その日、ダイヤ一行を含めたヨウコウ一行は
共に野宿をする事になった。

それを見て、やっぱりミオは違和感を感じた。彼らの話の内容でもそれは、よく分かる。

みんなで、焚き火を囲い昼飯を食べ色々と喋っていた。


「…え?ヨウコウさん達のチームにはメイドがいるの?…あ、あれ?護衛が一人多くない?」


そう言われ、ダイヤ一行を見れば

王子のダイヤ

護衛のシュリ

一般市民のハルク

急遽用意された一般市民専用用心棒のガブ。


メイドなんていないし、まして護衛が一人だけ。

思えば、コウ姫の所も
護衛一人に一般市民一人。今は、急遽用意された一般市民専用用心棒がいるはずだが。

やっぱり、メイドなんていないし…ましてや護衛は一人だ。


ヨウコウ達だけ

メイド二人に、護衛二人が余分についてる。


それを、ヨウコウはこう解釈し答えた。



「メイドがいるのは、それほど余が大切な存在だからであろう。なにせ王位実力一位なのだからな。それに、あんな底辺をいく劣等まみれのブタのせいで旅もままならない。
だから、護衛が二人いて当たり前なのではないか?」


そう自慢気に話し


「俺達と一緒に旅できる事、ブタには恐れ多い事だ。それに加え、ブタごときの面倒を見てやってるんだ。ありがたく思ってほしいものだ。」


ゴウランは、続いて喋るとヨウコウとミミはうん、うんと頷いていた。


すると



「…え?…いやいや!なに、言ってるんスか!それを言うなら、僕だって何の力もない。武器も魔法も使えない、体力もない。
だけど、メイドさんはいないし、護衛も一人多くいるって事もないっスよ?」


と、ハルクは言ってきた。

一般市民であるハルクが、身分の違う自分達に普通に話してきた事にヨウコウ達は驚きの目でハルクを見ていた。…しかも、タメ口…。…なんと、常識知らずの無礼な奴なんだと。そこに


「何を謙遜しているんだ。お前は若干、15才にして飛び級で大学合格。今は、薬草と
魔法の研究者で期待の新人じゃないか。
俺達では、とても真似できない素晴らしい能力だ。」


ガブが、ニコリと笑いハルクを大絶賛した。



「そ、それだ!話だと、一般人からは優秀者が選ばれるって聞いた。
だが、こっちは一般人でも底辺をいくブタを押しつけられたんだ。」


ゴウランが、アセアセと自分達のフォローをすると


「…え?それにしたって、メイドさんがつくのはおかしいっスよね?しかも、二人も。
そのメイドさん達は、誰のメイドさん達なんスか?」


とても不思議がるハルクの質問に



「こっちのミミは、ヨウコウ様と俺専用の
メイド。ミミは一般人と変わらないから、
護衛にミオがついている。
そっちのブタは箸も使えない風呂も一人で入れない無能なブタだ。だから、その世話に
そこの包帯の男がメイドとして雇われたらしい。」


と、説明するもハルク達は納得できないようだった。しかも、なにに不満があるのか
少ししかめっ面になっている。

それに、その説明にはミオはムカッとしていた。その言い方、まるでミオはミミの護衛とでも言っているように聞こえる。自分は王子と一般市民の護衛の筈でメイドの護衛などではない。


「…しかし、メイドと言うには武人として洗練された動きだしぃ、あの圧倒的強さな〜。
あんなに強いのに、どうしてさぁ、一般人の…?」


と、シュリが言った所で、ダイヤとハルクはまさかとハッとした。


「それは、騎士団長が説明してたじゃないか。一般人には、団長クラスの用心棒をつけると。」


ふふんと得意気に話す、ゴウランに


「…それは、あり得ん話だ。そのように強ければ城などにすっぱ抜かれてるはずだ。
なのに、用心棒やメイドなどとは…
団長クラスがそこら中にうじゃうじゃいる訳ないだろ。」


ガブが、そう反論した。
それに続き、ハルクは


「あれ?とりあえず、ショウちゃんの事はいいとするっスけど…。
ミミさんは、ヨウコウさんとゴウランさんのメイドって言ってたけど二人も、二人が言う“何もできない無能なブタ”なんスか?
だから、その世話にミミさんてメイドさんがついたんスよね?」


