さて、ゴウランを迎えに来たオブシディアンは、ゴウランの今までの歩みや気持ちなどを聞きながらショウ達の待っている宿へと向かっていた。

宿へ着き、いつものメンバーがいるんだと疑わず部屋の戸を開けた瞬間、目に飛び込んできた光景を見て思わず

「…は!??」

と、驚きのあまり心臓が飛び跳ね後ずさってしまった。そんなゴウランに

『どうした?入らないのか?』

なんて、ゴウランがビックリして腰を抜かしかけてる理由を知りつつ、オブシディアンは意地悪な事を言って少しクスッと笑っていた。

「…え?いや、だって…え???」

と、大混乱のゴウランに今度は

「もう、その反応飽きたから、さっさと入ってくれないか。」

オブシディアンに着いてきていたシープがイライラしたように、さっさと部屋に入れとゴウランを急かした。

そういえば、コイツ…俺とオブシディアンが話してる時も会話に参加する事なく、ずっと不機嫌だったな

なんて、城から宿まで来る道中の事を思い出していた。そして、何故か自分はシープに何だか嫌われてる気がする。

…ショウに嫌われてもしょうがないが、何であまり関わった事もないシープにこんなに睨まれなきゃいけないんだ?

自分が気付いてないだけで、何かシープを怒らせる事をしてしまったんだろうか?と、ゴウランはシープに対して、な〜んか少し不快な気持ちになっていた。


だが、この安い宿の部屋に集まっている面々は…!?

……は???

意味不明過ぎて、もはや、は???としか考えられないゴウラン。そんなゴウランに、オブシディアンは小さくクスクス笑いながら

『気持ちはわかるよ。だけど、みんなを待たせる訳にはいかない。さあ、中に入って。』

パニック状況のゴウランの背中をグイグイと押して

「…わっ!ま、待て!まだ、心の準備が……!!」

と、慌てるゴウランをオブシディアンが無理矢理、6人部屋であろう部屋に押し込んだ。寝泊まりさえできればいい様な狭い部屋だ。

…ゴックンッ!!

中に入ると、あまりに異質で異様な光景が広がる。あまりに萎縮し過ぎて、ゴウランはその場でカチンコチンに固まって動けなくなってしまった。

ドックンドックン!!

緊張し過ぎて、ゴウランの頭は真っ白である。

だが、それも仕方ないだろう。


そこには、ショウやサクラ、ショウのペットロゼは勿論だが

聖騎士団長ハナ、副騎士団フウライ

そして、商工王リュウキ

までも、いるのだから。

しかも、誰かよく知らない人までいる。誰だろう?

しかし、当たり前だが6人部屋に9人と一匹いると狭い。

まず会える事のないお偉いさん方。何かの行事などで目にする事があっても、小豆粒程にしか見えないほど遠い距離からしかその姿を拝見する事のできない住む世界の違う方々。

特に、王ともなれば言わずもがなだ。

旅に出てからは、何か大きな問題があると聖騎士団長から直接話をしてもらう貴重な体験をしたが、それでも滅多に会える方達ではない。旅の問題で自分達と対面してくれるのが不思議なくらいなのだ。何故、自分達なんかと直接会って話してくれたのか…未だに分からないし信じられないくらいの話だ。

そんな天上人のような人達が何故かこんな狭い部屋にいるので、そんな方々とゴウランは自然と距離がめちゃくちゃ近くなる。

緊張でどうにかなりそうだ。もう、既に緊張し過ぎて汗がダラダラ流れてきた。

マジで、どうなってるんだよ。なんの拷問だよと、内心ゴウランは泣きそうになりながら助けを求めるようにオブシディアンにピッタリくっつきそうなくらい近くまで寄った。心のよりどころが欲しかったのだろう。

直後、ゴウランの腕にギリィ〜ッ!と、痛みが走った。思わず、そこを見るとジト〜ッと嫌ぁ〜な顔をして見てくるシープの顔。
そして、シープの指でつねられてる自分の腕。めちゃくちゃ痛い!


…え!?

マジで、何でこんなにシープに嫌われてるわけ?

なんて思ってる間に


「この中からチーム分けをして、それぞれで任務を遂行してもらう。」

と、リュウキの厳格な声が響いた。


「既に、ムーサディーテ国女王やベス帝国王に事情を話し動いてもらっている。」

なんて、言ってるが何故ムーサディーテ国の女王様とベス帝国の王様が関わっているのか。だが、それはこの二つの国も関わる程大きな問題があるという事だ。

一体、何があるというのかとゴウランはビビリまくっていた。まさか、自分達の知らない所で他の国までも動くような深刻な何かがあるかもしれない事実に大きな衝撃を受けていた。


