「君達と仲良くなれたから、こっそり裏話でもしちゃおうかな?」


帝王は、茶目っ気たっぷりにヒソヒソ話をするように前屈みに姿勢を崩すと
口横に手を添え噂話をするように好奇心に満ち溢れた様子で楽しそうに話し始めた。

一行は、どんな話なのだろうとドキドキしながら帝王の話に耳を傾けた。

すると



「あのね!王位継承権を得る或いは、軍人昇格特別枠を得る事が目的の旅なんだろうけどね。
君達は、旅に出る前にこう言われなかったかい?
“お前は、王位継承実力一位。または、軍人訓練生実力一位”だと。」


それを聞いて、ヨウコウ達はドキリとした。
確かに自分達はそう言い聞かされ旅に出た。ライバルである他の王子達の順位まで教えてもらっていた。

しかし、それが何だとヨウコウ達は首を傾げた。


「けどねぇ〜。それは真っ赤な嘘でね。
それは、旅立つ候補生達みんなに言ってる言葉なんだよ。もちろん、候補生の親御さんにもね。」


なんて、楽しそうに帝王は言っていたが
ヨウコウ達は驚きのあまり帝王の言っている内容に頭が追いつかずポカーンとしていた。


「…それは、どういう…」


何を言っているのか理解できないとばかりにヨウコウは話を聞き直そうと声を出した所、帝王は何を勘違いしたか



「何故って?それはそうさ。
危険を伴う旅なんだ。怖気付いて逃げ出してしまうかもしれないし、生半可な気持ちだとそれこそ候補生達の身が危ない。
だから、自信を持って旅に出てもらう為にみんなにそう言葉を掛けるんだよ。」


なんて、勝手に質問を作り勝手に答えを聞かせる形で話をグイグイ進めていった。


「あとは、旅に出ている候補生達は6組って伝えられてるけど、実際は現王の直接の血縁者でなくても王族全ての若者が継承権を得る為の旅に出ているらしいし。

どうして、5組って伝えられるかって?
候補生達が多いって分かるとやる気を無くす人がいるからね。
どんな才能や実力が隠れてるかも分からない未知数な若者達なのに、最初からやる気を失わせて開花できるものを潰したくないという配慮だよ。」



あまりの衝撃の内容に、ヨウコウ達は呆然と帝王の話を聞いていた。

…帝王の言っている事が理解できない。

ショウは、帝王の言っている話の内容についていけず、興味もない話だったので出されたお菓子に舌鼓していた。



「何より、この旅の目的は王族や血筋なんて関係ない。
未来の王たる人材や武人、博士、魔法士など逸材を見つける事が目的。
つまり、時期王は王族だろうが軍人候補生だろうが一般人だろうが血筋なんて全く関係ない。

商工王国の若者達なら誰にでも王位継承のチャンスがある。
この人こそが王たる逸材だと認められた人が、王位継承権を得られるって事なのさ。
また、軍人候補生達も然り。」



その話を聞いて、ヨウコウはハッとした。

そんなバカなと。

王は、王家代々受け継がれるもので一般市民が王になどあり得ない!

あってたまるか!!と。

この国の頂点に立つ血を何だと思ってるんだ。そこら辺の愚民達とはもはや、全てが別格なのにとヨウコウは憤慨した。



「つまりは、同じ仲間であっても
みんなライバルって事さ。」



王族とは、もはや、そこら辺のヤツらとも貴族や将軍達とも違う、国の神的存在なのだと
ヨウコウは


「それは、絶対にありえない話です。」


帝王の言葉を否定した。


「理由ならあります。まず第一に、何故に商工王はたくさんの子供を作ったか。
だから、王の血を引く者だけが王位継承権を得る資格があります。
その事を考えると、ベス王様の仰っている事はどこからか出回ったデマなのではないかと考えております。」



ヨウコウの否定する言葉を聞き、帝王はピクッと片方の眉が動き


「…それは、僕が君達に嘘をついているとでも言いたいのかな?」



と、あの柔らかく優しそうな笑顔が一変。真顔でそんな事を言ってきた。


…ゾッ…!


