イケメン従者とおぶた姫。

みんながあまりの眩しさに一瞬目を閉じて、すぐに目を開けると

そこには手のひらサイズの透明な紫水晶の様な球体の光が、ショウの目の前にいた。

そのとても美しい光の玉は、何の気配も感じさせずこの特別な空間にいとも容易く侵入してきたに精霊王達は驚きを隠せなかった。

そして、紫の光の玉は


「本当にごめん!!」

と、開口一言目に謝罪の言葉が出て、何事だろうとみんな目を丸くしてその光景を見ていた。

その紫の光玉は、各精霊王達やゴウラン以外みんな知っているので
知らない彼らには、リュウキが紫の光玉の正体について説明をしている。


「ショウには、言葉では言い表せないくらいに自分の過ちを深く反省して忘れる事はない。
そして、俺が生きる意味と場所を与えてくれた事、感謝してもしきれない程に感謝しているよ。」

と、ショウにとても感謝している趣旨を伝えてきた。同時に


「ショウの事は何よりも大切だし大事な事には変わりない、ショウの危機にはいつだって何を投げ打っても駆けつけるつもりだった。
恩返しとまではいかないかもしれないけど、ショウを守る為なら俺の命はショウに捧げるつもりでいた。」


ショウへの思いも。

…しかし…


「…だけど、状況が変わったんだ。
ショウが俺に与えてくれた世界に生まれ変わった俺は、そっちの世界のショウを愛してしまった。
“俺のショウ”が一番になった今……俺は、こちらの世界のショウに命を預けられない。」

と、なんだか先行き不安な雰囲気と言葉に変わってきて、サクラた達はなんだか嫌な予感が頭をよぎった。


「本当に申し訳ないけど、こちらの世界がピンチになっても俺は手助けできない。」


そう、言ってきた事で

ここに居るほぼみんなの嫌な予想は見事に的中してしまい、これはマズイと慌てたようにサクラが何か文句でも言おうと口を開きかけた時

オブシディアンの言葉飛ばしにより

『これは我々が何を言っても“ダリア”は我々の話には一切耳を傾けないだろう。
あくまで、ショウとダリアの話し合いだ。我々にできる事は、どんな結果になろうと事の顛末を見守る事だけだ。』

と、伝えてところ

みんなの言葉飛ばしやテレパシーで、色々と口論こそあったが、リュウキがそこを上手くまとめ

みんな色々思うところはあったが、大人しくショウとダリアを見守る事となった。


「…俺のショウを悲しませる事なんてできないんだ。
俺の方から、ショウの“召喚従”になると言っておきながら本当に申し訳ない!!」


と、必死になって謝ってきた。

それを見て、ショウは


「…ダリアは、向こうの世界で幸せ?」

と、聞いてきた。それに対してダリアは

「…ショウのおかげで、俺のショウと出会う事ができて…自分でも意外だったんだけど親友までできてね。色々、大変な事もあるけど。
それ以上に、こんなに幸せでいいのかってくらいに幸せに満ち溢れているよ。」

なんて、雰囲気や口調からも分かるように心から幸せだと伝えてきた。


「それもこれも、全てショウのおかげだよ。こんな、どうしようもない俺を救ってくれてありがとう。
そして、その恩返しができない事…本当に申し訳なく悔しいよ。」


泣いてるのだろうか?表情なんて見えないのに、声が泣いているように感じる。

そんな、ダリアにショウは


「ダリア、幸せなんだね!
それが聞けて、とっても嬉しい!それだけで、もう充分だよ。
いっぱいいっぱい苦しんできたダリアが幸せになってくれて私も嬉しい。ありがとう!

それに大事な人ができたら、ここに来れなくなるのは当たり前だよ。その人を大切にしてあげてね。」


とっても嬉しそうに、ぴょんぴょん跳ねて喜んでいた。

「……ショウ……」

「今まで、ありがとう!ダリア…ううん!“桔梗(ききょう)”。
ここは気にしないで、“自分の世界”で幸せになって。
だって、“ここはもう桔梗のいる世界じゃない”んだもん。

だけど、この世界にある桔梗の体と魂を入れる器は悪用されないように回収して桔梗に返すね。そうした方がいい気がするから。」


ショウが、そう言うと


「…ショウには、何から何までお世話になりっぱなしだね。
何の役にも立たないどころか手間かけちゃって、ごめんね?ありがとう。

…だけど、ショウへの恩返しやお礼には届かないかもしれないけど。」


ダリアは、少し口ごもりながら


「こっちのショウを手助けできないと決めてから、ずっと考えていた事があるんだ。…上手くいくか分からないけど。
それでも、少しでも可能性があるならやれるだけの事はした方がいいと思ってね。一か八かの賭けになってしまうけど…。」

