イケメン従者とおぶた姫。


次の日、起きた時にはマナの姿はなかった。

捜索願をだし、魔界警察に頼んでも信頼ある部下達に探してもらっても…その日見つかる事はなくあっという間の夜。

焦るオレ達だが、そこにオレの奥さんは何やら考えている様子で泣き腫らして瞼が腫れ上がった状態でオレと魔王、そして信頼できる部下達に声を掛け話した。


「……アタシに“見えない”って、事がおかしい。」

確かに、その通りだ。

オレの奥さんには“未来視”の能力何ありその能力を持つ人達の中で桁違いにその能力に特化している。

そんな彼女が“見えない”と、なると…


「アタシが見えない相手は、自分自身と三大核くらいだよ。つまり、これに関与しているのは…」

と、唇を震わせながら言葉を詰まらせた。思わず、そんな彼女を抱き寄せ

「…確かに、それしか考えられない。マナが、色んな所に行って迷子になっては、その場所を見つけ出していたのは他でもない。君なんだから。」


その可能性が出た瞬間オレは、娘を攫われた怒りに任せて真っ先にこの人の元へ行った。


「やあ、久しぶりだね。そろそろ、来る頃だと思ってたよ。」

なんて、穏やかな顔でにこやかにオレを出迎えてき智慧の核。

「…ハアハア!…や、やっぱり、あなたがマナを!?マナは何処ですか!今すぐ、マナを返して下さい!」

あちこちマナを探し回って疲労困憊のコクレンに、さり気なく回復の気術を施してくれた智慧の核。

「…あれ?…回復してる。…えっと…まずは、体力の回復ありがとうございます。」

と、律儀で良い子なコクレンは、まずは体力の回復をしてくれた智慧の核に不本意ながらもお礼を言った。


「うん、良い子だね。ただ、僕は神通力や気術、妖術の類は扱えるけど魔導は使えないからね。魔力は回復してあげられないよ。」

「…じゅ、十分ですよ!体力だけでも回復してもらえたら、かなり助かります。」

「本当に良い子だね。そんなコクレンだから教えてあげるよ。マナが何処にいるのか。そして、何故こんな事態になっているのか。」

…やっぱり!

この人が関連してるんだ

早く、事情を聞いて問題を解決してマナを返してもらわなきゃ!

と、フツフツとした怒りを何とか抑え、コクレンは教えて下さいと智慧の核に深く頭を下げた。


「…おやおや。君と僕の中じゃないか。そんなに固くならなくていいんだよ?」

頭をあげるように言った智慧の核は

「今から話すからね。頭をあげて。
まず、今回のマナの件に関しては僕は関与してないよ。
ただ、僕にも少しは関わりあるのかな?マナという、異物ができて“運命”が変わった人物達がいる。」


「……う、“運命が変わる”?」

と、首を傾げるコクレン。


「うん。みんな、それぞれに色んな運命を背負って生きているよね。
もちろん、彼女も。つまり、いる筈のなかった彼女が出来てしまったから彼女の運命ができた。
その中の一つが、とんでもない事でね。僕もビックリしちゃったよ。」


…ドクン、ドクン…!


彼女の運命が、とんでもない?

そういう事だ?

と、顔を顰めて智慧の核を見るコクレンだが、智慧の核は穏やかな雰囲気と表情を崩す事なくコクレンに話した。


「簡単に言えば、マナは僕の妻である魔の核と“恋愛の方、つまり番の運命人”みたい。」


…ドッキーーーーーンッ!!!?


