最近、サクラは昔の事を思い出す頻度が多くなっている。昔と言っても、小さい頃という訳ではない。
今の前の人生…そう、所謂“前世”というやつだ。

それは、ショウが旅に出てから日に日に色濃くなっていく。思い出したくもないのに思い出す。最低最悪のあの出来事。


今の前の前の記憶である。


…嫌な予感がする。

何故かそんな気がするのだ。


今までは、薄っすらと断片的にしか覚えてなかった前前世の記憶。詳しい詳細こそ忘れているし断片的に少しだけ覚えている程度なのだが。


例えば、自分にとってショウは“絶対に手放してはいけない唯一無二の存在”だという事。ショウを害する敵が存在し“ソレ”にショウを近づけてはいけない、“ソレ”からショウを守らなければならない事。

“ソレ”は一人ではない事。

だが、“ソレ”がなんだったか分からない。分からないがソレからショウを守らなければと強く思うのだ。

景色も薄っすら断片的で、この世のものではないくらい幻想的で美しい場所に住んでいた気がする。

そこで、遠くから泣いているショウを見ているのだ。煌びやかな広い広いお城のような場所に一人ぽっちのショウは“どうして?”“さみしい”と泣いている。

その姿はあまりに心苦しく可哀想で手を差し伸べ助けてあげたくなる…なのに、助けるどころかそこに近づけない自分がいる。

何とかしてあげたいのに何も出来ない、無力で情け無い自分。


なれないのは重々承知だが、なれるものなら自分は“アレ”の存在になりたかった。

…羨ましい…

自分は、それが欲しくて欲しくてたまらなかった。

そうすれば、自分は…“エリス”の絶対になれるのだから。

その全てというのもハッキリとは分からないが、何故かそう思うのだ。

色々と曖昧過ぎる記憶。


だと言うのに、最近少しずつ前世と前前世の記憶が鮮明にハッキリと蘇ってきているのだ。


それは、きっと…“アレ”が復活する予兆。



…ドクン…ドクン…


胸騒ぎと不安で、どうにかなってしまいそうだ。

どうして、自分が“アレ”が復活すると思ったのか…そんな謎もあるが。

何故、“復活”と思ったのか…今はまだ分からないが嫌な予感しかない。


これが、ただの思い過ごしならいいのだが…。


…本当にやめてほしい。

自分の今の幸せを壊さないでほしい。

…色々と前途多難ではあるが、今は自分の努力次第でなんとか幸せを手に入れられそうなのだ。

やっと、やっと…


だから、お願いだから

そっとして置いてほしい。


サクラは心の底から切実にそう願う。


…今度こそ…




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【???】


サクラが日に日に色濃く前世と前前世を思い出し始めた頃、サクラと同時期に何か直感めいたものを感じている人物がいた。


その人物は、“まあまあそこそこ”幸せな人生を送っている。

“まあまあそこそこ”というのは理由がある。

原因は、自分の仕えている主人のせいだ。


主人の存在が無ければ、おそらく自分は最高に充実した日々を送っていたに違いない。

それも、主人のせいで丸潰れだ。


…まあ、それでも“仕方ない”と思っている。


主人は自分にゾッコンでどうしても一緒に居たいと言うから、仕方ないからいつも片時も離れず主人の側にいる。

主人が、どうしても欲しいと自分を求めてくるので仕方なく夜伽の相手をしている。

主人が、どうしてもどうしても自分と結婚したいというので仕方ないから主人の夫となった。


主人は、オレ様がいつ心変わりするか心配らしく、自分以外見ては嫌だと我儘を言い使用人さえ遠ざけ城の離れに二人きりで住んでいる。

使用人さえも遠ざけてしまったので、主人の全ての世話はオレ様がする羽目になってしまったが仕方ない。


主人が、オレ様を求めてやまないから。
好きだ好きだと離してくれないから。

誰にも渡したくない、誰の目にも触れさせたくない、自分だけのものだと主人の執着が凄い。


だが、不思議とそれを嫌だとは感じない。


仕方ないと思いつつ、まあまあそれなりに幸せに主人と二人きり


まったりと、平和な毎日を過ごして…い…る……?……


……?……


…アイツとオレ様が…?


……???……


…何か…


…ドクン…


…違う…


…ドクン、ドクン…


…違う…違う!全然違う!!


…主人…アレは、そんなんじゃない!!


アレは…アレは……!!!?


……ドックン!!!!!


…………ハッ!!?