と、厳しい目でヨウコウ達を見てきた。
それに、苛立ったヨウコウは


「先ほどから、ダイヤ殿の仲間達と下手に出ていれば調子に乗り過ぎではないか!?余の事も“さん付け“挙げ句、敬語もなってない!態度もでかい。余を誰だと思っているんだ!」


ハルクの前に立ち、ハルクを見下ろし重圧しようとしてきた。


「…ええ?今は試験中で、今は、ヨウコウさんは一般人っスよね?違うんスか?
それじゃ、僕達が説明受けたのと全然話が違うっスね。
それとも、王位実力一位とやらのヨウコウさん達だけ、特別メニューで他のグループとは全然違う内容になってるんスかね?」


ヨウコウの威圧にも負けず、ハルクはヨウコウを睨みつけ最後、馬鹿にする様にフと笑って見せた。


「…だけどさぁ。ヨウコウさんが王位実力
一位って本当なのかい?
ヨウコウさんとゴウランさんさぁ。
ザッと見たところ、ここに居る武人の誰よりも圧倒的に弱いよ?
うちのダイヤが、旅を始めて間もない頃に近いレベルってやつぅ。

最初はダイヤも弱かったからね〜。本当、足手まといで困ったもんだったよ。
今じゃ、無くてはならない立派な戦士だけど。うちのダイヤは、まだまだこれから伸びるよ〜!まだまだ、弱っちいけど。」


と、シュリは誇らし気にダイヤ自慢をしていた。少しぼろくそに言ってた気もしないでもないが、ダイヤが可愛くてしょうがないようだ。

しかし、だんだんシュリの言葉使いがおかしくなってきている気がするのは気のせいだろうか?


「ごめんだけどさ。聞きたい事があるんだけど。ヨウコウ殿達はどうして、そんなにショウちゃんの事イジメてんの?
見るに耐えないし聞くに耐えないんだけど。」


そう、ダイヤが質問してきて
もう、ウンザリとばかりにゴウランは


「当たり前だろっ!!こんな、足手まといの役立たず!俺達は持て余しているんだ。
お前達は、一緒に旅してないから分からないんだ!

…もう、いい加減にしてくれ。
コウ姫様もブタを哀れむそぶり見せるし、
まるで俺達が悪いみたいじゃないか!」


と、怒りをぶつけ大声を出していた。すると


「あれ?ちゃんと分かってんじゃ〜ん。」


シュリは、ニマニマ胡散臭い笑みを浮かべ
ゴウランを見た。


「…な、なにっ!?
余達が、悪者だと言いたいのか?」


ヨウコウは、怒り勢いよく立ち上がった。


「そもそも、一般人は“余”な〜んて言わねーけどなぁ。そ〜いえばぁ、ダイヤも最初の頃
“余”って言ってたっけなぁ。」


昔を思い出してか、クスクス笑うシュリに
ヨウコウはカッと顔を赤くしシュリを睨んだ。

そんな争いがある中、ショウは自分のせいで揉めてるとションボリしながら
自分のせいで、魔力を使い過ぎ疲れ切っているオブシディアンの横で


「…私のワガママのせいで、ごめんね?」


と、肩を落としていた。


『大丈夫だ。自分がしたくてしたんだ。
ショウ様のせいじゃない。』


そう言って、オブシディアンはショウに笑いかけてくれたが、どう見てもフラフラ状態の
オブシディアンにショウは思わず


…ぎゅーっと、オブシディアンの手を握り


どうにかして、オブシディアンさんを助けたい!私のせいで、ごめんね。
お願い!お願い!!


と、心の底から願いを込め、ぎゅーっと目をつむり祈った。
祈ったところで、どうにもならないと思いつつも祈らずにはいられなかった。


そんな様子のショウに、気持ちだけは強く伝わったんだろう。オブシディアンは、心がほっこりし思わず笑みが溢れてしまった。

…が、しかし

その後、直ぐにショウに異変が現れた。

手を握ったままピクリとも動かなくなり
髪の色と髪質…肌までもがどんどん変わっていく。

…まるでショウ自身自体、湖を思わせるような水になってしまったような。

しかも、ショウと繋がれた手から良質で最上級の魔力がどんどんなみなみと注がれてくる。

その異変にいち早くシルバーは気がつき
結界術(バリアー)をかけ

周りから、こちらが見聞きできないように隠した。

そして、意識がどこかへ行ってしまった
ショウに、こちらに戻ってくるように必死になって呼んだ。

それしか、二人には方法がないのだ。

戻って来い、戻って来い!と、必死にショウの名前を呼び続ける二人。

そんな必死の二人をよそにショウは



…ポチャン…



……水?

