イケメン従者とおぶた姫。

〜ショウが、屋敷を出て行った時の話に遡る〜



ショウはリュウキの話を聞き、サクラに合わせる顔がないとショックのあまり

自分の部屋にちゃっかり用意されていたリュックを背負い外へ飛び出して行った。

サクラに見つかりませんようにと強く強く念じながら。


ショウが、門の外へ出ると

そこに全身黒尽くめの女性が立っていて、いつの間に!!!??

と、ショウは驚きのあまり



「しょ、ショエェェェーーーーー!!!!???」


と、叫び地面に尻餅をついていた。

すると、その女性は


「旦那様から伝言です。
『お前、一人じゃさすがに可哀想だから
護衛とメイドをつける』との事です。
旅のお供の方々は、こちらでお待ちです。」


と、どうやって声を出しているのか口を動かしてもいないのに話をしてきた。

ショウは、何の疑いもせず
その怪しい女性にノコノコとついて行ったのだった。世間知らずもいいとこである。

先行き不安だと、ショウの専属隠密は変装しショウを道案内しながら心配になった。


ショウが乗り物に乗せられついた場所は、とある屋敷。自分の住んでいる屋敷よりずっとずっと豪華で敷地もとても広く驚いた。

その屋敷の客間に通されると
そこには威厳たっぷりの怖そうな大人と、自分と同じくらいの年齢の男二人、女二人がいた。

人見知りなショウは、オドオドビクビクしながら俯きチラリと威厳たっぷりのおじさんを見た。すると


「よく、来てくれた。
説明をしたい。席についてくれ。」


と、訳の分からないままショウは、椅子に座らせられた。


「お前も知っている通り。
これは、時期王候補の順位を決める為のテスト。」


さも当たり前のように説明するおじさんに、ショウはギョッとした。



…え!?

なに、それ知らない!


と。ショウは訳も分からず、おじさんの説明を聞く。


「王子と護衛で、一般市民を守りながら
世界一周の旅をする。一番早くに城に辿りついた順に順位が決まる。

一般市民は、10才以上、60才以下で性別は問わない。

選ばれた者は旅が終わってから褒美が出る。

殺到する応募の中から、お前は見事に選ばれた。」


…え…?

なに、それ。本当に知らないんだけど…

もしかして、私…誰かと間違えられて連れて来られちゃった?

…どうしよう…

間違えてますよって、いつ話せば…タイミングが…


ショウはパニックになった。

どう言ったらいいのか、言い出す勇気もタイミングも掴めず頭の中はグルグル回っていた。



「名前は、ショウというのか。年は12才。応募は…父親がしたようだな。応募理由が
『甘ったれで、一般常識も知らない。マナーも知らない。頭も悪ければ何の取り柄もない。
ただただ、ブクブク太っていくばかりのブタ娘の行く末が心配。世界を見て少しはマシになってほしい。』」



と、おじさんが何やら書類らしきものを読んでる。だが、その内容を聞いてショウは思った。


…あ、これ。間違いなく自分だ。

なんだろう…応募理由が悪意しか感じない。

すごく、恥ずかしい…!

…最悪だ…

なにが、可哀想だから護衛とメイドをつけるだよ!!

全然、話が違うじゃない!

嘘つき!バカお父さん!!

もう、本当に信じられない!


父親のリュウキが勝手に応募して、理由は分からないが受かってしまったらしい。

ちゃんと旅の説明をしてほしかった。

まさか、王子様達との旅だなんて…全然聞いてないし。恐れ多すぎて、そんな旅だって知ってたら絶対来なかったのに!


ショウは、読み上げられた書類に羞恥を感じ俯き真っ赤になった。

どこからともなく声を潜め笑ってる声が聞こえる。

プクク…クスクスと笑い声が聞こえる所を見ると、メイドらしい女性に連れられ何人がショウのいる客室へ入ってきたのが見えた。


…ギョッ!!!