ダリア自身も、あまり気乗りしてない提案のようで、ダリアもモダモダと言い訳の様な事を並べている。

そして、ダリアは決心を固めたようにハッキリした口調である提案をしてきたのだ。それは…


「この世界にある

【俺の“体”と“魂の器”】

を、大昔に“俺が捨てた感情一部であるサクラ”と融合させる。」

その提案に、色んな意味を含めてみんな驚きどよめいていた。

ショウは“融合”の意味が分からなくてイマイチ分かっていない。

響めくみんなをダリアは

「ウルセーッ!外野はすっこんでろ!
今、大事な話してんだ。
それに、色々事情があって俺様は、この世界に居られるタイムリミットがあんだ!時間を無駄にしたくねー。
だから、大人しくしとけ!クソども!」

何とも口汚く、周りの反感を買いながらも、事情が事情なだけにみんなを黙らせると

再度、ショウに向かい話し始めた。

これは、ショウよりもサクラに大きく関わりある話であって、サクラと話し合わなければならない話にも関わらず

ダリアは、サクラにとって重大で大事な話をショウだけにしているのだ。


ゴウランやシープも、勝手にサクラのあれこれが決まりそうな内容に

本人の許可なく勝手過ぎると怒りまくってサクラに、

「自分の事なのに黙って見てていいのか!?」

「サクラの事なんだから、サクラ本人が参加しないでどうする!!?」

と、ダリアの身勝手さにムカつき声を掛けた。その事については、ゴウランやシープだけでなくロゼとリュウキを抜かしたみんなが思っていた事であった。

それに対し、サクラは


「判断はショウ様に委ねる。」

と、言ってそれっきり誰がなんと言おうとうんともすんともせず、ただひたすらに柔らかな表情をショウに向けるだけであった。



「…あ〜。ちょっと、難しい話だよね?
だけど、我慢して聞いてね?」

ダリアは、難しい内容の話にやや付いて来れなくなってきて頭を捻っている事にダリアは気付き、ショウに頑張ってと優しく労う言葉を掛け

ショウが、頷くのを確認してから話を再開した。


「まず、サクラには“潜在能力”が眠っている。そして、“本来の力”も出せずにいるんだ。理由は簡単。

サクラは、

【俺の捨てた“元感情の一部”】

その当時の俺は、一番大切な筈の感情を愚かにも不要なモノと勘違いして

“禁術に近い術”にも関わらず、気狂いした俺はその感情を捨てようと雑に魔導を発動させた。

その時は、“余計なもんを捨ててやった”と歓喜して気が付かなかったが…

魔導があまりに雑過ぎた為と“ためらい”があったせいで、おおむね成功した術に“欠陥”があった様だ。」


内容が内容だけに、みんなサクラの精神状態が心配でみんなチラチラとサクラの様子を窺っている。


「…欠陥って、失敗しちゃったって事?」

と、不安そうにショウが聞くと

「……そうだね。ちょっぴり、失敗しちゃったんだ。」

ダリアは声を柔らかくして言葉遣いも少し幼稚な言葉に変わっていた。まるで、幼児でも相手にしているかにように。


「元々、俺は魔導と波動両方とも得意だったんだけど。魔導の方が何かと楽だったから普段、魔導ばかり使って波動を使う事がなかったんだ。
だから、魔導の方ばかり使ってたから魔導ばかり力とか能力が向上して、波動は使わな過ぎてその存在すら忘れていた。

だからかな?

あの時、自分には要らないモノだと大きく勘違いして捨てちゃった“一番大切な感情”と一緒に必要性を感じなかった“波動”まで捨てちゃってたみたい。

その事(波動)については、本当にごく最近思い出して気が付いたんだけどね。」


表情こそ見えないが、苦笑いしているであろうダリアの姿が思い浮かぶような内容だ。


「ここからは、サクラ自身も知ってる通り【俺が捨てた感情の一部】の気持ちがあまりに強すぎて“意識”を持つようになって。

長い時間を掛けて【“自分”という意思を持った魂】になった。

更に時間を掛けて近くにいた生き物の姿を模して【肉体】を得た。」

「おそらく、肉体を得ることができたのは魂が浄化して一度転生して生まれ変わったという事が考えられるけど……あ、難しく喋っちゃってごめんね?