「…そんな馬鹿な!?番の運命人は一人な筈!二人いるなんてあり得ない!!」


「それが、稀にあるらしいよ。とんでもない低い確率ではあるけど。

今までは、僕と魔の核は番の運命人で生命がどんなに増えようともこれからもこの運命は変わる事はない。

ある筈がなかったんだよね。

だけど、マナというイレギュラーが誕生した。…彼女、見事に掻き乱してくれたよね。」

そんな言葉にゾッとしたのか、智慧の核に恐怖を感じたのか分からないが智慧の核の言葉にコクレンは言われようもない程の不安を感じた。


「…それは、そういう事ですか?」


不安を隠しきれないコクレンに


「そのままの意味だよ。
だけど、僕は安心してるよ。」


「……?」

智慧の核の安心という言葉に不審に思うコクレンだったが…。


「僕が、どうしても同性を恋愛対象に見れなくて性的対象としても生理的に受け付けないのと同じでね。

僕の妻である魔の核は、


【美形以外は恋愛対象として見れない。美形以外は性的対象として生理的に受け付けない。】

だから、平凡な容姿のマナはいくら魔の核の【番の運命人】であったとしても、極度の美形潔癖症の魔の核とマナが結ばれる心配はないからね。

だから、安心して放置できたんだよね。」


そう話す智慧の核の、魔の核に対する恋人・夫婦としての対応はとても酷いものであったのをコクレンは知っている。

それでも、運命の番な二人だから魔の核は、智慧の核にどんなに酷い扱いや言葉を浴びせられても離れられず

智慧の核に愛されたいと並々ならぬ努力をして、自身のプライドをへし折ってまでも尽くして尽くして…可哀想になるくらいだ。


…もう、見てられない!

やめてくれ!!

そう、思っても



「いくら愛していても同性に好かれてると思うだけで、嫌悪感が出てしまってね。どうしても生理的に彼を突き放してしまうんだよね。
おそらく、魔の核はどうあがいても僕に塩対応ばかりされて精神的に疲れちゃったんだろうね。」


智慧の核も、自分と魔の核の夫婦問題に対してかなり苦をしているようだ。


そうでなければ…


「そこで

【奇跡的に現れた、もう一人の運命の番】。

だから、彼はもう一人の運命の番に

【愛されたい】

と、希望と救いを求めたんだろうね。そして、わらにも縋る思いで、僕以外の運命の番の元へ行ったら

自分が恋愛対象、性的対象として生理的に受け付けない平凡な容姿の子だった。

きっと、絶望したに違いないよね。

そして、そこで僕の気持ちも痛い程思い知ったと思うよ。魔の核も僕に対して絶望を感じていたと思うけど、僕も魔の核に絶望してたんだから。」


魔の核の心情をここまで深く考えないだろう。

ここで知ったのは、魔の核だけでなく智慧の核も相当なまでに悩み苦しんでいるという事だった。

やるせない気持ちばかりがコクレンの心を襲う。


智慧の核は絶対的異性愛者であり、同性はどうしても性的にも恋愛的にも無理で考えられないし考えたくもない。

他の人達の同性愛や異種愛などは嫌悪感も感じないらしいが、それが自分となると話は別らしい。

同性愛は生理的に受け付けない智慧の核と、それでも、智慧の核に献身的に尽くしてめげず頑張っていた魔の核。

運命人で相思相愛なのに、そんな感じだから二人はとても苦しんでいるに違いないのは確か。


何がどうなって二人が夫婦になったのかは分からないが、運命にはどうしても逆らえなかっただけなのか。

色々あって二人は、永遠とも思える気が遠くなる程の時間を掛けて、ようやく夫婦になって何人か子供までいる。魔の核の粘り強い努力と執念で彼の願いがようやく叶ったのだろう。