その人達を見てショウは緊張のあまり固まってしまった。だって、あからさまに一般人とは違うオーラを感じる。

そんなショウをよそに、その人達は用意された席についた。それをおじさんが確認すると、ショウに向かい


「紹介をしよう。こちらが、我が国の第18王子の陽光(ようこう)様だ。王位継承候補の一人で勉強の為に世界を旅する事となった。」


紹介された王子の第一印象は、パーマがかった金色の髪、垂れ目がちなエメラルド色の目。
右目の下と唇のしたのホクロがそう見せているのか服の着崩し方がそう見せるのか…儚げな美少年に見えた。弱っちそうだ。

異性に疎いショウにとって例えるのが難しかったが、簡単に言うと儚げなセクシー系イケメンであった。

王子は愛想よくショウに笑いかけてくれた。
反射的にショウは、慌ててペコリと頭を下げた。


「こっちが、俺の息子の豪乱(ごうらん)。王子とショウの護衛を任せる事になる。」


ゴウランは、いかにも鍛えてそうな肉体をしていて身長も高い。
黒髪をツンツンに固めて、キリリとした
サファイア色の目。肌も健康的な色をしていて強そうだ。

こちらは、ワイルド系イケメン。



「そっちが、優秀な槍の使い手である
澪(みお)。ゴウランと共に二人の護衛だ。」


ミオは、白金髪で、サラサラストレートのボブヘアー。褐色の肌で、目の色はイエローグリーン。
スレンダーで、クール系美女といった感じ。とても、槍の使い手とは思えない線の細さだ。


「と、あとは。王子とショウの世話をしてくれるメイドのミミだ。」

ミミは、ツインテールの赤茶色の髪。色白で、目の色は茶色。ウルウルとした可愛らしい大きな目と華奢で小さめな体。

守ってあげたくなるような可愛い系美少女。


つまり、ショウを抜かした全員が美形であった。これには、美形慣れしているショウはちょっと嫌な予感しかなかった。

だって、サクラは別として。

屋敷のメイド達は、古いメイド三人以外
揃いも揃ってみんな美女ばかりだった。

しかも、サクラや古いメイド達がいない時のショウに対する扱いといったら…嫌がらせをされる事もしばしばあった。

その事は、サクラやお婆達は知らない。

だから、ショウにとって美形は
まだ見慣れない時だけは目の保養になるが何となく苦手である。

見慣れてくると同時に、美形達(メイド)はショウを嫌な目で見てくる事が分かるし、徐々にショウに悪口や嫌がらせをしてくるので

ショウにとっての美形=人の皮をかぶった悪魔か妖怪にしか思えない。


それに、護衛って…え!!?

あまりにも若すぎない?サクラと大して年が変わらない気がするんだけど。

…大丈夫なの?

と、ゴウランとミオを見て驚き、かなり不安になってしまった。

驚くショウを見て、おじさんは



「ああ、説明してなかったな。
これは、王子の王位継承の試験でもあるが、同時に未来の軍のエリート候補達のテストでもある。
この旅により軍に入隊した時、最短でエリートコースに登り詰める優遇権が与えられる。」


と、教えてくれた。

なるほど、だから護衛達もこんなに若いんだ。…不安しか感じない…。

しかも、そんな大それた試験に私も参加するなんて…お父さん、本当に最悪!

お父さんのせい!


心の中で、ショウはリュウキに対しプンスコプンスコ怒っていた。


この屋敷の主は、驚いた事に
この国の将官らしい。階級なんて
イマイチ分からないが、ザックリだが凄く偉いんだろうなとショウは思った。

だから、こんなお城みたいなところに住んでるんだなと漠然と思ったし。
この人の奥さん、めっちゃくちゃ美人さんだ。
なるほど、だから息子のゴウランがこんなにもイケメンなわけだ。なるほど、なるほど。

でも、自分の父親もイケメンの類に入ると思うんだが…何故に自分はこんな容姿に生まれてしまったのか…解せぬ…と、ショウはズーンと凹んだ。


思えば、幼稚園に入るまで自分はサクラをも超える美人と疑わなかった。
だって、サクラもお婆もショウの事を可愛い可愛いってそれはそれは大切に可愛がってくれたし、サクラなんかお姫様みたいにデロデロに甘やかしてくるから。