それには、ゴウランやミオはもちろんのこと、さすがのヨウコウも青ざめ固まってしまった。


…しまった。帝王相手にこれは、出過ぎた事を言ってしまった。

ヨウコウは、帝王の機嫌を直す為にどう取り繕うかグルグルと頭を回転させ考えるが…
王子としての身分な為、今まで人に下手に出る事などした事のなかった自分だ。
どうも上手い言葉が浮かんでこない。

しかし、何か言わなければ取り返しのつかない事になりかねないとヨウコウは


「…ち、違っ…!」


焦り、言葉を発した時だった。


「なぁ〜んちゃって!」


帝王は、真顔から一変。茶目っ気たっぷりなホンワカ笑顔を見せたかと思うと


「も〜!みんなして、そんなに怖い顔しないでよぉ〜。冗談だよ、じょ・う・だ・ん!」


と、何がおかしいのか口元に手を添えるとプスプス笑っていた。


一行は、何がどうなっているんだ?と、つかみどころのない帝王の会話に困惑し、どう反応を返せばいいのか分からず、とりあえずハハ…っと苦笑いするしかなかった。

ショウは、話についていけないので大して話も聞いていなかったが冗談の好きな王様なんだなとザックリ思った。

そんな事より、出されたお菓子が美味しい。
ここは、ネオンやら宝石やらでギラギラしているがお菓子まで派手で驚く。味や食感まで驚きがいっぱいだった。

お菓子もたらふく食べ、落ち着いたショウは帝王やヨウコウ達の会話に興味も無く意味も分からなかったので暇で仕方なかった。

暇過ぎて暇過ぎてキョロキョロし始め
右隣に座るオブシディアンを覗き見るとしっかり帝王の話を聞いている様だった。
左隣に座るシルバーも同様であったが、ショウの視線に気づき


「どうしました?疲れましたか?」


と、小声で聞いてきた。

それに対してショウはブンブンと首を振ったが、オブシディアンはショウの気持ちを見透かす様に


『飽きてしまったのだろ?もう少しの我慢だ。帝王様の前で粗相のない様にしなければ、どんな処罰が下されるか分からない。
だから、もう少し辛抱してくれ。』


と、視線は帝王に向けたままショウに話しかけてきた。話しかけると言っても、ショウの脳内に響いてきて“ショウにしか聞こえないように話しかけている”とも説明してくれた。
実際、周りを見てもオブシディアンの声は誰にも聞こえていない様だった。

オブシディアンの説明だと“言葉飛ばし”という術らしい。

便利な術もあるもんだなぁと思いつつ、頭の中では分かっていても暇で仕方ないしギンギラの部屋が気になって仕方ない。

目線だけキョロキョロと忙しなく周りを見て暇を潰し、懸命に欠伸と眠気と戦っていた。

その様子をオブシディアンとシルバーは心配そうに見ていた。


そんなショウ達を他所に、帝王とヨウコウ達の会話は続く。



「ごめんねぇ〜!実は、これも試験の一つだったんだよ。」


と、言ってきた帝王の言葉に驚く一行。


「何事にも、動じず惑わされず騙されず“真実を見破れるか”試すテストだったんだ!
うん!合格だよ、おめでとう!」


そう言ってきた帝王に一行は、ヒヤリとしたがテストを合格した事にホッと安堵した。

そんな中、ショウは寝ぼけていたのだろう。


「…うわぁ、綺麗な“ガラス玉”」


と、テーブルに埋め込まれていたハートの形をしたルビーを見て小さな声で呟いた。

それを聞き、帝王の眉がピクリと動きショウに視線を向けた。
その帝王の様子に、一行はサー…と青ざめ


「…バッ、馬鹿か!!愚か者!
それは、ルビーという宝石だ!!!!
ガラス玉なんかと一緒にするな!!!!!」


思わずヨウコウは立ち上がり、ショウを怒鳴りつけた。

ショウは、その声に驚きビクッと体を強張らせビクビクしながらヨウコウを見た。
そんなショウを無視し、ヨウコウはすぐさまに


「…も、申し訳ありません!この者は一般人で底辺の貧乏人。宝石など見た事も無く…」


と、冷や汗をかきながら帝王に頭を下げ謝った。なんて、馬鹿な発言をしてくれたんだ!このクソブタが!!と、心の中で悪態をつきながらヒヤヒヤしながら帝王の言葉を待った。