「まずは、ハナとフウライはディアンカダ王国へ行き、魔道具や機械学などあらゆる最新の情報を得てほしい。開発途中や隠し持ってる何かについても気になる事全てだ。」

と、言うと


「…うへぇ〜…あの国かい。色んな分野の学者やら、医学だっけ?機械学??難しい事が大好きなめちゃくちゃ頭がいい奴が集まってる国だろ?…あそこは苦手なんだよなぁ〜。」

ハナは、あからさまにガックリと肩を落としていたがその隣では

「承知しました。」

と、ウダウダ文句を言ってるハナの代わりに、淡々とした声で返事をするフウライの姿があった。

「…お前は、そういう難しいの好きだよね?お前だけで行ってもいいんじゃないか?
むしろ、私は足手まといにしかならないと思うがね。」

「何があるか分からないから、王は一緒に行けと言ってるんです。でなければ、俺の他に城内一の格専門の学者達と行く事になるはずです。
…まさかとは思いますが、本来の目的を忘れてませんよね?」

ギクリッ!

「…い、いやぁ〜…!…あ、あはは…」

と、騎士団長は副騎士団長に諭され、お説教までされている。ど正論をつかれた騎士団長はタジタジである。

この二人の関係性にも驚く。部下に怒られる上司って…と、ゴウランはポカーンと二人のやりとりを見ていた。


「そして、ショウとロゼ、オブシディアン、シープに…ゴウランは、王位継承権をかけた旅ではないが、このまま旅を続け色々学び社会勉強をしなさい。」

と、先程の威風堂々たる姿とは打って変わり、何だか穏やかな雰囲気と口調になっている。目線はショウに向いているように感じる。

だが、ここで誰しもが違和感。

…あれ?サクラは?

もちろん、そこに敏感に反応したのはサクラ自身で


「…おい!テメェ……あ、…リュウキサマ。
私の名前が呼ばれてないのですが、私の存在をお忘れではないでしょうか?」

と、自分の名前を呼び忘れてると主張した。

乱暴な口調でリュウキに何か言おうとして、ショウの存在に気付いた途端にこれだ。これで、二重人格ではないのだから驚きだ。


「いや、これでいいんだ。」

そう言うリュウキに、サクラをはじめみんなが何故?とばかりに疑問の目をリュウキに向ける。

「……は?」

意味が分からないとばかりに、思わずサクラは少し間抜けな声を漏らした。


「サクラ、お前は自分自身気で付いている筈だ。ショウの天守として力不足だという事に。それが原因で正式な天守になる事ができない可能性もあるという事にだ。
同じ天守でありながら、お前とロゼでは力の差の次元が圧倒的に違う。」

と、言うリュウキにサクラは、悔しそうに眉間に皺を寄せている。図星なのだろう。

「今までは、別にこのままでも構わないと思っていたのだが今現在は違う。異世界から来た鬼の存在で状況は一変した。
鬼の狙いは、おそらくサクラ、ロゼ、ダリア。それに大きく関わるショウは命…いや、存在自体を消そうとする可能性も否定できない。」

この話の内容に、ゴウランは全然ついていけず頭の中には宇宙が広がっていた。
それに気づいているオブシディアンは『後で、説明するよ。』と、ゴウランに言葉飛ばしで伝えてきた。

「だが、ロゼはおろか、完全体ではなかったにしろあのダリアでさえ、未完全な状態の鬼の足元にも及ばなかった。
サクラ、お前はロゼやダリアにどの程度、自分の力が通用すると思っている?」

と、聞かれサクラはグッと声が詰まった。

だって、ダリアどころかロゼにさえ全く歯が立たないのだから。


「…なあ?その程度の力で、どうやってショウを守るって言うんだ?」

そこに、重い追撃の言葉がサクラを襲う。全くその通りで言い返す言葉すらない。

「自分の身さえ守れないだろ。もし、鬼がここに再来したら弱いお前が真っ先に狙われるんだろうなぁ。」

とてもとても痛い言葉にサクラは顔は青ざめる。

「正直、今のお前は足手まといでしかない。」

なんて、辛辣な言葉ばかり言ってサクラを追い詰めるリュウキに、ゴウランは

…何、言ってるんだ?

サクラは、俺やヨウコウ様なんて遙か及ばないくらいの化け物じみた力を持ってるだろ!?

サクラが足手まといで弱いってなら、王様達はもっと強いって事?

…いやいや、まさか…!

