〜ショウの隠密代理〜


ショウの前隠密が大失態を犯した。
しかも、自分達の主の大きな怒りをかい
主人から怒りをぶつけられ大袈裟を負った。

死なないだけ、マシだと我々の長は言っていたが…。殺さずして、あれだけ痛めつけられるとは、我々の主は拷問の才能があるのではないかと思ってしまう。

前のショウ専属隠密は、若手の中ではとても優秀だ。

幼い頃にその才能を認められ、ショウが赤ん坊の頃からショウが5才頃になるまで
隠密一の実力者と一緒に影でショウを守り
つつ厳しい修行をこなしてきた。

ショウが5才の時、その若い隠密は一人立ちを許され一人でショウ専属隠密をするようになっていた。


その隠密が眠る時は、その間に誰かと交代して任務をこなす。もちろん、数ヶ月に数日間だけは休みももらえる。

その間、そこを補うのが代理だ。

今回、その役に回ってきたのが自分だ。
新しいショウ専属隠密が決定するまでの間だけの任務である。

名前は、深影(みかげ)年は41才。


しかしながら、報告は受けていたが…
ヨウコウ達のショウに対するこの扱いはいかがなものかと思う。

12才の小学生を大学生と高校生、中学生がいじめている。

それを見ても手を出せないのが辛い。

自分達は大きな出来事や不穏に感じた事など
情報を主人に伝える事が主な役。

そして、守る相手が本当のピンチになった時
助ける。しかし、滅多な事がない限りは身を潜め見守らなければならない。
それが例え、守る相手にどんなに可哀想で心痛めるような事が起きてもだ。

今回の事もそうだ。

だが、その判断を見誤らないよう気を付けなければならない。

何故なら、自分達は存在を気づかれてはならない存在だから。


しかし、前隠密を無くしたのは非常に惜しいし残念だ。
前隠密は、責任を負わされ
もうすでに引退してしまったのだが
過去隠密一だった実力者から直々に修行をつけてもらい、数年間、その実力者につき実戦でも様々に身に付けメキメキと力をつけていったというのに。

そのくらいに、実力を認められ期待もされていたというのに。

それが、今回の失態で隠密としての全てを失ってしまったのだ。


と、考えながら、宿の素泊まり部屋でショウを見守っていた時だった。


…なんだろうか?

ショウ様の様子がおかしい。

目をよく凝らして見ると、透明な人間がショウの顔に触れようとしている?

…気のせいだろうか?

…いやっ!

さっきより、姿がハッキリ見える!!


あ、あれは……サクラ様!??


なぜ、サクラ様がこんな所に?


いつの間に?

さっきまで、何もなかったというのに。

何がどうなっているのだ?


