ヨッシャーと思いつつボロが出ないように慎重に慎重に事を運んでいった。


その小さな積み重ねで、二人はちょくちょく約束を交わし携帯で毎回のように連絡しあい

その間に、ミミは焦らないようにじっくりとソウを自分好みの男性へと育てていった。


…結果。ソウは、素晴らしい逸材であった事が判明。面倒だからと怠けていただけで、本気を出したら天才そのもの。
容姿も少し身なりに気をつけただけで、ヨウコウと同等レベルのイケメンになっていた。

身長は175㎝くらい、やや細身だがミミの為に努力をしていたらいい感じに筋肉もついてきた。
鳥の巣だったボサボサ頭を美容院でカットしてもらった時はミミもビックリして思わずカッコいいと声が漏れてしまったほど。
カットした店員さんも周りのお客さん達も驚きで歓声が上がった程である。

鳥の巣頭を取り払って見れば、中からは
孔雀色の目の中性的な超イケメンがお目見えしてきたのだから。髪の色もシルバーブロンドで、少しあどけなさの残る中性的な容姿をより惹き立たせていた。


そして、出会って一週間後には
お互い目的を持った旅人。いつ離れ離れになってもおかしくないという焦りからダメもとでソウはミミに告白をし、ミミはそれを受け入れ二人は恋人となり…それからも愛を育み今に至るのだ。

なんでも、お付き合い一週間記念なのだとか…。その記念日に、自分達をお披露目する為に、わざわざみんなを集めたらしい。

これが婚約、結婚報告なのだったら分かるが。

集められたメンバーは、何でこんな事で自分達がわざわざ貴重な時間を割いてまで集められたのか分からなく苛ついていた。

だって、来てみれば
ただただミミとソウのイチャイチャを見せつけられ、挙げ句、集められたメンバーは放置なのだから苛つかれても仕方ない。




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そのラブラブカップルの様子を見て、チヨは二人の邪魔をしたら野暮だといい軽くみんなに挨拶をするとその場を去っていった。
それを慌ててピピが追った。複雑そうな表情を浮かべるゴロウを連れて。

その様子から、多分、チヨはソウの事が好きなんだなとヨウコウ達みんな察しがついてしまった。

…まあ、あんなにイケメンだったら好きになってもおかしくないだろう。
しかも、可愛い彼女と二人だけの空間を作り出し目の前でイチャイチャされたら…精神的にかなり辛いものがあるはずだ。

しかし、ヨウコウは身の程を知れよと思っていた。お前みたいないかにもモテない女が、イケメンに振り向いてもらえるとでも思ったのかと。バカな女だと心の中で呆れ笑いをしていた。

鼻で笑うヨウコウの姿に、ゴウランとミオは
ヨウコウの心が透けて見えるようで胸糞悪い気持ちになっていた。


お洒落なカフェを出たチヨ達は、そこから少し遠く離れたファミレスにいた。

一足先に宿に戻ろうとしたチヨをピピが引き止め、話がしたいとあえてソウ達のいるカフェから離れた場所に連れ出したのだ。



「…チヨは小さい頃から、ソウと一緒に育ったんだったな。
私もチヨ達と一緒に旅をしていて何となく気づいてたよ。チヨの気持ち。
だって、チヨはずっとソウを見ていたからな。…ずっと。」


ピピは、チヨと向かいの席でジッとチヨを見ていた。


「…まあ、幼なじみだし。ソウはあんなだから、世話する人がいなきゃ…な。
けんども、もう、その必要もなくなったべ!
ミミさんのおかげで、ソウは変わった。
いくら、オラが世話焼いても何言っても何にもやる気を起こさなかったあのグータラ王子が。
ミミさんが現れて、みるみる内に変わって今じゃ別人の様に成長してるべ。
これで、ソウは堕落的な未来は無くなって、希望ある未来へと変わった。それが、嬉しい。」


と、チヨは自分はお役御免だと笑っていた。
それを、ピピとゴロウは切ない気持ちで聞いていた。


「…小さい頃から今までずっとずっとソウに付きっきりで面倒をみて、どんな時も見捨てず守ってきたってのに。君は、ポッと出のミミさんに全てを掻っ攫われてそれでもいいのかい?」


ゴロウが、ミミと戦う気持ちは無いのか、ソウに気持ちは伝えないのか確認すると


「いいんだ。ソウが幸せなら!
アイツは、王子という特殊な立場で生まれた時から色々葛藤し戦ってきた。そんな苦しみだらけの中生きてきたんだ。オラはそれを近くでずっと見てきた。
ソウが幸せならオラも幸せだ。だから、オラのせいでソウの幸せを壊す事はしたくないべ。」


