リュウキとハナが、ベス帝王と対面している
その頃、ヨウコウ達は

群がる人々の隙間から渦中の人物達を見て腰を抜かしかけ釘付けとなってしまっていた。

だって、それもその筈。
美男美女だらけに目が慣れた筈なのに、それらが霞んで見えるほど圧倒的美貌の男女が目に入ったからだ。


リンデという女性は
真っ黒な肌に、銀色のゆるふわロングヘアー。
翡翠色のクリクリ大きな目が特徴の可愛い系美人だ。身長が低いのも容姿に合っていてより魅力的である。もう天使だ、穢れを知らない天使としか思えない。


対してのアラガナという男性は
マッシュベースにツイストパーマをかけた黒髪に黒い瞳の色白東洋美人といった感じだ。
…だが、ガラがもの凄く悪い。
耳やまぶた、唇、鼻などピアスがたくさん。
もちろん、アクセサリーもジャラジャラ派手に付いている。
両肩、両腕、首、顔半分にタトゥー。
ヤンキースタイルの服装にサンダルで、柄や色のセンスなど独特で個性的である。…つまるところダサい。

容姿がとびっきりいいだけに、素材が超一級品なだけに勿体無いの一言につきる。


二人共、肌の色や目の色など
この国では珍しい色をしている。


なるほど。三大美と呼ぶに相応しいとヨウコウ達は感心していた。

だが、自分は特別だ。そう調子に乗っていたヨウコウはゴウランとミオに人混みを掻き分けさせ自分は颯爽とリンデの前に立った。


「はじめまして。余は、ヨウコウという旅人だ。君のような魅力的な女性に初めて会ったよ。出会ったばかりだけど運命を感じたんだ。
…良かったら、君とお話しがしたいのだが…」


自分から口説くのは初めてだが、自分に声を掛けられて喜ばない女などいる筈がないとヨウコウは何の疑いもなく自信たっぷりにリンデに手を差し伸べた。

しかし、リンデはヨウコウに見向きもせず


「…どうして?アラガナ君、うちと付き合ってくれないの?うちら、絶対お似合いだと思うよ?」


絶賛、アラガナを口説き中であった。
どうやらアラガナに夢中過ぎてヨウコウの存在に気がついていないらしい。

これは、この国では有名な光景であった。
昔からリンデはアラガナの事が好きで、会う度にアラガナを口説いていた。

その事が原因で、リンデは毎回彼氏と喧嘩になり別れる事になってしまうのだが。
だって、大本命はアラガナなのだから会えたらラッキー。アラガナ出没情報あらば、どんなに遠かろうとその場まで会いに行くアラガナガチ勢である。チャンスあらばアタックあるのみなのだ。


その横では


「スッゴイ、カッコいいですぅ!
こんな美人な男の人ってぇ、初めて見ましたぁ!切れ長の目も素敵だしぃ!」


ミミが、アラガナを絶賛ヨイショして気を引こうと必死にぶりっ子を発動させていた。
もう、浮かれ過ぎてテンション上がりまくりである。

すると、ミミの存在に気がついたリンデが


「…え!?ちょっ…待って???
プクク…!!ウソでしょ!?」


と言いながら、ミミを見て必死に笑いを堪えていた。リンデの様子に気がついたミミは、何故彼女が笑いを堪えているのか不思議に思い首を傾げていた。

…が、その理由はすぐに分かる事となる。



「ギャハハ!!!なんだよ、あのブス!
あのアラガナ様を口説いてやがんぜ!?勇気あんなぁ。自分の姿、鏡で見た事あるんかね?」

「…し、信じられない。アラガナ様に、あんなに気安く近づくなんて、なんて怖いもの知らずなの?馬鹿なの?あの子…」

「…え?なに、あの勘違いブス。マジで、ブスなんだけど。え?」


などと、周りのギャラリーがどよめいていたから。

それは、間近で見ていたヨウコウも感じていた。

…なに勘違いしてるんだ、ミミは!
恥ずかしいヤツ。痛すぎる。
何より、あんな怖そうな相手に気軽に声を掛けられる図太さ…怖いもの知らずもいい所だ。
…殺されたいのだろうか?