そして、また魔の核を受け入れる努力を智慧の核もしていたのだろう。

だけど、智慧の核の同性嫌いは運命の恋や愛以上に強かった。

結婚して子供も作ったけど、魔の核や同性同士でできた子供達が生理的に無理で自分の意に反して、どうしても彼らに冷たい態度を取ってしまう。

だけど、魔の核には有り得ない事に番の運命人がもう一人できた。こんなのは、ないに等しいから奇跡としか言いようがないくらいに稀中の稀事故みたいなもの。

運命人って言っても、親友、家族、憎悪、嫌い、恋愛とか、色々と種類はある。

けど、運命人って片方だけじゃ成り立たないお互いが想いあって繋がつって事もあって、運命人のいる人は本当に数少ない。

宝くじ当てるより運命人のいる人の割合が低いんだから。

嫌な運命人は勘弁してほしいけど、良い運命人がいる人達って羨ましいと思う。

そんな中、魔の核には恋愛的な運命人が二人もいた。

献身的に尽くして尽くして頑張っても、悪さして気を惹こうとしても何をやっても魔の核に関心を示さな智慧の核に疲れ果てた魔の核は

“もう一人の自分の運命人”の女性に会いに行ったけど生理的に無理だった。

なにせ、鬼が恋愛や性的に同性を受け付けない様に、魔もハイレベルな美形しか受け付けなかったんだから。

……魔の核は、智慧の核に対して精も根も尽きて本当に疲れ果てた。


なるほど!

だからか!!


と、コクレンは思った。


もう一人の運命人であるコクレンの娘であるマナに何らかの希望を持って会いに来ていたのか。

だけど、ハイレベルな美形しか恋愛や性的に見れない魔の核は、平凡な容姿のマナに近づく事ができなかった。

それでも、心だけはマナの事を恋愛的に好きだし愛してやまないんだけど、性的にだけは生理的に無理で受け付けなかった。

だから、マナへの愛が溢れるも彼女に触れる事などできず、いつもマナと一定距離を保ったまま何をするでもなく毎日コクレン家に通っていたのかと納得する。

だから、マナに近づく事はしなかったけど毎日彼女の近くまで来ては彼女の様子を見ていた。


そんな、ある日。


魔の核にとって衝撃的な出来事が起きた。

マナに好きな人ができたという話だ。


そうだ!その話があった日、自分達家族は異常なまでの眠気に襲われ、朝目覚めるとマナの姿がなかった。


……つまり、マナを攫った犯人は……!!!!??



…ドクン、ドクン…!!!?


「うん。今、コクレンが考えてる事でほぼ間違いないと思うよ。」


…ドキィッ!


ゾッと寒気が走る程、何もかも見透かすのが大得意な智慧の核に

コクレンは心臓が飛び出すかと思うくらいにビックリした。

毎回ながら、人の心を先読みして答えるこの人はちょっと苦手である。

だって、智慧の核は人の心を読んだの?って、くらいに1ミリもズレなく人の考えている事を言い当ててしまうのだから怖い。


そんな風に、話している時だった。

つい先程まで智慧の核は、いつも通り掴みどころのない優しい雰囲気のにこにこ笑顔だったのに、いきなりカッと目を見開き威圧的な雰囲気に変わったかと思うと


「……馬鹿な!!?なんて愚かな事をしたんだ、君は……っっっ!!!?」


智慧の核は、一瞬だけ絶望的な表情を浮かべ、直ぐにいつものにこにこ笑顔に戻った。

…だが、そこにはいつもの穏やかさはなく、全世界が凍りつくような腰を抜かす程に恐ろしい雰囲気に変わっていた。


…な、何が起きたんだ!?

今まで、何があっても表情や雰囲気さえ崩す事のなかったこの人が、こんなにも気を荒げるなんて!

コクレンは嫌な予感しかなかった。

すると


「…うん。たった、今。
魔の核は“消滅した”よ。」


と、智慧の核は震える声でコクレンにそう告げた。

らしくない、智慧の核の雰囲気や言動にコクレンは不安しかなかったが


「そんなっ!だけど、あり得ない!
魔の核が消えたら、この宇宙の均等は崩れてくるはず。その兆しも何もない。
そして、

“何よりオレが消えてない”

し、

“魔力も魔導も消えてない!”