その言葉を聞いて、ピピとゴロウは何とも言えない気持ちになる。

できるならば、チヨの気持ちが伝わって、ソウとチヨに恋人…結婚してほしいと強く願ってしまうほど長い時間を共にし間近でソウとチヨの関係性を見てきたのだ。
何事にも一生懸命で少々お節介が過ぎるが、とてもとても優しいチヨに深い情が湧いていたし仲間として友人として大好きなのだ。少しでも力になりたいと思うのは当たり前である。

そんな中、ピピが神妙な面持ちになり



「…ミミさんの裏の顔を知っても、そう言い切れるのか?」


と、言い出した。どういう事かとチヨとゴロウが首を傾げると



「最近のソウの成長ぶりを見ていて、ソウの成長を止めたくなかった。こんなにも、生き生きしたソウなんて見た事もなかったから、どうしたらいいものか悩んでいたんだが。
今、話す決心がついた。聞いてほしい。
…私は見てしまった。ヨウコウ王子とミミさんがーーー」



ピピは、つい先日夜中にお酒を飲みにバーに出掛けた時だった。
その時、たまたまミミとヨウコウを見かけたのだが
二人がただならぬ雰囲気だったので、まさかと思いつつ二人を尾行したらホテル街に来ていた。二人はイチャイチャしながら何度も口づけを交わし

その間、二人の会話も聞こえていて



「ミミは、ソウ王子と付き合ってるのだろう?
余とこんなイケナイ遊びをしていていいのか?」


「えぇ〜〜?ミミの大本命は、ヨウコウ様に決まってるじゃないですかぁ〜。
あんな将来性のない男は利用価値がなくなったらポイですぅ〜。
そこまで言わせちゃうんですかぁ?
もう、イジワルぅ〜。もう、もう!プンプンですよぉ〜!プンプン!!」



と、ミミは可愛らしくほっぺを膨らませて拗ねて見せていた。
そして、二人は楽しそうにソウをバカにしながらイチャイチャ乳繰り合いホテルに入って行った。

それを聞いて、チヨもゴロウも頭が追いつかなかった。
最近はあまり会う事も無くなったが、最初の頃は自分達チームとミミという形で会っていて会う度に凄くいい娘だと思っていた。
ソウとミミが恋人になってからは滅多に会う事は無くなっていたが。

つまりは、ミミは最初からソウの正体について分かっていてお金目的でソウに近づいたという事になる。

今は、パニック状態で理解が追いつかないチヨとゴロウだが、ピピの事は信用しているし耳も目も鼻も常人を超えてるピピだ。滅多な事でない限り間違いようがない事だ。

…もしも、金銭目的でソウに近づいただけなのなら。遊びでソウを弄ぼうとしているというなら…ソウを説得しミミから離れてもらう他ない。

きっと、今のソウならミミと破局しても、次こそは本当に素敵な人と巡り合い素晴らしい人生を送る事ができるに違いない。そう、チヨは思いすぐさま行動に出た。



…その結果…



「…今まで、お世話になり…まし…ウグッ…!」



チヨは、ソウにこっ酷く怒鳴られ罵倒されチームから離脱させられた。


昨晩の話だ。


ミミとのデートから帰って来たソウにチヨは大切な話があると声を掛けた。
面倒だが何だかんだチヨの事は放って置けないソウは仕方なく宿のロビーで話を聞く事にした。

そこで、チヨはピピが見聞きした事は伏せた上で、“ソウはミミに騙されてる。ミミの本命は別にいる”と話した。

すると、ソウは顔を少し伏せるとフッと笑い


「チヨ、いい加減にしてよ。お前、本当うざい。」


と、面倒臭そうな表情をしてチヨを見てきた。



「…信じられないかもしれないけんど--」


そうチヨが言いかけた時


「…お前さ。今、何してるか分かってる?
やめてよね。醜い嫉妬はさ。
醜いのはお前の容姿だけにしとけよ。」


ソウはため息混じりに呆れた様子でチヨの言葉を遮って言ってきた。



「……ソウ?」



「お前さ、自分が太ってて不細工だから可愛いミミに嫉妬してるんだろ?
お前と違ってミミは、何もかもが可愛いし素晴らしい女性だよ。
女のカケラもないお前とは大違い。そんな心も容姿も醜いお前を女として見るとか無理。