そうなのだ。アラガナと並んだミミは少々不細工に見えてしまった。美男子とブスが並んでる図だ。

…そうか、だから誰もアラガナやリンデを口説く者がいないのか。自分が滑稽に見えるから。
あまりにも世界が違い過ぎるから。
よほど自分に自信がない限り、あの二人を口説こうなんて強者はいないだろう。

だから、みんなアラガナとリンデをアイドルの様に憧れの存在にして諦めているのか。

それに、アラガナに関してだけは他にも理由がある。
…怖い。単純に見た目が凄く怖いのだ。
服装やタトゥー、ピアスなどもさることながら纏っている雰囲気がめちゃくちゃ怖い。
いかにも、ギャング、マフィアなどソッチ関係の人間ですって感じがする。

…そりゃ、いくらお近づきになりたくても怖すぎて近づけない。


それは、さて置き


…ならば、今の自分は…
そう感じるとヨウコウはゾッとしたし、ホッとした。
だって、あまりにもミミが悪目立ち過ぎて自分は注目されなかったから。

もし、さっき自分がリンデを口説いていたのを誰かに見られていたなら…そう思うと
もう、この世の恥だと何とも居心地の悪い気持ちになっていた。

しかし、自信満々にリンデを口説くヨウコウの姿をゴウラン、ミオ、一部の住民達はしっかりバッチリと目撃していたのだった。
騒がないだけで、ミミの行動にほとんどの人達が気を取られてただけで。


だが、ここで一波乱起きる。


「…あ〜、マジ、ウッセー。ウゼー。
だから、ここ帰って来んの嫌だったんだよ。…クソッ!」


注目のアラガナは顰めっ面し首をボギボギ動かしながら重い口を開いた。


「あのさ、あんたもあんたも俺にとっちゃおんなじ。」


と、リンデとミミを指差し言ってきた。
それを聞いた人達みんな
何をとち狂った事言ってるんだ?リンデとミミとでは容姿に関して雲泥の差があるぞ、と。
もしかして、アラガナは美的感覚に欠けているのかと疑問を感じていた。服装も独特のセンスだし…。


「…だって、俺。結婚してんもん。
奥さん宇宙レベルで超ラブ。俺の奥さん、
マジ、サイコー。
だから、奥さん以外目に入んねーし。他の女には微塵も興味ねー。」


なんて、爆弾発言をぶっ放した。
みんな、理解に追いつかなくて長い沈黙が続いた後、街中が阿鼻叫喚であったという。

リンデも悲鳴混じりに


「…う、ウソでしょ?アラガナ君!
アラガナ君が久しぶりに国に帰って来たっていうから。わざわざ、うち、こんな遠くまで来たんだよ?…な、なのに…!!?」


と、リンデが声にならない声で縋る様にアラガナの腕を掴むと


「…は?んな事、知るかよ。バッカじゃねーの?つーか、誰だよ?お前。」


アラガナという男の存在を知って好きになってから今まで、必死に口説いてきた自分。
なのに、まさかの認知さえされてなかったという事実。そして、アラガナの結婚情報に、リンデの頭は真っ白だった。もう、色んな情報がたくさんありすぎてキャパオーバーである。

アラガナはリンデを冷たくあしらうと、そっと彼女の手を払った。

そして、グルリと首を回しヨウコウを見ると呆れた顔をしながら


「…よぉ〜、ヨウコウオージサマじゃん。
こんなとこで何してるわけ?試験中じゃなかったっけ?
何、女口説いて遊んでんの?ずいぶん、余裕じゃん。なに?バカなの?アホなの?
…ああ、激甘ったれたボンボンだったわ。」