そこで、何者かは目を覚ました。



…ドクン、ドクン、ドクン…



いつも、そうだ。


長い長い夢を見ていて、夢の中で疑問を強く感じてしまうと目が覚めてしまう。

眠りについて最初こそ、穏やかな気持ちで夢を見られるのだが

時間が経つにつれ疑問を感じ始め数百年に
一度目が覚めてしまうのだ。


だが、最近起きる感覚があからさまに短くなっている。


それは、主人が…………それを意味している。


…なんて…なんて、都合良く創られているのだ自分は…!

ソレに抗えない自分が悔しく主人が憎くて憎くて堪らない。


あんな“無能なデクの棒”の為に、なんでこのオレ様がっっ……!!!??



…クソッ!最低最悪な気分だっ!!


クソッ!クソッ!クソッタレがぁぁっっ!!!!!


何者かは、抑えきれない負の感情に悩まされ頭をグシャグシャと掻きむしった。

ひとしきり感情を爆発させ冷静になった何者かはストンと表情を落とすと
“誰も成功させた事のない禁断の術”の準備を入念にし無心になって術を発動させた。
が、失敗しその代償に気を失いそのまま深い眠りにつく。そして、その度にまた同じ夢を見るのだ。

何者かは、それをずっとずっと…何百年、何千年とループしている。




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サクラと何者かが同じタイミングで嫌な予感で悩んでいる一方、ショウ達はというとビーストキングダムを抜け

新たな国へとやってきていた。


そこは、ベス帝国。


多くの観光客と上流階級、セレブの集まる
一攫千金、カジノの国。

そして、世界一小さな国といわれるだけあって、国に入るとすぐに金や宝石でできた眩いゴージャスなお城がそびえ立つのが見える。

それは国に入ってすぐに村、村にある石のの階段を上がればすぐに煌びやかな街。
そこにある上質な階段を上がればそれを遥かに上回るギラギラ輝く金ピカの城下町。

そこにある豪華絢爛エレベーターで上がれば城へとたどり着けてしまうらしい。

そんな国全体がカジノのベス帝国は2時間も歩けば国を一周できてしまうほど小さな国だ。

ちなみに、貧民層が暮らす地下の様な場所も存在するらしい。


それは、この国全てがカジノになっているから。この国の住人の半分以上がディーラーやギャンブラー…カジノに携わった仕事をしている。

なので、大勝ちした者は大富豪、大負けした人間は借金まみれ地獄をみる。

人々は、一攫千金を夢見てこの地に訪れるのだ。


オブシディアン出身の国である。

オブシディアンにその事を聞いたが、あまりいい思い出がないとそれ以上答えてはくれなかったが。

ただ、オブシディアンの話では上流階級と一般市民の落差が激し過ぎるとの回答が返ってきた。

ちなみに、ダイヤ達とはここでお別れである。だって、あくまでヨウコウとダイヤは王位継承を争うライバルなのだ。
いつまでも一緒に旅をするという訳にはいかない。

なので、別れを惜しみ

カジノの国という事もあり

今日ばかりは、みんなで楽しんで明日お別れしようという話になり
みんなで、見学がてら決められた予算でカジノも楽しもうという話になった。


他にもカジノがある国はあるが、この国はカジノ世界最大規模なうえ

他の国では年齢制限があるのだが、この国は年齢制限はない。
(ただし、15歳以下は一週間で3000ぜニー以上は賭けられないという決まりはあるし
これも、不正がないよう厳しく管理されている。)


ヨウコウは、ブタと一緒だと楽しめないとゴウランとミミを引き連れてさっさとどこかへ行ってしまった。

てっきり、ヨウコウ達と一緒に行くと思われたミオだったが、どういう訳かヨウコウの誘いを断りショウ達と一緒にいる。

これには、ヨウコウやダイヤ達も驚いていたが、ミオは断固としてヨウコウ達の所へ行こうとしなかった。

ヨウコウは、そんなミオに対しかなりご立腹になっていたが。

そして、ヨウコウチームとダイヤチームに別れ別行動をしている。

ここでダイヤチームは、驚きと衝撃の光景を目にする事となる。

ダイヤ達は、あまりの出来事に目を点にしてその光景を見ていた。


…ザワ…


…ザワザワ…



「…信じられないわ…。こんな事ってあるの?」


「イカサマにしても出来すぎてる。…店のパフォーマンスか何かか?」


「…あり得ない…俺は、夢でも見ているのか?」


「…彼女は何者なんだ?」


その光景を見ていた見物客も驚きを隠せず、あまりの事に目を離せずいた。


その光景とは…


初心者でも遊びやすいスロットマシーンで
ジャックスポット(大当たり)が出たのだ。
従業員も来てイカサマがないかチェックも行われ彼女はあっという間に“億単位”のお金を稼いでしまっているのだ。