そして、意気揚々・自信たっぷりに幼稚園に行き…周りの園児達にブスと笑われるわ揶揄われるわでショウの浮ついていた心はドン底に撃沈。

それでも、サクラやお婆はショウはとても可愛い、世界一…宇宙一いや、何よりも可愛いとやっぱりお姫様みたいにショウを超がつくほど溺愛するので

何故、こんなにかわいい自分を周りの子達は揶揄って笑うのか、意地悪されるのか分からない時期が続き、幼稚園に行く度に悩む毎日を過ごす事となる。

だが、さすがに小学校でも、ブサイク、デブ、ブタ、バカ、ノロマと言われ続ければ、嫌でも自分は可愛くないんだと長い時間をかけようやく理解してしまった。
かなり、ショックだし受け入れがたいリアルであった。

ショックのあまり父親のリュウキに、この事を聞いてみると


「なんだ、知らなかったのか?お前は、ブスでデブだぞ。」


と、さも当たり前の様に答えた。これには、ショウは大きく傷つき大泣きした。

その時、リュウキはサクラとお婆にめちゃくちゃに怒られ肩身の狭い思いをしたのだろう。リュウキは、耳を塞いで屋敷からそそくさと逃げて行った。

そんな姿ばかり見ているショウなので、お父さんってダサいなぁって思うし、嫌な事も平気でバンバン言ってくるので…苦手だ。

でも、たまに家に帰ってきた時嬉しく思ってしまうのはどうしてなんだろう?不思議だ。

そんな事をショウは思い出し、何とも嫌な気持ちになっていた。

しかし、将官からこんな言葉をもらいショウは一安心したのだった。


「不安がる事はない。実力、知識、人望ともに選びに選ばれた選りすぐりの者達だ。
それに、この者達のミッションは平民であるショウを無事に世界一周させる事だ。だから、安全も確証できる。安心して、旅に出るといい。」



その日、五人は将官の屋敷に泊まり

ショウは、この先どうなるのかという不安とあの人達とどうやって過ごせばいいのかと悩み眠れずいたし。
いつも、当たり前のようにあった温もりと安心が無くて…心細さからサクラの名前を呼びエグエグ泣いて泣いて泣き疲れて眠った。


その頃、王子のヨウコウと将官の息子ゴウランはゴウランの部屋で話をしていた。

と、いうのもゴウランは、ヨウコウの遊び相手としていつも一緒だった。つまり、幼なじみである。気も合ったので二人は身分の差はあれど親友でもあった。


「…なあ、あのデブス。どう、思う?
何で、俺達の旅にあんなのくっ付けてくるんだ?邪魔なだけだろ。もっと、マシなヤツ用意してほしかったぜ。」


ゴウランが、ベッドに寝そべり天井を眺めながらブツクサ文句を言うと


「…ワザとだろうな。おそらく、この旅で
一般市民が選ばれる基準は底辺な人間。
見たか?食事の時、箸どころかスプーンやフォークさえ使えなかった。
聞けば、風呂の入り方すら知らなかったらしいじゃないか。敬語も使えない。マナーもなってない。
育ちが悪すぎる。どう見ても、教養のない貧乏な生まれの者なのだろう。」


「…うわぁ…最悪だな。」




「足手まといでしかないあの者をどれだけ守り抜き無事にここまで連れ戻ってきたかで俺達の処遇が決まるんだろ。まあ、実際には庶民であるあの者がどうなろうと関係ないだろう。旅には危険が伴う。
上流階級の俺達が無事ならそれでいいのだろう。