アラガナが、ゆるりとヨウコウに振り向きざま


「…ヴアッ!!?」


何故だかヨウコウは、地面に転げ落ち顔面を押さえのたうち回っていた。


「「…なっ!!?」」


何が起きたか分からない。が、地面で顔面を押さえて蹲るヨウコウの姿にゴウラン達は驚き硬直していた。いち早く、我に返ったミオはすぐさまヨウコウの元へ駆けつけ


「ヨウコウ様!大丈夫ですか?」


と、声を掛け、ヨウコウを見れば
鼻から大量の血が噴き出て額には青いコブができていた。


「…な、何が起きたというのだ!?」


ヨウコウ自身、自分の身に何が起きたのか理解できていない様だ。ただ、気がついたら顔面に強い衝撃を受け地面に吹き飛んでいたらしい。

ミオは、すぐさまヨウコウに応急処置をすると、すぐ近くにいたアラガナ、リンデ、ミミの姿が目に入った。
三人は非常に驚いた様子でヨウコウを見下ろしている。

驚くのも無理はないだろう。

何もないのに、すぐ隣でいきなり人が吹っ飛んだのだから。

ミオは何があったか冷静に判断する為、辺りを警戒して見ていた。

その時だった。


「…ウソだろ、おい。弱過ぎるにも程があんだろ。」


と、呟く声がした。
ハッと声のした方を向けば、手をグゥーパーと握っては開くを繰り返し自分の手を見てから呆れたようにヨウコウを見下ろしているアラガナの姿。

その様子から、ミオはおおよその検討がついた。ついたが…まさかという疑念も湧く。

だが、ミオは信じられない気持ちを持ちながらもアラガナを見上げ


「…何故、こんな事を?」


と、緊張した面持ちでカマをかけ聞いた。

すると、アラガナは無表情にヨウコウとミオを見下ろして一言。


「なんか、ムカついた。」


そう答えたのだ。


…ゾッ…!!!


その返答にミオは背筋が凍る様な思いをした。
まさかとは思ったが、これで間違いない。

アラガナは、ヨウコウを殴り飛ばしたのだ。
自分達の目では追えない程のスピードで。

そう考えていると


…ガッ!ガッ、ガッ!!


「…グゥッ!!ガハッ!…ヴッ!!」


ヨウコウは、また顔面が3方向に飛び口や鼻から血ふぶきが飛んでいた。


「…ハア、ハア!な、何なんだ!?
刺客だ!この中に余の命を狙う輩がいる!!
ミオ、近くにいながら何をやっているんだ!
お前は、余の為に盾になるのが当たり前だろ!?この役立たずがっ!!」


ヨウコウは、見えない敵に恐怖を覚えガタガタ震えながらミオを罵倒した。

その言葉にミオは怒りを覚えるもグッと我慢しワナワナと肩を震わせながら下唇を噛み、申し訳ありませんと謝ろうとした、その時


…ゴッ!!!


今までで一番重い音と共に、ヨウコウの顎が上を向き後ろへと吹っ飛んだ。

ズザザザァァーーーーー!!!!

地面に落ちたヨウコウの顔面は崩壊していて、あまりの痛みにヨウコウは顔面を押さえ「痛い!助けてくれ」と、声にならない声で泣き叫んでいた。


「…うわ…」


その姿を見て、アラガナはドン引きしていた。
ミオは、慌てて周りに救急車の手配を呼びかけた。大惨事である。

…が、一瞬パァ…と、ヨウコウが光り
思わずヨウコウを見ると


……ッッッ!!!???


あれほど、ボロボロだった顔面は何事もなかったかのように綺麗に治っていたのである。

だが、あっという間の出来事に自分の怪我が治っている事にも気付いてないヨウコウは、必死に助けてくれと泣き叫んだ哀れな姿を披露していた。

全てが一瞬の出来事であった為

ミオをはじめ、ゴウランやミミ、周りの住人達も夢でも見ているかのような気持ちだったし、ミミと住人達は気のせいかと思い何事もなかったかのように平常心を取り戻していた。