…お腹の奥?…体の中心から?

…違う…

もっと、もっと…深いところ…


…スゥーと、そこに誘われるがまま、沈むように潜り込んでいけば


なんて、神秘的で綺麗なんだろう…


全面が、ブルー


自分は、ぷかぷかと湖?海?の上に浮かんでいて、優しい波にゆらゆらと揺られていた。

青い星空に、無限に広がる透き通った青い海…


とても、心地がいい…


疲れた体に元気が注入されていく感じがする。

まるで、全てのエネルギーがここに集まり
必要な場所へ放出されていくような…

海から、大中小様々、色も形も違う光の粒が無数に色んな星へ向かい飛んでいく。

…なんて、綺麗なんだろう…


でも、なぜだろう。


その正体を何となくショウは分かってしまった。言葉では、うまく言い表せないが分かる。


それにしても、気持ちいいなぁ…ずーっと
こうしてたいなぁ…


…と、うとうとしていた時だった。


『……っま…!』


…ん?


『…ショ……様っ!』

「…ショウ様ッッ!!」


……んん?



遠くから自分を呼ぶ声が聞こえてくる。

そう思ったら


…あれれ???


目の前には、ショウの手を両手で包み


『…ショウ様っ!』


「ショウ様ッッ!!」


と、ホッとしたような表情を浮かべるオブシディアンと、もう一つ声のした方向を見ると

ショウとオブシディアンの前に立ち
両手をかざしているシルバーの姿があった。

その向こうには、ヨウコウ達が慌てて何か言い合っていて

ダイヤ達は、何かを必死になって探している姿が見える。

けど、全く音が聞こえないので、向こうで何が起きているのか全然分からなかった。


シルバーは、ショウと目が合ったと思ったら
すぐにプイっとソッポを向いてしまった。


…ずいぶん、嫌われてるなぁと凹みながら
ショウは、オブシディアンに向き直った。

すると、オブシディアンは


『大丈夫か?どこか、異変は無いか?』


何故か心配する言葉を掛けてきた。

どうしたんだろう?と、不思議に思いつつ
ショウは


「…え?どうしたの?
私は、なんともないよ?」


キョトーンとしながら、オブシディアンを見た。

本当に、何ともないし
何で心配されているかも分からない。

ただ、居眠りしていたみたいで夢の中に引きずり込まれはしたが。

ショウの頭や肩、鎖骨、膝などに触れ集中した様にジッと見ているオブシディアン。


『…良かった…』


それから、程なくして
安心したように安堵のため息をつき


『安心して大丈夫だ。』


と、別にそんな報告も要らないであろう
シルバーに言葉を掛けていた。

もちろん、シルバーは何の反応も見せなかったが。


『…しかし…』


と、何か思いつめたような顔をしてショウの顔をジッと見るオブシディアン。


「どうしたの?…オブシディアンさん、そんな所にいると、もっと疲れちゃうよ?
…大丈夫?」


地面に膝をつき、ショウを見ている
オブシディアンに心配の言葉を掛けると


『ショウ様のおかげで、魔力が全回復した。
ありがとう。』


と、何にもしてないのに、何故かお礼を言われた。


「…私、何もしてないよ?」


と、首を傾げるショウに、オブシディアンは
困ったように笑っていた。


『…シルバーさん、もう、大丈夫そうだ。』


シルバーに、オブシディアンが声を掛けた
瞬間。


みんなが、一斉にこっちを見てきてビックリした。


「…急に姿が消えて心配したぞ!
どこに行ってたんだ?何があった?」


汗だくのダイヤが、ショウの元へ駆け寄ってきた。


「…え?」


みんなの様子に、ただただ驚くばかりの
ショウ。そこに


『シルバーさんが、新たに覚えた結界術を
試しただけだ。驚かせて、すまなかった。』


何の悪そびれも無く、オブシディアンはそう
説明しその場を落ち着かせた。

もちろん、ヨウコウ達は悪態つきまくり