もし、あの者も無事に連れて帰れた場合は、俺達には輝かしい未来が約束される事間違いないだろうがな。」


ヨウコウは、面倒くさそうな顔をしソファーに寄り掛かった。


「けど、あのデブスの他はなかなかいいよな!ミオちゃんに、ミミちゃんだっけ?」


ゴウランは、イシシ!と美女と旅できる事を喜んでいた。


「だが、五人で旅するには所持金が厳しいな。」


そう、ヨウコウはチラリとゴウランを見ると


「は?所持金は、必要ある時に使うもんだろ?つまりは…」


ゴウランの言葉に、ヨウコウは二マリと笑いゴウランも同じく悪い笑みを浮かべていた。

そうなのだ。月に一度、旅に必要なお金を各自のキャッシュカードに入金される事になっているのだが
どう考えても、宿賃、食事代を含めると貧相な生活しかできない金額だ。

だが、それを一人分でも削ればどうだろう。
それだけで、大分快適な旅ができるのだ。


二人は考えていた。要は、一番大事な存在は王子であるヨウコウに決まっている。

次は、将官の息子のゴウラン。ついで、期待の星であるミオ。

可愛いから、ミミは特別として。

どう考えても、いらないのは庶民のショウである。

デブスで一緒にもいたくないし。こんなのに、時間もお金も割くのはもったいない。

なら、答えは自ずと見えてくる。




早朝、五人は旅に出た。

その時、みんなショウに優しかった。とても、気にかけてくれてショウは安心した。どうにか、この人達と旅ができそうだと。


「身分を隠しての旅だ。余のことは、ヨウコウと呼ぶように。」


と、王子の釘刺しもありつつ。“余”とか言ってるあたり…身分が高い人ってバレそうな気がするけど…と、城に関係のないショウとミミはそう思ったが相手が王子なので黙っておいた。

見送る将官と将官の奥さん、ヨウコウの乳母や執事達は、みんな仲が良さそうで良かったと安心し見送った。


旅を始めてすぐ問題が起きた。


それは……


…ゼェ…ゼェ…


ショウの絶望なまでの体力の無さ。力の無さであった。歩いて5分も経ってないというのに汗もダクダクでフラフラしているし…何よりめちゃくちゃ歩くのが遅い。

100メートルくらい差ができては、ショウが自分達の所まで来るのを待つ。それの繰り返しで、これには四人はイラついた。

最初こそ、メイドのミミがショウの側で背中をさすりながら励まし、ショウのスピードに合わせ休み休み歩いていたのだが。

ついに、体力の限界が来たショウは



「…ねぇ、車呼ぼう?」


と、言った事でみんなブチンとキレ


「このクソブタ!お前は、どこぞのお姫様かお嬢様かなんかか!?どこに、そんな金の余裕があんだよ!お前、バカすぎんだろ!
王子だって、文句も言わねーで歩いてるってのに!最悪だ!マジで、最悪!!」


ゴウランが、そう言ったのに続き


「…仕方ない。ブタは置いて行こう。
おい、ブタ。宿の名前は知ってるよね?余達は、先に行ってるからね。分からなかったら、アプリ携帯を使うか道行く人に聞けばいい。」


と、みんなショウを置いてさっさと行ってしまった。

ミミは心配そうにショウを何度も振り返ってくれていたが、ヨウコウ達に説得され一緒に居なくなってしまった。

ちなみにアプリ携帯は、五人の登録しかされていない。親や友達の登録された自分達のアプリ携帯は、旅の甘えになると没収されている。

一人、取り残されたショウはリュックの中から、『何かあればこれを使えばいい』と、書かれた父であるリュウキからの手紙に添えてあった金色の鍵を取り出した。

これは何なのか、どうやって使うのか分からなかったが。

アプリ携帯でタクシーを呼び、目的の宿に着くとお題を請求され、よく分からないまま金色の鍵を運転手に見せると酷く驚いた顔をされ運転手の持っている大型のアプリ携帯の鍵穴にはめると、カチャという何かが開く音と「ありがとうございました。」と、機械音が鳴った。


「毎度、ありがとうございます。またのご贔屓を。」


と、言って最初とは全然違う丁寧な態度に変わりペコペコしていた。

早速、みんなのいる部屋へ行くと
みんなかなり驚いていた。そして、みんなと違う…他人と雑魚寝をする格安の部屋に通されショウは初めて冷たい床で薄っぺらい毛布をかけ眠る事になった。

痛いし…冷たい…

すぐ側に、他人が眠っていて気が休まらない。ストレスしか感じない。

こんな所で眠れない。


…きゅるるるぅ〜!