けれど、ゴウランとミオはこれは現実に起きていた事だと思った。
何故なら、ヨウコウの周りには夥しい血の跡があったし、未だ恐怖で泣き叫ぶヨウコウの姿があったから。

住人達は、そんなヨウコウの姿を頭のおかしな人がいると白い目で見て関わらないように遠巻きに見ているばかりだ。


そんなヨウコウは、また「…ウガッ!」と声を出すと気を失ってしまった。それをゴウランは咄嗟的に受け止めた。

そこへ、アラガナが


「お前ら、何でそんな弱えーの?
チームの結束もバラバラだし。マジで、何やってんの?呆れて物も言えねーわ。」


そう言ってきたのだ。
その口ぶりは、まるで自分達の正体や目的を知っているかのようだ。

何故、他国の人間である彼が自分達の事をこんなにも詳しいのか?


「ここじゃ、話せねー事あるからさ。
お前らの泊まってる宿に連れてけよ。」


その美しすぎる容姿のせいで、どうしても注目を浴びてしまうアラガナはゴウランとミオに向かってクイッと顎で合図した。

二人はすくむ足に叱咤し、彼の言うがまま素直に自分達の宿へ連れて行った。
ここで、下手な事をしようものなら何をされるか分からない恐怖があった為だ。

人質にでもなったかの様な絶望的な気持ちだった。自分達はこれから、どうなるのだろう…先の見えない不安が二人を襲っていた。

そんな絶望的状況を理解できてないミミは、発狂していたヨウコウの姿を思い出しドン引きしつつもアラガナが一緒で舞い上がっていた。

呆然と立ち尽くすリンデに、クスッと余裕の笑みを浮かべ見せる事を忘れずに。


宿に着くなり、アラガナはベッドにドカリと座り長い足を組みゴウラン達を見た。


「そこ突っ立ってねーで座れば?」


と、隣のベッドを指さした。
一番奥のベッドに気絶しているヨウコウを寝かせると、彼に指定された真ん中のベッドに三人は言われるがまま座った。


…バックンバックン…


何か恐ろしい事をされるんじゃないかとゴウランとミオは緊張で心臓の音が破裂せんばかりにうるさい。ミミの心臓は別の意味でドキドキうるさかった。

アラガナは、そんな三人を冷めた目で一瞥すると面倒くさそうに口を開いた。


「ああ、一応挨拶な。俺は、商工王国副騎士団長の風雷(フウライ)だ。」


ゴウランとミオは、驚きのあまりアラガナ…もとい、フウライを凝視してしまった。

何故、副騎士団長がこんな所にいるのか。
何故、この国でアラガナと呼ばれているのか。
何故、ヨウコウの顔面を殴りつけたのか。

そして、あんなに酷かったヨウコウの怪我が一瞬にして消えたのか。

分からない事だらけである。

「…あ''?なんだ、その目は?喧嘩売ってんのか?」

と、メンチを切られ三人は、ヤクザに絡まれる一般人の如くサー…と顔を青くしブンブンと首を横に振った。


「んで?さっきの質問の続きだけど。
お前ら、なんで、そんな弱えーの?」


その質問に、ゴウランとミオはカッと顔を赤くし睨む様にフウライを見、睨み返されるとすごすごと身を縮ませ俯いてしまった。
だが、答えない訳にもいかず


「…私達は、この旅で着実に実力をつけていってます。これからも精進して強くなろうと思ってます。」


ミオは震える声で、何とか言葉にした。

そもそも、この男が副騎士団長だなんて信じていない。ヨウコウだって、この男を見ても知らないようだったし。

きっと、何か裏があるはずだ。と、ゴウランとミオは警戒している。


「…ハァァッ!?それのどこが着実にだよ?
お前、俺の事バカにしてんのか?」


フウライは、ミオの言葉に呆れっぱなしのようでその様子にゴウランとミオはムッとし


「お言葉ですが、俺たちは数々の有名な大会で成績も残してますし。ヨウコウ様と俺は魔法レベルBです。そして、厳しくも辛い旅にも耐え心身共に精進してます。」


命を掛けたハードな旅をしている自分達の何が分かるんだと怒りが込み上げゴウランがそう口にすれば


「お前さ。数々の有名な大会って言ってるけど、それは学生の大会?一般大会?プロ?
体重別?男女関係無し無差別級の大会?何でもありの殺し合いの大会?何の大会なわけ?