それは、魔の核が消滅してない証拠ですよ。」


コクレンは何故か冷静さを失って、まともな判断ができてないであろう智慧の核にそれはあり得ない話だと話した。


「確かに、コクレンの言う通りだね。」

と、智慧の核が言った事で、コクレンは何があったか分からないが最悪な事にならなくて良かったとホッとしたのだった。…のも、束の間。


「この世界と

“君達という子供達”

を守る為に、彼は自分の魔力全てを一つにまとめ、魔導や彼の他の能力や才能を二つに分けたみたいだね。

何故、そんな事をしたのか僕でも分からないけど、二つに分けられた魔導や能力才能は、彼の血肉の一部から造られた新しい生命に与えられたみたいだね。

きっと、他の生命体だと彼の魔力や魔導の力に負けて体や魂までも木っ端微塵になっちゃうから、自分の力に負けない生命体を造ったみたい。

だけど、一体じゃその力に耐えきれないから、もう一体造らなきゃいけなかったっぽいよ。魔力は0だけどね。

その魔力は、“何かに保管”してるみたいだけど…。

“その魔力”は、どうするつもりなのかな?

今は、そこの所は後で考えるとして。

この世界もコクレン達が今まで通りでいられるのも、魔力や魔導がこの世界から失われてないのも


“魔の核の本体”をエネルギーにする事。…つまりは、人柱って事かな?