すると


「ハハ!宝石を見た事がないなら仕方ないよ。
そんな事で怒ったりはしないよ。」


帝王は、なんて事ない様に笑い、大丈夫だからとヨウコウに椅子に座るよう促した。


そこで、紅茶のおかわりを持ってきた部下は、ショウに今まで飲んでいたティーカップとは別のティーカップに変えてきた。

もちろん、ショウだけではない。
みんなのティーカップを変えて。帝王は


「いい茶葉が手に入ったからテストの合格のお祝いだよ。」


なんて言って、お茶をすすめてきたのだ。


言葉に甘え、紅茶に舌鼓しながらティーカップのデザインやら良い器だとかヨウコウがべた褒めしていた時

ショウは首を傾げたし、シルバーは少し渋った顔をしていた。

それを不思議と思った帝王は


「お嬢ちゃん、何か気になる事があるのかな?」


と、ショウに聞いてきた。
まさか自分に声を掛けてくるなんて思ってもなかったショウはビックリしてしまって


「…ち、違うの!な…なんで、“自分だけ”こんな凄いティーカップなんだろってビックリしちゃって!!!」


思わず、自分が思った事をぼろぼろ喋ってしまった。喋ってから、また余計な事を言った!ヨウコウ様に怒られると口を覆ったが、時既に遅し!


「大馬鹿者っ!!?
なんたる無礼か!?しかも、帝王様に向かって尊敬語も言えんのか!!!?」

ヨウコウは、ものすごい形相でショウを睨み付け怒鳴った。

しかし、帝王の様子といえば驚いた表情を見せたかと思うとまたホワホワ笑顔で


「いいんだよ、気にしないで。お嬢ちゃんについては、商工王国から報告を受けてるから大丈夫だよ。」


と、ヨウコウを宥めた。

何の報告かと思う一行だが、おおよその検討はついた。おそらく、教養のない無礼な一般人の子どもだから大目に見てやってほしいと言ったところだろうと。

それより、帝王はショウに興味を示したらしい。


「ねぇ、ねぇ!お嬢ちゃん!この部屋で、一番高価な宝石は何か当ててみて!」


なんて、目をキラキラ輝かせながら、何故そんな質問を?と、よく分からない質問をショウに問いかけてきた。

すると、ショウは


「…わ…私、高価とか…よく分からないけど…自分が見て凄いなぁって思うのなら一つだけあるんだけど…」


と、どうしたらいいのか分からず困惑していた。

それには、一行は


(いや!そこは分かれよ!迷う所じゃないだろ!!)