知ってたよ?
小さい時から、お前俺の事好きだったろ?
だから、あれこれ世話してきたんだろ?本当、無理。気持ち悪い。
お前に好かれるとか最悪。本当、やめてよ。
お前の顔見るとイラつき過ぎて吐き気がする。」


そんな事を言われ、他にも色々言っていたが
それ以上チヨはソウの言葉は耳に入ってくる事はなかった。

一通り話終わるとソウは立ち上がり呆然とするチヨの前を通り過ぎようとしていた。その時、ソウは何か思い立ったかのように立ち止まると



「もう、この際だから言っとく。
いつもお前は、俺の何もかも知ってる様な振る舞いしてたよね?
あれ何?お前に、俺の何が分かる訳?お前なんかより、ミミの方が圧倒的に俺の事分かってくれるよ?
お前なんて、最初から要らない存在だって事が分からない?お前の存在に、俺がどれだけ迷惑してたか分かる?
もう、俺にまとわりつくのはやめて?気持ち悪いしうざいから今すぐにでも俺の前から消えて。」



そう言い残し去って行った。

それからの事はチヨはあまり覚えていない。
だが、ショックのあまり頭が真っ白になりながらも自室に戻り荷物をまとめるとみんなに黙って宿を出ていた。
そして、宿に向かい仲間達に感謝を伝えるべく誰もいない扉の前で深々と頭を下げ、ありがとうとお礼を言いその場を去って行った。


次の日


約束の時間になっても、部屋から出て来ないチヨをピピとゴロウは心配していた。
ソウもどこか都合悪そうな雰囲気で、ソウとチヨ二人の間に何かあったのかもしれないのは容易に分かった。

…もしかして、昨日自分が“ミミの裏の顔”を言ってしまった事が原因?そう思ったら責任を感じずにはいられなくなったピピは、慌てたようにチヨを迎えに行った。

しかし、いくらノックしてもチヨが出てくる気配は無く、恐る恐る部屋のノブに手をかけるとカチャリと音がした。そのまま、ドアを開けると…そこはもぬけのからで。

ピピは、ショックで項垂れながらソウ達の元へと戻って来た。そのタイミングで、ソウのアプリ携帯が鳴った。

それは、緊急事態がない限り滅多に掛かってくる事のない城からの連絡。

ソウは、何となくの予想がつきつつ電話に出てみると。


「護衛のチヨが離脱した。本来ならばチームは失格とみなされるが、全ての責任がチヨにあるとし旅は続行可能となった。近々、チヨに代わる護衛を用意する。」


半分予想通りで半分外れていた。

まさか、チヨが自分達の前から消えると思ってなかったがチヨを迎えに行き戻ってきたピピの様子を見て何となく察した。
そうなれば、自分達は失格。ここで旅も終わるし、自分は王族から籍も外され一般市民として生きる事となるだろう。

そう思っていたが、失格はなく旅の続行が認められた。しかも、全ての責任はチヨにあるという。どういう事だろうか?そこが分からない。

そこで


「…何故、全責任がチヨにあるというのですか?」


と、尋ねるが


「それは、チヨと関係のないあなたには教えられない。これ以上は、チヨのプライバシーに関わる事だ。」


そう言われ、一方的に切られてしまった。納得のいかないソウは何度も電話をかけ直すが全く通じなかった。

チヨが離脱した事実に、ピピは号泣しゴロウはグッと下唇を噛み俯いていた。


「…別に、あんなヤツ居なくていいだろ。」


ソウは、そう言うとミミとのデートへ出掛けて行った。

その背中をピピとゴロウは力なく見送っていた。


ミミとの今日のデートはムーサディーテ国で最も人気のある劇団の演劇観賞。
ミミが見たいというので、寝る間も惜しんでチヨにも手伝ってもらってやっとやっと手に入れたチケット。それを手に劇場へと足を運ぶ。


今回のタイトルは




【『後悔先に立たず』
〜強欲な醜女と絶美の宝石〜】




その二人の様子を遠くから見ていた“本物の”試験監視係の商工兵は



(…これで、ソウ王子は全てを失う事だろう。
頭もキレる上、ダイヤの原石そのもの磨けば誰よりも光る逸材だったというのに。恋は盲目とはよく言ったものだ。

相手によって、良くも悪くもなる。いい例であったし、こんな所でこんな下らない事で潰れてしまうなんて非常にもったいない。

この先、チヨの気持ちを汲み取り軌道修正してほしい。)



そう心の中で祈るのだった。

それが自分の全てを失ってまで、ソウの幸せを将来を望んだチヨの気持ち。