ショウはただただ、傷つき落ち込むだけであったが

ダイヤ達は、それなら最初に言ってくれれば良かったなぁ。本当にビックリしたんだぜ。
と、無事で良かったと笑顔で言ってくれた。

気がつけば、日も暮れ始め

夕飯の準備に取り掛かった時だった。

たまたま、ショウの近くを通りかかったダイヤは気がついてしまった。


暮れ始めとはいえ、まだ辺りは明るく
みんなを照らす。

その光のおかげで、ハッキリと分かる。


ショウの目の瞳孔が薄っすら青みがかっていて、黒目の縁がこれも薄っすらであるが虹色。髪の色は、黒いが若干青みがかっている。気のせいか?全身が穏やかにゆらゆら揺らめく湖の様に見えなくもない。


ドクン、ドクン…


…なんだ、これは…?

こんなの見た事も聞いた事もないぜ?


驚き、見間違いかと再度、確認するも
やっぱり見間違いなんかじゃない。

しかし、時間を置き
たまたまを装ってショウを見れば

その度に、色は元の黒い髪と目の色、肌に戻っていく。


そこで、ダイヤはハッとした。


昼間、みんなで言い争っていた、あの時。
一瞬だが、シルバーとオブシディアンの焦る姿が見えた。

その直ぐ後だ。ショウ達が姿を消したのは。

それから、どのくらいだろうか?

少なくとも、30分以上は経ったんじゃないだろうか?

ショウ達は、急に姿を現した。

シルバーの結界術だと言っていたが、それは
そうだと思える。

しかし、その理由だ。

その時は、軽くそうなのか。無事で良かったと思うくらいだったが…今は違うと感じる。


おそらく、あの時

ショウの身に何かが起き、それを隠す為に
結界術を使った。

その時に、何らかの理由でショウの目や髪などの色も変化した。
それが落ち着くまで、結界術を張り続けていた…?


そう思わざる得ないし

ショウの事も気になるが

あの、シルバーという男。


あれほど高度な結界術を長時間にわたり使い続けていたというのにケロッとしている。

…あの男は、一体どのくらいの力を持っているというのか。


オブシディアンが、自分達を助けに来た時も
驚いた。目にも留まらぬ早さというのを初めて見た。

一瞬の出来事だった。

オブシディアンが、自分とシュリの前に立ち
炎と風の融合魔導を使ってきた。

あれは、魔法なんかじゃない!魔法とは次元が違う。と、なれば魔法より更に上の“魔導”であろう事は確かだ。

二種類以上の魔導を使える人間は、ごく稀にしかいない。鬼神と恐れられる我が国の王も
二種類の魔導を使いこなすというが。

融合魔法は学校で薄っすら触るくらいにしか習わない。

何故なら、使える人がまあ居ないからだ。
一つの属性魔法を使えるだけでも珍しい存在なのに。

それが、二つの魔導の融合魔導だなんて、どこの世界の話だと思うくらいに珍しい。

それを間近で見る事ができて自分は幸運だと思うし、嫉妬さえ覚える。


しかし、とんでもない光景だった。

圧倒的強さ。夢でも見ているのかとさえ思ったくらいだ。

その、竜巻の中で

オブシディアンは、オレとシュリに即席でありながら的確な手当てをして助けてくれた訳なのだが…。

…本当に、メイドなのかと疑ってしまっている。

まだまだ未熟な自分は、二人がいかほどにまで強いのか分からない。

ただ、分かる事は

あの二人と自分は雲泥の差くらい…それ以上の力や能力の差があるって事だ。


ただ、ショウの事は気になるな。


やっぱり、最初に感じていた違和感は
これだったのかと納得せざるを得ない。


ショウ、お前は一体何者なんだ?

どんな力を隠し持っているんだ?



最初、違和感を感じたヨウコウ達のおかしな
メンバー構成。

その時、ヨウコウ達と会話していて思った事があった。

おそらく、そういう事だろうと思う。


それが、今になって確信めいてきた。


だからといって、何をするでもないが…

そう、思ったらオレは……。