それに、魔法レベルBって…学生級?一般級?プロ級?
どの魔法レベル言ってんの?学生と一般(子ども部門と大人部門)じゃ違うの当たり前だし、プロ級は格が違うぜ?別次元。全然別モンって言っていい。
ああ、プロ級は“魔導”って名称変わるから
お前達がプロ級な訳ないな。」


フウライに指摘されて、ゴウランとミオは雷に撃たれた気持ちになり一気に全身の熱が下がっていくのを感じた。

そうなのだ。

ゴウラン達のいう大会は学生の大会。
武器別、年齢別、体重別など様々に制限のかかった大会。

魔法レベルの話だって
もちろん、学生級魔法レベルB、である。
だって、自分達はまだ学生なのだから。

それだって、とても凄い事には違いないのだが。


「あのお気楽団長、思いつきでお前らの実力見てくるように命令してきたんだぜ?この俺に。
この国に俺の実家があるってだけの理由でだぜ?その時の気分でだけでだぜ?
マジで信じらんねー、あの脳筋筋肉ゴリラ。
ダリィ〜。
おかげで、俺のかわいい奥さんとはしばらく会えないしさ。寂しくて泣いてなきゃいいけど…ハァァ〜…。いや…俺が無理。…泣きそう…、マジで最悪…。早く奥さんに会いたい。ギュッてしてあげたい。」


フウライは騎士団長の悪口と不平不満を漏らすと


「…ああ、このクソッタレとも血が繋がってると思っただけで腹立つわ!」


イラついた様子でヨウコウを見ると


…ゴッ!


と、三人の後ろから誰かが殴られたような鈍い音がし驚き後ろを見るとギョッとした。
だって、何故かヨウコウの右頬が腫れ上がっていて、痛みからヨウコウは頬を押さえウーンウーン唸っていたから。

目の前にいるフウライを見るも…フウライは目の前のベッドに座ったまま動いていない。

何が起きたんだ、と、三人は全身冷たいものが駆け巡るような緊張に襲われていた。
ゴウランとミオはすぐにでも、ヨウコウの手当てをしなければと思うが恐怖で体が動けずヨウコウの手当てをしてもいいかと聞く勇気も持てずいた。

ヨウコウに申し訳なさを感じつつ、自分の不甲斐なさに情けなく思いつつ…疑問が湧く。
さっきのフウライの言葉。ゴウランは思わず


「…血が繋がってる?」


と、声に出していた。


「ああ。俺の父親は商工王の兄貴で、母親はこの国の女王の妹。」


なんて、とんでも発言をしてきた。
つまり、この男…こんななりをしながら商工王国とムーサディーテ国の王族だという事になる。自分達とは地位が違い過ぎる。

しかし、商工王国副騎士団長に就いていて結婚までしているという、このヤンキー…もとい男…見た感じかなり若そうに見えるが…


「不思議なんですけどぉ〜!フウライ様わぁ、すっごく若そうに見えるんですけどぉ。
おいくつなぁ〜んでぇすかぁ?私より若く見えちゃう!」


ミミは、いつものぶりっ子を発動させ猫撫で声で小首を傾げながら聞いてきた。
素晴らしい!さすがだ。凄い!
ミミの図々しさと怖いもの知らずさに、この時ばかりは、ゴウランとミオはある意味感服した。

それには、フウライも少し驚いた顔をし


「…お前、なかなかだな。
絶対、関わりたくないタイプだけど
ある意味スゲーわ。面白いもん見たわ。
だから、面白ついでに特別に質問に答えてやる。俺の年齢は、17才だ。」


フウライの年齢を聞いて、ゴウラン達は驚いた。だって、ゴウランとミオと同い年!