そういえば、お腹が空いた。今日は何にも食べてない。

そこでショウは思った。もしかして、この鍵を使ったらご飯も食べられるんじゃないかと。

ショウは、さっそく宿のカウンターに行き早速鍵を使った。すると、驚いた事に好きなメニューを選んでいいとの事!

さっそく、ショウは好きな物をたらふく食べ部屋も一番いい部屋に変えてもらった。

いっぱい歩いて、気疲れもし疲れ果てていたショウはベッドに入り


あ〜、とんだ目に合ったな。
明日こそ、みんなの迷惑にならないよう頑張んなきゃ!

今日、こんなに頑張ったんだから
明日はきっともっと…

いっぱいいっぱい頑張ったら、サクラも褒めてくれるかな?

…会いたいな…でも、もう会えない。


サクラは、私と離れて幸せになれたのかな?


…サクラ、私はサクラと離れたくないよ…


と、サクラを思い、今後の不安からたまらなくなり涙を流し酷い疲れからすぐに眠りについた。


…ピリリリ!ピリリリ!


アプリ携帯の着信で目が覚めたショウ。
慌てて電話に出ると


「おい!どこにいるんだ?
さっさと起きてこい!俺達は外にいるからな。」


と、ゴウランの不機嫌な声。ショウはションボリしながら宿の外へ出た。

そこでは、不機嫌そうに自分を待つ仲間たち?仲間と言えるのか分からないが…。

そして、また歩くというショウにとっては地獄が待っている。

みんなに遅れながら必死に歩くショウだが、やっぱり離されるばかりで。休み休み歩かないと動けない。

それが何日も続くと、次第にミミもショウから離れイラつきながらショウを待つようになっていた。


そして、みんなに置いていかれ。タクシーを使い宿へ行く。

毎日が、その繰り返しだった。

しかし、自分達の国から国境を越える関所に着くあたりゴウランとミオは、ショウに対し引っかかる事があると途中立ち寄ったファミレスで話した。


「…なあ、おかしいと思わないか?」


そう話してくるゴウランに、ヨウコウとミミは不思議そうに耳を傾ける。


「何が、おかしいんだ?」


ヨウコウが聞くと


「そうね。私もおかしいと思う。」


ミオもそう言ってきた。ミミも不思議そうに首を傾げる。


「あのブタの事だよ。あんなノロさで、あんな短時間で宿に辿り着くとか、どう考えてもおかしいだろ。」


「…私も、そう思うわ。しかも、シャワーもない雑魚寝の部屋を用意してるのに臭くないのよ。」


と、ゴウランとミオの話に、ハッとヨウコウは気がついた。今まで、何とも思わなかったが言われてみればその通りである。

気になった四人は、宿にショウが来るのを見張っていた。四人と言っても、ゴウランとミオが交代で見張っていたのだが。

そして、見てしまった。

ショウがタクシーを使って宿に辿り着く所を。ゴールドキーを使い支払いしている所を!!


それを見た時は、目ん玉が飛び出るかと思ったほど驚いてしまった。

さっそく、部屋に戻りその事を伝えると

ゴールドキーと聞いてミオとミミは全然分からないようだったが、ヨウコウは酷く驚いていた。

ゴールドキーは、相当な資産家か金持ちしか持つことの出来ない電子マネーである。

と、いう事はショウはどっかの金持ちのお嬢様って事になる。

なら、いくら超絶デブと言えど
あそこまで酷い様と常識の無さにうなづける所もある。


相当なまでに甘やかされて育ったに違いない。そう思ったら、ヨウコウとゴウランはムカついてしょうがなかった。

と、言うのもヨウコウとゴウランは幼少の頃から修行に勉学に社交マナーにと厳しく育てられ、特にヨウコウなんて親に会った事がない。

母親はどこの誰かは分からないし、実の父親であるはずの王はヨウコウ達の事を自分の子どもとして見てなどいない。
あくまで、自分達は王の血を色濃く引き継いだ“王候補”にしかすぎないのだ。