魔の絶対である自分が、自分で悪魔の契約をしたんだろうね。そうでもしなきゃ、こんな事は不可能だからね。


そして、魔力や生命のない空っぽの魔の核の本体だから、事前に封印の施された自分が用意した異空間にでも入っちゃったら僕でも見つけられないよね。

だって、空っぽだから何も探るようが無くて見つけ出す事は絶対に不可能。

……やってくれたね、ーーー。…君って、奴は本当に……ッッッ!!!」


そう言った智慧の核の目から光が消え、絶望的な闇に変わってしまったようにコクレンには見えた。

…あんなにも魔の核の愛を拒み塩対応ばかりしていたというのに

いざ魔の核が消えると別人のようにこんなにも…


分かりづらいけど、この人はこの人なりに魔の核を深く愛していたんだ。


今の智慧の核のこの姿を、魔の核が見たらとても歓喜していたに違いないし、愛されている実感が湧いていたかもしれない。

ほぼ消滅してしまった今となっては、それはもう叶わない話だけど。

何とも、やるせない終わり方だ。皮肉な運命としか言いようがない。


絶望でただただ立ち竦むだけの智慧の核の姿に、コクレンはギュッと胸が締め付けられ居た堪れない気持ちになっていた。

そして何事も機械的な智慧の核に、今まで感じた事のなかった人間味を初めて感じこの人も人と同じ感情があったのかと驚きもした。

そして、しばらくしてから智慧の核は


「…少し考えたい事があるんだ。
だから、しばらくの間ここには来ないでくれるかな?」

と、にっこりと笑ってコクレンに話しかけた智慧の核の言葉の裏に

【自分が落ち着くまで、誰かがここに足を踏み入れでもしたら誰であっても。
自分の子であったとしても殺してしまうからさ。】

こんな忠告が見えてしまった。


「……分かりました。ただ、くれぐれもおかしな真似はしないで下さいね。あなたは、それでもーーーーーーーーーーなんですから。」

と、声を掛けるコクレンに少し驚いた表情を受かる智慧の核。


「……本当に、君は良い子だね。ーーーーとは思えない。」


ーーーーー
それから、一年は経とうとしていたある日の事だった
ーーーーー

あれからも、コクレン達は仕事の合間に絶対に諦めてたまるかと必死にマナの捜索をしていた。

そんな時だった。

何でもない休日。周りからの強い勧めもあり気晴らしにと久しぶりにデートを楽しんでいたコクレン夫婦。

さて、そろそろ昼食の時間だと予約していたレストランに向かっている途中だった。

突然、コクレンの奥さんが立ち止まり上を見上げた。


「………ッッッ!!?
感じた!!マナのエネルギーを!!
そして、マナは……」

と、カッと目を見開いたかと思うと、何かを感じボロボロと涙を流していた。


コクレンの奥さんの予知か千里眼だ。

コクレンは、ワープを使い奥さんと共に自宅へ戻った。

そこで、奥さんはとんでもない話を始めた。



「……ノイズや砂嵐も凄いし、部分的だけど見えたよ!」

と、いう奥さんの言葉に、オレやそこに集まってもらった魔王や信頼ある部下達は固唾を飲んで耳を傾けている。

緊張でピリつく空気の中、話された奥さんの言葉はかなり衝撃的なものだった。


「…マナは、唯一無二の旦那さんを見つけて別の宇宙…つまり異世界を創っちゃったよ。
だから、もうアタシ達はマナに会う事は叶わない。」

まさか、そんな!!?

と、みんな思った筈だ。

マナの母胎から創られる宇宙は、奇跡も奇跡絶対に無いと言い切れる程希少な一粒種だと智慧の核は言っていた。


だから、

マナが異世界を創り出す事は不可能でほぼ“0”

だと、言っていたから油断していた。

何かによって、思ってもないまさかの奇跡が起きてしまったのだ。


そこで頭を過ぎるのは【魔の核】。

何をどうしたのか分からないけど、こんな事ができるのは三大核くらいしかいない。

智慧の核も、魔の核が何か小細工をしていた話をしていた。その中の一つが、これだったんだ!


…何故?どうして、こんな馬鹿げた事をしたんだ!?

と、思う事はみんなほぼ一緒で、口々にそんな言葉が出ている。


「…ただ、マナに会う方法は一つだけあるよ。」

そう言った、奥さんの言葉にみんな驚きを隠せなかったが、マナのいる異世界のルールや仕組みについて説明された時僅かながら希望が見えた。


【マナの子供の剣・盾の天守候補になり、異世界召喚されればいい。】

それには、かなりの条件があったけど。
三大核の次に権力と地位を持つ自分なら、何とかできるんじゃないかって思ってね。

オレの兄弟達と魔王の力も借りて、無理矢理にマナの天守候補試験会場に召喚されるよう仕向けた。

どうしても自分も行くと聞かない奥さんを、オレの中に封印することによって奥さんの身を守る事に成功して、オレはマナの産んだ異世界へ来る事ができた。

そして、マナの居場所を探るべく

まずは、この異世界について詳しく調べて、
闇の精霊王の闇の中という自分にとって都合のいい空間がある事も知った。

だから、闇の精霊王の闇の中に身を隠し色々と調べていた。

ただ、異世界へ来る事でこんなにも、力や能力の低下がここまで激しいとは思わなかったし、容姿もこんなヘンテコになっちゃって。


ーーーーーーーー


と、いう所でコクレンの話は終わった。


ーーーーーーーーー

その話に、みんな驚きを隠せず固まっていた。

そこに


「…アクア…。…いや、マナさんはそちらの世界では、健康優良児で運動神経も良く元気に走り回っていたと…?」

と、驚きを隠せない様子でリュウキはコクレンに訊ねた。


「うん。そりゃ、もう手が付けられないくらいのお転婆ちゃんでね。本当に手を焼いてたよ。
…だけど、そんな困ったちゃんな所も含めて、とっても可愛い子なんだ。」

当時を思い出してか、少し表情をほこらばせ時に苦笑いしながら幸せそうに当時を振り返るコクレンは、話し終わるとその子はここには居ないんだという現実に引き戻され少し寂しそうな表情で笑って見せた。


「…驚きました。」

そう答えるリュウキの言葉に、コクレンは首を傾げる。そんなコクレンに気が引けつつも


「なにせ、俺とアク……マナさんが出会う時は、いつだってマナさんはいつ死んでもおかしくない瀕死状態でした。
だから、そんな元気に走り回るマナさんの姿は俺は見た事がありません。」