と、心の中でツッコミ、いつまでもモジモジしているショウにイライラしていた。

だって、この部屋の中に一つ一つ厳重にガラスケースに飾られてる宝石が3つ。
どれも、人の目線の高さ程ある土台もゴージャスであからさまだ。

その3つのうち、一つだけ土台もガラスケースも桁違いにゴージャスなものがある。虹色に輝く涙形のダイヤモンド。男性の握り拳よりも大きい。


見てあからさまなのだが…

このクソブタは、なんであれだと言わないのか!!?早く、あれだと言って終わらせろと一行はイライラモヤモヤしていた。


そんな中、オブシディアンは


『間違えたっていい。大丈夫だ。』


と、声を掛けたのだが。


「…え?で、でも…」


どうも、ショウはそれが答えづらいらしくオドオドしている。
それに痺れを切らしたヨウコウは



「いい加減にしろ!!?クソブタがっ!!
見てあからさまだろうが!!
早く、答えろ!!!いつまで帝王様を待たせるつもりだ!!!」


と、怒鳴るつけた。それに驚き、ビクゥーーーッ!と、肩が飛び跳ねたショウは


「…あっ…あれっ!!!?」


と、あるものを指差した。

ショウが指差した方を見ると一行は「…プッ!」と、笑いを堪えきれず吹き出していた。

だって、ショウが指差したのはさっき紅茶のおかわりを持ってきた帝王の部下なのだから。

それには、さすがのシルバーも


「…落ち着いて下さい。あの方は人ですよ?」


と、緊張して間違えてしまったであろうショウを落ち着かせる様に優しく頭を撫でてきた。

みんなが笑っている事に羞恥を感じショウは真っ赤になって俯いてしまった。

しかし、そこに帝王の部下がショウに声を掛けてきた。



「恥ずかしがる事はないですよ。誰にだって間違える事はあります。
さあ、もう一度。君の思う高価な宝石はどれかな?」



と、優しく声を掛けてくれた事でようやく顔を上げたショウは再度、その部下を指差したのだった。

それに驚いた部下は


「僕のどこに、そんな高価な宝石があるのかな?」


と、ショウに聞くと

ショウは、驚きの答えを出してきた。


「…なんだろう?でも、あなただと思ったの。
あなたから、宝石ができる気がするの。」


なんて言ってきたショウに、一行はもう笑いを堪えきれず大爆笑していた。


一部の人間を抜かして。


ショウの言葉に、帝王は驚愕に満ちた顔をしていたし何よりショウに宝石と言われた帝王の部下の青年は言葉を失っていた。

その只ならぬ様子に、オブシディアンとシルバーは思わずショウを見た。


そんなこんながあり、一行は用意された部屋へとそれぞれ向かっていった。

もちろん、帝王に挨拶は忘れない。


しかし、オブシディアンだけは帝王に挨拶などせず何故かお茶のおかわりを持ってきた青年に丁寧に頭を下げ出て行った。

一行を部屋から出した、帝王達は


「…驚いた!あの包帯男、絶対僕達の正体分かってるよね。」


さっきまで、帝王の後ろについていたお茶のおかわりを持ってきた青年はドカリとソファーに座ると


帝王は、その青年の後ろに立ち


「おそらくは、気づいていたでしょう。
あなたが本物の帝王様だという事を。」


「いつから、気付かれてたのかな?
変装の自信はあったんだけどなぁ。それに、お前の演技も大したもんだと思ったが…」


部下の青年…もとい本物の帝王は、帝王のフリをしていた優しそうなおじさん…側近の入れた紅茶を飲みながら脱力していた。



「…それにしても、僕が帝王だって見破った者は包帯男チームを含めて3組か。…いや…もう一組いたか。あの王子は…う〜ん…やる気さえ出せばとんでもない人物に化けると思うんだけどな〜。あのグーダラ王子…勿体なさすぎる〜。
…それは、さておきだけど。お前の話の中から真実を見極めた者は何人いたんだろうな。
あの包帯男は知ってそうで怖いな〜。あの包帯男、何者だよ…マジで怖いわ〜。」



「そうですね。確かに、あの包帯男なら気付いていそうですね。しかし、ヨウコウ王子に全く関心がない様子。なので、知った所で何の行動も起こさないでしょう。」


側近は、そう言うと次に神妙な顔をし


「…しかし、あの姫君は相当な目利きですな。
目利きというより……」


と、ショウの話を始めると



「…ああ、それは気になっていた。
あれには驚かされた。まさか、そこまで分かるとは思ってもなかった。

ただ、あの偽物のルビーをガラス玉と言い当てた事に、単なるまぐれと思いつつ興味が湧き
わざと値打ちのあるティーカップを姫だけに渡した。

他のティーカップはガラクタだ。

それも言い当てたから、ますます興味が湧いて意地悪をしてみたんだが…

あれは、ただの目利きじゃない。信じがたい話だが“直感的に分かる”んだ。

“僕から宝石ができる”そこまで分かるなんて…普通じゃない。

これは…“あの伝説”に似た話に似ていて…少し身震いがした。」



そう帝王が言うと



「それは、隣の国に伝わるという“伝説”の事ですね?

“強欲な醜女に囚われし絶美の宝石”」



すかさず、側近はそう言葉を返してきた。



「そうだ。その強欲な醜女の能力とあの姫君の目利きがあまりに似過ぎているんだ。

…確か、“強欲な醜女が生まれし時、絶美の宝石は復活する”だっけか。」



「…ええ。絶美の宝石は、この世のものとは思えぬほどにそれはそれは美しいそうですね。全ての者を魅了し狂わせるほどに。
それが、どのような宝石なのかは分かりませんが…そこまで美しいのなら見てみたい気もしますね。そのような宝石が本当に存在するならばですが。」



そう側近は、それは伝説でしかない夢物語だと笑っていたが帝王はそうは思えなかった。

何故なら…

自分は、“幻の国”の血を引いているらしいから。

初代ベス帝王は、幻の国出身らしく代々ベス帝王となる者がこの事実を聞かされてきた。

しかし、何故かどんなに近しい人であってもこの事実は他に漏らしてはならないという教えであった為、今現在はその事は自分しか知らない。

自分が聞いた言い伝え通りなら…

迷信と思いたい所だが、代々自分達血筋のこの異常な体質が何よりの証拠とも言えるかもしれない。

ならば、確かめてみてもいいかもしれない。


…もし、そうであったなら…