相手がサクラだという事で飛び出していく訳にもいかず、ミカゲはとりあえず二人を見守りつつ言葉飛ばしの術でこの事を主である
リュウキに伝えた。

そして、サクラの姿がくっきりハッキリ見えた所でショウとサクラの姿が消えてしまった。

おそらく、サクラが防音と姿消しを兼ね備えたバリアーを張ったと思われる。

中で何が起きているのか全く分からない。

しかし、相手はサクラ。それに、ショウに
危害を加える様子は見受けられなかった為
サクラがバリアーを解くのをひたすらに待つ。

二時間ほど経った時、ようやくバリアーが解けた。すると、そこにはボケーっとしている
ショウだけがいた。

サクラの姿はどこを見渡しても見つけられなかった。


…一体、何が起きたというのか。


しかし、ショウは無事のようだ。

眠いのか、しばらくボケーっとしていたが
“…いい夢だったなぁ”なんて、呟き
“眠れそうにない”とか呟きつつ、すぐに
スヤァ…と気持ち良さそうに寝ていた。

どうやら、ショウにとっていい事があったようだ。

それに安心し、先ほどの不思議現象を考えた。いくら考えても分からない。
夢でも見ていたのかと思ってしまうくらいである。


その事を考えながら、ぐがぁ〜ぐがぁ〜と
いびきをかきながら寝るショウを見守っていた。


すると、今度は


素泊まり部屋入り口から禍々しい何かを感じた。素泊まり部屋はすでに電気は消え真っ暗である。

その禍々しい何かは、素泊まり部屋に入ると
キョロキョロと何かを探し見つけると

そこに向かい歩いてきた。

どこに向かうのかと警戒しながら様子をうかがっていると

それは、ショウの前に立ち

ショウの体を跨ぎ、床に膝をつくとショウの顔目掛け手を伸ばしていた。


これはマズいのではと思い、隠密はサッと何者かの腕を掴もうと手を伸ばした。

しかし、何者かが隠密の存在に気づいた瞬間
俊敏な動きでそこから逃げて行ってしまった。


今のは、一体何者だったのか?

ショウに何をするつもりだったのか?


ただ、隠密が何者かを捕らえようとした時


“…厄介なのがいるね”


と、呟いたのを聞いた。

しかし、何者かの声は男か女か特定できなかった。それほど、微かにしか聞こえない小さな声だったのだ。


どれをとっても一瞬の出来事で相手が男か女かも分からなかった。


すぐさま、この事を言葉飛ばしでリュウキに伝えた。

すると、すぐにリュウキ専属隠密から


“警戒を強めろ。出来るだけ早く、
相手の特定をしろ。ショウ様の害になる
可能性が極めて高い。”


と、言葉飛ばしが返ってきた。

一体、何が起きているのだろうか?

なぜ、ショウが狙われているのだろう?




…………………




ショウの隠密から報告を受けたリュウキは考えた。


サクラの言っていた事が現実味を帯びてきた。

今回は未然に防げたものの、数時間も経たないうちに警戒していた事が起きようとしていた。

しかも、相手は相当できる者だと報告を受けた。

これは、ただ事ではないと感じたリュウキは
サクラに一部の事を隠し

お前の言っていた「“胸糞悪い嫌な気配”とは何だ?」と、問いただすも俯き何も答えなかった。

ここで、そのままの事を伝えればサクラは
ワープの存在に気がつき使おうとするのは目に見えてるし、すぐさまショウの元へ行ってしまうだろう。

だから、下手な事は言えないのだ。


しかし、何度聞いても何も答えはしなかった。

その事を自分の信頼できる部下達だけに伝え
急遽、会議を開く事となった。


リュウキは思う。


何故だ?何故、ショウなんだ?

思えば、サクラもおかしい。


みんな、ショウを他の誰かと間違えてやしないか?


疑いたくはないが、サクラも警戒しなければならないかもしれない。


しかし、リュウキの脳裏に
自分の妻であるアクアの姿が思い浮かぶ。

それを、無理矢理ブンブンと頭から振り払った。

…いや、ショウは何の力も持ってないじゃないか。目の色も髪の色だって自分と一緒の黒だ。

頭も悪いし、運動神経もない。

魔法や波動の能力はない。


なのに、誰かに狙われるなんて…


自分との関係でもバレてしまったのだろうか?

それか、ショウ自身気づかないうちに誰かに逆恨みでもされたのか?


あり得ない話ではない。


サクラや相手が、ショウを何かと勘違いするにしてもショウが危ない事は確かだ。

相手が何の目的でショウに近づこうとしていたのかも分からないが…悪い事が起きなければいいと思う。


できれば、今すぐにでもショウを連れ戻したい気持ちでいっぱいだ。

あるいは、自分がショウの護衛でもなんでもして直接守ってやりたい。側に居てやりたい。

しかし、相手の素性も目的も分からない今
下手な動きはできないのだ。


リュウキは、生きた心地のしない気持ちで
ショウの無事を祈った。


こんな時に、何もできない自分が情けなく
悔しい。