それも、彼女が座ってスロットを回した一発目から大当たりが出てそれから大当たりが止まらないのだ。

そこに座っている彼女も驚きを隠せず、どうしたらいいのかパニックになっている。ビビりすぎて若干、涙目である。


「…ふぇっ!!?な、なに、これ!!?
ど、ど、どうしたらいいの!!?」


その様子を間近で見ていた、ダイヤ達はなんて運がいいんだと大はしゃぎで騒いでいた。

しかし、運がいいと驚き興奮しはしゃいでいたのはその時ばかりで…。

その後も、ブラックジャック、ポーカー、ルーレットなど彼女がやったありとあらゆる様々なゲーム全て大当たりでその異様さに周りはどよめいていた。

思わず、ダイヤも


「…ショウちゃん、イカサマしてないよね?」


と、疑ってしまうほどだ。しかし、どこをどう見てもショウはこんなゲームなど全てが初めてだらけでゲームの説明を受けてもよく分からずやっているようだった。

そんな彼女が、イカサマなんてゲームを知り尽くした人にしかできない悪知恵とテクニックを持ち合わせているなんて思えない。

彼女の感があまりに良すぎるのか、それこそショウの強運に驚きビビった経営者がディーラーにイカサマをするよう指示しようものならショウは「何か嫌な感じがするから…やりたくない」と言ってゲームに手をつける事もなかったし。

それでも無理矢理ゲームさせようものなら何故か分からないがディーラーのミスでショウは大勝ちしてしまう。


挙げ句、スロットでの話だが大当たりし怖すぎて逃げてしまったショウの台にしめしめと座った客がいたのだが、その客に代わった途端に台は運を使い果たしたのか全く当たりが出なくなってしまった。

その様子を見て、一行はショウの強運に異様さを感じていた。

結局、そのカジノで億どころでない額を稼ぎそうになり怖くなってしまったショウは賞金の受け取りを拒否して逃げ出してしまった。

おかげで、億単位のお金は夢の中へと消えてしまった。一行は勿体なく思うも、やはりあまりに巨額な金額にそれで良かったっとホッとした気持ちもあった。


それにしてもだ。たまたまだと思うが今日のショウの強運は凄すぎると感じた一行だ。
ここで一生分の運を使い果たしたんじゃないかと心配になるくらいに。

一行が興奮が治らず状態の中、次はどうしようかと道を歩いていた時の出来事。

街の人々の会話が気になった。


「…今日は、どうしたのかしら?魔獣達が街の外にもうろついてないらしいのよ。外から来た商人がビックリしてたわ。」

「いつもなら、街の外には魔獣がウヨウヨしてるってのにね。」

「…そういえば、こんなに天気がいいのは何年ぶりかしら?」


そんな声が聞こえる。

街やだいたいの村は、質こそ違えど魔獣避け対策に街や村全体にバリアー装置を取り付け魔獣達の侵入を防いでいる。

しかし、街や村から一歩出ようものなら、恐ろしい魔獣達がウヨウヨしていてよっぽどの事が無い限りは人々は街の外には出ない。

外に出る時は命懸けなのだ。なので、外に出る時は護衛、用心棒を雇うのが一般的である。

そして、商工王国以外全ての国に10年近く“晴れ”という天気はない。

大概が曇っているか場所によって災害レベルの気象現象がたびたび起こる。
そう、全世界が異常気象なのだ。

それなのにだ。今日は、何故だか天気が良く昼は澄んだ青空。夜なんてキラキラと星が輝いている。

道行く人達は、空の美しさに感動し歓声をあげ喜び感動のあまり泣く人達も少なくなかった。中には、何か起こるんじゃないかと不安がる人もいたが。

たまたまかもしれないが。

それにしたって出来すぎている。


思い返してみれば、ビーストキングダムは
気象が激しく変わりやすく妖魔や魔獣の生まれる地としても有名だが、自分達がそこを旅していた時は商工王国騎士団長をはじめ周りが驚くほど運が良かった。
そこまで酷い災害にも遭わずレベルの高い妖魔達に出くわす事もなかった。出くわす妖魔達も比較的穏やかで話に聞いていた話とは違った。