なのに、国の騎士団No.2。

確か、二年前。前副騎士団長はかなりの高齢という事もあり惜しまれつつも引退、そして、騎士団の相談役となった。
何故か、新しく副騎士団長に任命された者の素性は明かされず隠されていた。
いつも魔法衣に身を包みフードで顔を隠しており、その素顔を見た者はいないという謎に包まれた人物だと聞いた事がある。

その人物が、こんな…こんな素行の悪そうなヤンキーまがい。自分達と年が同じという事は、彼は当時若干15才にして副騎士団長に就任したという事になる。

…信じられない…

挙げ句、二カ国の王族というではないか。

何故、王族がわざわざ騎士団に入隊したのかという謎もあるが…。
憧れだけで、カッコ良さそうってだけで、
その地位と権力を使って副騎士団長にしてもらったという可能性が極めて高い。
ならば、コイツは名前だけで実力なんて皆無のお飾りであろう。

そう思う、ゴウランとミオだ。

で、なければ、こんな奴が騎士団のNo.2になんかなれるハズがない!


そんな二人の考えを読みとったのか
フウライは、その反応分かってましたと言わんばかりに「…ククッ!」と、悪そうな顔をしながら笑い


「想像通りの反応過ぎてつまんねー。
お前らが俺の事、どう思おうが。
これが現実。」


やっぱり、そうか!…コイツ…!!と、ゴウランとミオは、腹の奥底から怒りが湧いてきたし、それを黙認する国やお偉いさん達に対して憤慨した。
そこに、またもミミが空気を読まず


「すっごぉぉ〜〜い!世界一のイケメンでぇ、王族でぇ、副騎士団長様だなんて!!
どーやって、副騎士団長様になれたんですかぁ?権力使っちゃった系??」


なんて聞いていた。
コイツ、なんて事聞いてんだ!あり得ない!と、ゴウラン達は思うものの気になる話ではある。

フウライも、これにはキョトンとしている。
そして、ハハッ!と、愉快そうに笑うと


「いいな、お前!気に入ったわ!
いいぜ?少ーしだけ教えてやる。

俺は、身分を隠して一般試験を受けて騎士団に入隊。戦場で暴れに暴れて、結果、副騎士団長になった。」


と、答えた。

つまり、身分に関係なく自分の力だけで副騎士団長まで上り詰めた事になる。

それを聞き、ゴウラン達はなんだか劣等感を感じ居た堪れない気持ちになっていた。


「じゃあ、お母様達わぁ、すっごく喜んだんじゃな〜いですかぁ?」


目をキラキラ輝かせて聞いてくるミミに


「…おまえ、グイグイくるな…」


フウライは、若干引き気味にミミを見るも


「親、兄弟は、俺が騎士団に入隊してる事すら知らねーよ。ついでに、部隊の奴らだって、俺が王族って事も年齢すら知らねー。
知ってんのは極一部の奴だけ。」


聞かれた事を簡単に教えてくれた。

こんなに簡単に教えてくれるのに、彼の素性を知らない人だらけっていうのは、どうも腑に落ちない。


「…何故、そんな重要な事を私達に教えてくれるのですか?秘密にしている事ではないのですか?」


恐る恐るミオが聞いてみると


「気分だよ、気分!
そん時の気分で答えるし、聞かれなきゃ答える必要ないし。それだけ。」


なんて、なんて事ないように言っていた。


「…気になってたんですが、何故…ヨウコウ様を殴るのですか?」


殴られたヨウコウの頬が気になり、ゴウランはヨウコウの様子をチラチラ気にしながら聞くと


「…ア"!?んなもん、ムカついたから殴っただけ。」


さも当たり前の様に答えたフウライに、
ゴウランとミオは

…コイツ、イカれてる…

見た目からしてヤバそうだし

言葉使いも悪い

素行も悪過ぎる


こんなイカれヤローが、我が国の…


そう思うと、忌避感、悪感情が溢れ出てくれる。我が国の面汚しにしか思えない。
なんで、こんな奴が!と、胸糞悪く認めたくない気持ちでワナめいていた。


こんな奴、絶対に副騎士団長に相応しくない!