この話は専門家以外の人達には、本当に難しい話だからこの話はここまでにしておくね?」


「さっきの続きだけど、意思と魂、肉体を得たサクラは同時に

俺が知らずに捨ててしまった
“能力・力”である【波動】を自分の一部として確立していたみたい。

だから、サクラは“波動が得意”なんだよ。空の精霊王国の王子云々は抜きにしてね。」


「だけど、今のサクラはその力を使いこなせていないし、引き出す事すらできてない。

何故なら、“本来ある筈の魂の器”が無くて剥き出しでブレブレの魂。力を引き出し使いこなすには、あまりに貧弱過ぎる“体”だから。

所詮は、俺の心の一部から誕生した未完成体だから。

それを、カバー…ううん。

本来のサクラの能力を引き出し、その力に耐え得る体を手に入れるには

【“元”同一人物であるダリアの魂の器と体】

を、取り込むしかないよ?

元々俺達は一つだったから、できる筈ではあるけど…。正直、それが上手くいくって絶対とは言い切れない。

…だって、サクラはサクラとして一人の人として何度か生まれ変わり自分の人生を歩んでいる。

サクラは、俺じゃない。
もちろん俺だってサクラじゃない。

だから、これは未知なる領域になる。
だけど、こっちの世界が危機で一刻を争う時にリスクとか考えてる暇はないと思うよ?

どうなるか分からないけど、とても有益な話だと思うんだけど。

どうかな?」


「…え!?サクラの魂と体がちゃんとできてないの?」


「…う〜ん…?ちょっと違うけど、そういう事かな?だから、サクラは自分を上手くコントロールできなくて苦しんでいると思うよ?」


「…えっと!とにかく、サクラの魂と体が不完全でサクラが辛い思いしてるって事?」


「…そんな感じ?だけど、この世界にある俺の魂の器と体をサクラに与えると、サクラは“本当のサクラ”になって元気になれるって感じかな?」


「……え!?でも、そんな事しちゃったらサクラは助かるかもしれないけど!
ダリアは?ダリアは大丈夫なの?」

と、ダリアを心配するショウに


「……俺の心配までしてくれるの?
ありがとう。そこは全く問題ないよ?
だって、俺はこっちの世界の人間じゃない。こことは別の世界線に生まれ変わってるから何ら弊害もないよ。

何より【こっちの世界の俺の魂の器や体】が、何かによって悪用される可能性も高いからね。

そこを考えると、是非ともサクラにそれらを取り込んで融合してほしいと心から願ってるよ。」

と、ダリアの安全が保証された事と、ダリアの強い願いを聞いたショウは


「ダリア、ありがとう!」

心からお礼を言った。

ショウは他にも、色々とダリアに伝えたそうにしていたが語彙力がなさ過ぎて上手く言葉にできず、もどかしそうにしていた。


「大丈夫だよ、ショウ。その言葉だけで十分ショウの伝えたい気持ちが伝わってくるよ。
俺の方こそ、今までありがとう。感謝してもしきれない。今の俺にはこんな事くらいしかできないけど……

我が“元天”、永遠に幸あれ。」

そう言って、ショウの足元にダリアはピトっとくっ付くと、すぐに離れ


「これが、この世界での最後の“天”への奉仕だよ。」

と、ダリアは言うと

辺り一面が、紫と青の混じった眩い光に覆われ、あまりの眩しさにみんな目を閉じた。


「【俺の魂の器と体】は、サクラの師匠の一人である【モモ】に託したよ。
どうやら、モモと一緒に居る【マオ】と力を合わせる事で、こっちの俺の魂の器や体とサクラを融合できるらしい。

……一体、彼らは何者?

とんでもない人物には間違いないだろうけど。多分、あの【モモ】って男は、“鬼”と互角かそれ以上に強いんじゃないの?