と、一筋の涙を流すリュウキの言葉に、コクレンはギョッとして


「…え!?それは、どういう事?
マナが瀕死状態でこの世界にいるって事?マナには、この世界のエネルギーが合わないって事?…でも、それはおかしいよ。

だって、この世界はマナが一番住みやすい場所な筈だから。

だから、マナが瀕死状態なんて絶対にあり得ない話だよ。

……あるとしたら、マナを誘拐した魔の核がマナに何らかの術或いは呪いを掛けたとしか思えない!」

コクレンは、リュウキの思ってもなかった話にパニックになるも冷静に考え答えた。


「……そして、マナは毎回ショウを産むと俺達の前から消えてしまう。」

リュウキは、悲しみと怒りそして何もできなかった自分への不甲斐なだで握り拳を作りワナワナと震えていた。

そんなリュウキを見て


「……お父さん?」

と、ショウは不安気な顔をしてリュウキの手を握った。そこでハッとしたリュウキは、ショウの顔を見ると、フと笑い

「大丈夫だ。…大丈夫…!」

隣に座るショウを思わず抱きしめた。


「…リュウキ君…」

そんな親子の姿に、コクレンはギュッと身が引き裂かれる思いがした。

こんなにも、リュウキに大切に思われているマナ。そんなマナが、何故そんな状態にいるのか。

早く、この問題を解決しなければリュウキの精神が心配だ。

今はまだ、リュウキの強靭なまでの鋼の強い精神と、二人の間にできた愛娘であるショウが居る事が支えになって何とか精神を保っている。

…が、いつどの様にしてリュウキの心が崩壊してしまうか心配になる。

そう感じたのは、コクレンだけではない筈だ。


リュウキの気持ちを考えればコクレンは今にも大泣きしてしまいそうになる。
現に、コクレンの中にいる奥さんは大泣きしている。

コクレンの中にいるから、大丈夫だよと抱き締めてあげられないのが辛い。

今、きっとリュウキの心が保っていられるのは、我が子を守りたい、見っともない姿は見せられないという親としての深い愛情と意地だけなのかもしれない。


「…あれ?だけど、実はね。話の流れからみんな何となく気付いてたかもしれないけど、リュウキ君はオレ達の世界の人だよ。

この世界の人じゃないけど、何か害を受けたりしてないかな?

少なくとも、オレはかなりのリスクと害を受けてるんだけど…」


と、リュウキを心配するコクレンに


「大丈夫だよ。その男はこの世界の種だから、マナ同様にその男にとってこの世界はとても生きやすい筈だよ。
何たって、この世界はマナとその男のエネルギーが混じり合ってできた異世界なんだからね。合わない訳がないよ。」


なんて、コクレンの奥さんが説明してきたのだが、この説明…ちょっと生々しい気がして何だかちょっと恥ずかしい気持ちになる。


「…そ、そう。それなら、良かったけど。」

と、いうコクレンの笑顔はぎこちないない。マナの父親として当然の事であろう。とても複雑な気持ちになっている。


と、しんみりする空気の中


「……ん?んんっ!!?」

コクレンの奥さんの声が聞こえた。

静かな空間に似つかわしくない、その声でコクレンは一気に注目の的と化していた。

いきなり、注目されたコクレンは恥ずかしそうにして奥さんに何があったのかヒソヒソ聞いている。


「…見えた!」

と、いうコクレンの奥さんに、コクレンを含めみんなドキリとした。

だって、コクレンの奥さんは予知と千里眼の持ち主で、百発百中の的中率というからその場に緊張が走る。

そこで、コクレンの奥さんの発した言葉。



それは…



「ショウ。今すぐ、ダリアを自分の召喚従にするのはおやめ。」


そんな事を言ってきたのだ。

その言葉に、その場身内誰もが


「…………は?」

「…え?」

「…あり得ね〜…」


何を馬鹿な事を言ってるのかとばかりに、思わず間の抜けた声を漏らす者が多かった。