妖魔達は、約10年前から徐々に正気を失い誰彼構わず同族であろうと暴れ狂い襲い掛かるバーサーカー化となってしまったと授業などで聞いていた。

しかし、ビーストキングダムで出会した妖魔達は比較的穏やかな者が多く気配を感じるなり無闇に襲い掛かって来るという事が少なかった気がする。
個々の性格や環境などで、恐ろしくも襲いかかってくる輩も少なくはなかったが、それは人間も同じである。

むしろ、妖魔達より盗賊などに襲われる事の方が多かったように感じる。

そんな事を思い返し、自分達はなかなかの強運だよななんて話をしながら一行は商工王国から出て久しぶりに見る綺麗な星空を眺めていた。

ビーストキングダム出身のガブは、空がこんなに綺麗だとは知らなかったと感動して泣いていた。

そんなガブにつられ、ショウをはじめダイヤ達も泣いた。シルバーやオブシディアンは泣く事はなかったが何事にも冷静で動じない彼らでさえも吸い込まれそうな美しい夜空に見入り感動しているように見えた。

同時に、この綺麗な空が当たり前に見れる世界になってほしいと心から願う一行であった。

商工王国では、青空がある事、夜には満点の星空がある事は当たり前だった。もちろん、天気が崩れる事だってあるし季節によって天候も変わるが。

自分達の国では澄み渡った青い空は当たり前過ぎて、こんな事を考える事もなかった。この当たり前が、とても大切で素敵な事とは思わなかった。

ショウは、この発見に改めて旅に出て良かったと思った。


時間通り、ヨウコウ達と合流したショウ達は名残惜しくもダイヤ達と別れ

ベス帝王に会うべく、入念な審査を受け許可がおりると金や宝石でできたエレベーターで城へと向かった。


「…しかし、ここまで金と宝石だらけだと…宝石の価値が分からなくなってしまいそうだ。」


ギランギランのエレベーターから降り、城の門へと向かい庭を歩いていても

金でできた噴水に、噴水の水の中には色とりどりの宝石。

歩く為の道は代理。どこを見渡しても宝石だらけ。


王子であるヨウコウも驚くほどの眩いお城だ。だが、あまりに宝石だらけで悪趣味にしか思えない。

庭の中心には、これまた悪趣味な…おそらくこの国の王様なのだろう。
スマートなイケメンが王冠を被りトランプやサイコロを持ちポーズをとっている金のどデカい像がたっている。
その像は高価なジュエリーや宝箱の上に座っていて…フフンと得意気な像の顔に見ていて何だかイラッと鼻にかかる何かを感じてしまう。


…絶対、ここの王様は悪趣味もいいとこのナルシストだとヨウコウ達はドン引きしていた。

こんな奴が治める国が、こんなに小さな国が世界一財を持ち裕福かつ平和といわれる我が国…商工王国と並び富を持つ国だなんて認めたくないと思ってしまうヨウコウとゴウラン、ミオであった。

これを見て、すごい…と呆気に取られ目をキラキラさせ見ているショウに貧乏人はこれだからとヨウコウは溜め息をこぼした。


城の外観もそうだが、中に入ってもそれはそれはこれでもかというくらいに財を見せつけるかの様な悪趣味な感じだった。

もう、宝石だらけで気が休まらない。

壁や柱の紋様は、ルーレットやトランプなどカジノを思わせるものばかりだ。

思い出してみても、街の壁、柱や絵画などもカジノを思わせる物ばかりだった気がする。


…ここまでくると、色々な意味で少しばかりげんなりしてしまう。


そして、ベス帝王に会った時
一行は衝撃を受けた。


何故なら…


帝王は、おおらかでとてもとても優しそうなふくよかなおじさんだったから。

着ている服も上質な布を使っているとはいえ、とてもシンプルだった。


「よく、来てくれたね。大変だったでしょう。」


この優しそうな顔のおじさん…もとい帝王様は、ヨウコウ達を丁寧にもてなしてくれた。

とても、悪趣味なこの城の主人とは思えない。

あまりに、帝王がニコニコほんわかだったので一行はすぐに打ち解け、この人物が一国の王様だという事を忘れそうになっていた。

そんな時だった。


夕飯をご馳走になっている一行に帝王は言った。


「…あ!そうそう、言い忘れてた。
試験の旅を頑張ってる君たちにご褒美をあげたいって思ってね。」


気が緩んでた時に、試験の話をされ一行はドキリとした。