あくまで、正々堂々と戦えばの話だけどさ。それができないから、向こうも困ってるんだろうね。

本当、あの鬼は厄介極まりないみたい。」


そんな事を言ってから、リュウキの方に向かい


「……過去世、貴方や奥方様にはとても酷い事をしてきました。謝って済む事ではありませんが、心から謝罪致します。
本当に申し訳ありませんでした。

代わりと言っては何ですが

貴方とハナという聖騎士団長は、人間の体の為持っている潜在能力を出せずもどかしい思いをしていると考えています。

リュウキ様やハナ団長、オブシディアン、ゴウランに関しては

元々人間ではありません。人間の体を持って生まれる事自体間違っています。
それについても、【モモ】という人物なら何とかできるかもしれません。

会えるなら、貴方達は【モモ】に会うべきだと考え【モモ】にその趣旨を伝え、会う事を許してもらっています。

もし、貴方達にその意思があるのならば、是非とも【モモ】という人物に会っていただきたい。」

と、一方的に言うと


「ダリア。時間がない中、ご足労掛けた。恩にきる。ありがとう。
これからの、ダリア…いや、桔梗か。桔梗の末長い幸せを祈る。」

リュウキは、ダリアにお礼を言い頭を下げた。それに対し、ダリアは何か言いたげであったが本当に時間がないのであろう。


「…ショウ、お別れの時間だ。
今まで、本当に本当にごめんね。
俺はショ……ッ!!?…ううん…。
そして、ありがとう。」

そう言って、ショウの胸に飛び込み別れを惜しんでいるようだった。

「私もいっぱい、いっぱいダ……違うね?キキョウに助けてもらって、ありがとうだよ!」

と、ショウが声を掛けてすぐだった。


「「……あ……」」

ショウと桔梗どちらともなく、声が漏れたと思ったら紫の光の玉…桔梗は一瞬にして消えてしまった。


ショウは、まだまだ伝え足りない気持ちがあった事と……自分の世界から、とても嫌な事だらけで凄く大嫌いな筈なのに、何故か憎みきれず

心の奥底では、とてもとても大切に思ってた人が居なくなった事に何だか胸にポッカリ穴が空いた様な悲しくてとても寂しい気持ちに襲われていた。


しかし、ここで大問題発生。


ショウとダリアのやり取りで、ダリア召喚という最強の切り札が絶たれた。

唖然とする一同に、ショウは


「ダリアは、この世界から消えちゃったの。ダリアの魂をもつ人が別の世界にいるけど、その人はダリアじゃないの。

それに、その人は大切な人達がいてそこを守らなきゃいけない。
だから、私達はその人を頼っちゃいけないよ?…それに…」


そう言ってから、サクラとロゼを見て


「サクラとロゼは、私の“天守(てんしゅ)”なんでしょ?
私の天守が、最強にならなくて誰がなるの?私の天守は最強が当たり前なの。

誰にも負けちゃダメなの。」


と、力強い言葉をかけられ、サクラとロゼはハッとした。

異世界から来たという鬼の未知数な力に恐れをなし、いつの間にか憎くて憎くて仕方ないダリアの力に頼ろうとしていた。

今、考えれば、背に腹は代えられない状況とはいえ、既にこの世界の人間でない無関係の人の力を当てにして安心しきっていた。

…命懸けの戦いになるであろう争いに、無関係の人を巻き込もうとしていたのだ。

そして色々と理由をつけては、ダリアの力に甘えていた自分達に気がついた。

羞恥しかない。


確かに、ダリアという最強の切り札は断たれたが、サクラとロゼはまだまだ未熟であるが、ショウの“天守”。

ショウの天守であるならば、本来この世界の最強が当たり前にならなければならない。

それを強く痛感し、猛省したところでサクラとロゼは自然と目配せして


「ショウ様のいう通りです。ならば、最強の天守、波動使いとなるべく、今まで以上に修行に集中します。
…ショウ様とあまり会えなくなってしまうのは寂しいですが……ッッッ!!?」


「…うむ!我もお主様の天守。ダリアをも超える史上最強の魔導士になって見せようぞ!」


そう言って、ショウと少しでも離れたくない二人は決意が鈍らないうちに、ロゼの魔導でサクラとロゼの師匠達の待つ異空間へとワープしていった。

そこで、ようやくショウは…アレ?と、思った。


「…私…サクラとロゼに、なんか変な事言っちゃった。なんで、あんな事言っちゃったんだろ?」


ショウは、何故自分がそんな発言をしたのか自分でもよく分かっておらず首を傾げている。

その様子に、複雑そうな表情を浮かべながらリュウキはソッと自分の娘を抱き寄せ


「…大丈夫だ。深く考えなくていい。
おそらく、ダリアという切り札を無くして自信を失ってしまったサクラとロゼが可哀想で、ショウ自身気がつかないうちに二人を慰めたい気持ちが強く出て口に出てしまったんだろう。
だが、そのおかげで二人は元気を取り戻して強くなる為の修行を頑張れる。」

と、口早にショウを丸め込むリュウキの姿に、みんなこれは何かあるなと勘付く者が多かった。


きっと、先程サクラとロゼに言った言葉は、ショウであってショウでない何かが言わせたもの。

そう考えると、その“何か”の正体が恐ろしくまるでショウは、時々“何か”に操られてる或いは意識を乗っ取られているのではないかと考えると……ゾッとする。

リュウキもそう思っているからこそ、不思議そうに首を傾げているショウにその事についてこれ以上何も考えさせないようにしている節が見てとれる。

そして、ショウの親であるリュウキはそんな娘の状態にそこに見えない不安に駆られ、一見ショウを落ち着かせる為にショウを抱き締め口早にショウに言って聞かせているように見えるが

実はリュウキのその行動はもちろんショウの為が前提ではあるが、自分の精神も落ち着かせる為にショウだけでなく自分にも言い聞かせているように思う。

…だって、いつだって威風堂々とし自信に満ち溢れているリュウキが、不安気な表情をして大きな体は得体の知れない恐怖から小刻みに震えているのだから。