だから、王の事を親と呼ぶ事を許されない。

王と会っても、親子として接する事など決してない。あくまで、王と王候補という王、将軍、騎士団長、将校、総統領…の次に、位の高い王の部下にもならないただの次期王候補という立場だ。

血は繋がれど、決して親子ではないのだ。

自分の異母兄弟達も自分と同じ境遇だと聞く。大して触れ合った事も話した事もないが。

なにせ、みんな王位継承を競うライバル達なのだから。


それでも、頑張って優秀な成績を残せば
きっと自分を見てくれる。認めてくれるといった期待は拭いきれず。
孤独な中、王に…父親に認めてもらいたくて必死になって厳しい修行に耐え勉強してきた。

そして、最有力王候補の5人に選ばれ、その中でもトップにまで登り詰めた。

今現在、次の王を決めるべく

王後継者候補5人、それぞれがそれぞれの条件で旅に出ている。いわば、最終テストなのだ。


そんな大事な時に、こんな足でまといが……!


そう思ったら、ショウの事がムカついてムカついて仕方なかった。

その気持ちは、ずっと側で見てきたゴウランも手に取りようによく分かった。

いつも、どんな厳しい修行も勉学も互いに切磋琢磨したライバルであり一緒に遊び育った兄弟のような存在でもあったから。


そうして、ゴールドキーの存在に気付いた二人はタクシーから降りたショウから鍵を取り上げた。取り上げて、二人は更に驚く事になる。

何で、こんな大それた物をこのブタが持っているのかと。

ゴールドキーには剣と盾の紋様。
これは商工王国の“王族”と“王族に認められた人物”だけが持つ事を許される紋章なのである。

なので、これを見せただけで大概何でも許されてしまうという恐ろしい代物である。

自分が見た限り、どうも偽物には見えない。

王子である自分だって、この紋様のついた物を特別な理由でもない限り勝手に持ち歩くのは許されていない。

許されてないのに、庶民でしかも二つ年下のこのブタがこれを持っているのか。

きっと、何かあるはずだとヨウコウは思った。下手すれば、闇市で入手し巡り巡ってブタの親の手に渡った可能性もある。

城に戻ったら調べてやる。調べて、お前ら親子ごと牢屋にぶち込んでやるとヨウコウはふつふつと燃えたぎるような苛立ちでショウを睨んでいた。

何が起きてるのか分からないショウは、なんだか怖くて身を縮め泣きたい気持ちだった。


「これは、お前のような庶民が持っていいような代物ではない。」


ヨウコウは、ショウからゴールドキーを奪った。


「…え!?で、でも困った時にそれを使えってお父さんの手紙に…」


ゴールドキーを取り上げられたショウは驚いて、思わずヨウコウに言うも


「…余に刃向かうのか?」


と、凄まれてしまった。まさか王子に刃向かうなんてできるはずもなく。あまりの恐ろしさから声も出なかったショウは必死に首を横にふった。

それからというもの、ゴールドキーという手段を使えなくなったショウはみんなに追いつく事もできず宿に辿り着けないまま野宿する羽目になり

リュックの中に入っていた、ワンタッチタイプの小さなテントを使い何とかその場をしのいだ。

こんな狭い布切れ一枚に、こんなに感謝する日が来るとは夢にも思わなかったショウだった。

夜が明けると、アプリ携帯が鳴り出ると
ミオから生存確認され次の宿の名前を聞かされナビ付きマップを送られてきた。

そういえば、お金…10万ゼニーがあったっけ!と、お金の価値も使い方も分からないショウだったが、藁にもすがる気持ちでアプリ携帯を開きタクシーを呼ぼうとした。

聞けば、みんな関所を越え

ビーストキングダムという国へ行ったという。

ショウも慌てて、関所でパスポートと通行許可証を見せ国境を越えた。

越えた瞬間、なんだか嫌な空気を感じたのだった。