サクラみたいに化け物じみた力を持つ奴がゴロゴロいるって?あり得ないだろ

もしかして、サクラの強さに嫉妬して虐めてるのか?…今まで、王様は立派な方だと尊敬してたけど実際はこんな器の狭い方だったなんて残念だ

と、心の中で突っ込み、リュウキに幻滅してしまった。


「…鬼がいつ、また来るかは不明。
ルナの魔力と気の回復にはしばらくかかるだろう。そして、ルナには思い付くだけのありとあらゆる細工を施し鬼対策をしている。
だから、しばらくは時間稼ぎができるだろう。どのくらい保つかは分からないが…。
そこでだ。その時間稼ぎの時間を使い、お前は特S波動士、冒険家兼トレジャーハンターのマーリンを師とし修行に励み力をつけろ。」

と、言ってきた。

その言葉でリュウキがサクラの力に嫉妬して嫌味を言った訳ではなく、本気の言葉なのだとゴウランは確信し、先ほどリュウキに対して失礼な事を思ってしまった自分の言葉を前言撤回した。


…って、事は…王様達って、マジでサクラより強い!??

と、いう物凄い衝撃を受け自分がとてもちっぽけな存在に思えて虚無感を感じてしまっていた。

しかしながら…このマーリンという女性。
出る所は出て引っ込む所は引っ込んでいる魅惑的でとてもセクシーなボディーをしている。

加えて、褐色の肌に、腰まで長いストレートの黒髪。キリリと太めな眉毛と、比較的赤に近い赤茶色の目。
全体的に、知的でとても気の強そうな美女に見える為、お近づきになれたらなぁと憧れを抱き、自分の女にできたら最高だなと思う男性は多いだろう。おそらく、一部の女性にもモテるだろう。


「サクラの波動は特別だ。俺は何度か波紋王国を訪問した事があり、波動というものを見学した事はあったが、そのどれともサクラの波動とは何かが違って思えた。

本当ならば、サクラが5才の時こちらの世界に馴染んだ頃にマーリンに家庭教師としてついてほしかったのだが、なにせ世界中を駆け回る冒険家兼トレジャーハンターの彼女を探し出すのは容易でなくてな。
ようやく見つけ交渉するも今の今まで断られ続けていた。」

と、話すリュウキに

「リュウキが、オレの恋人になってくれたら喜んでサクラの師匠でも何でもやったんだがな。」

なんて、意地悪そうにニマリと笑いリュウキを見るマーリンに、さすがのリュウキも苦笑いだ。そんな微妙な雰囲気を振り払うかの様にリュウキは仕切り直し

「だが、今回の件を話し事が事なだけにサクラの師匠となる事を承諾してもらえた。」

と、言った。

リュウキが今までサクラに波動の家庭教師を付けなかったのはサクラ自身がとても優秀なので、家庭教師に下手くさく教えられるより、それよりだったらサクラが独学でやった方が断然良いのではないかという考えに至ったからだ。

その上で、このまま独学を続行させるか優秀な家庭教師を探し出すか様子を窺っていた。

それに、この国では波動を使える者は波紋王国の住人。しかも、その中でもごく限られている希少な能力だ。

だが、サクラの家庭教師を探すべく波紋王国へ訪問へ行ったはいいが、向こうのシステムが特別であり優秀な者となれば師範、師範代、師範代代理…他にも優秀な者達こそいれど国を重んじそこに住む人は皆家族も同然だという考え。
家庭教師として引き抜く事ができない強固たる団結力のある集団だった。

その中で異質な存在がいた。

厳格でマナーにも厳しい波紋王国に、天真爛漫で破天荒な女。しかも、前代未聞の特S級の波動士だというではないか。彼女は自由奔放過ぎて、誰の手にも追えず冒険家兼トレジャーハンターとして世界中を駆け回る為に国を飛び出して行ったという。

この人だ!そう、リュウキは直感した。この人しかあのサクラに波動を教えられる者はいないと考えていた。

そして、探しに探しようやく会える事ができてもハッキリキッパリと断られていた。
そして、マーリンに会う度に“惚れた!!もろ、好みだ。オレと付き合ってくれ!!大好きだぞ!”なんて猛烈に口説かれ続けた。
これには、さすがのモテ男リュウキもタジタジで彼女に会うのが少々苦手になってしまった。

その反面、彼女に会い話を聞き会えば会うほど、マーリン程サクラの師にふさわしい者はいないと確信を深めるばかりだった。

そして、幸か不幸か今回の事情の重さによって、12年口説き続けてようやくサクラの師匠となってくれると承諾してもらえた。

そんな苦労を思い出しリュウキは、少し肩の荷が軽くなるのを感じた。


「オレの名前は、マーリン!冒険家でありトレジャーハンターだ。サクラ、お前も色々と不服だろうが、強くなりたきゃオレに着いて来い!厳しい旅になるからな。
しばらくの間は、ショウ姫とはお別れだ。」

そう言った所で、ショウとサクラはショックのあまり大きく目を見開きマーリンを見ていた。
サクラなんて、何か言いたげに口をパクパクさせている。

「いいか?この世界はお前の修行でいかに成長できるかで大分状況が違ってくるだろう。生半可な気持ちじゃあ困る。」


「…そんな事、急に言われたって心の整理がついていない。せめて、しばらく会えないショウ様と…ーーー」

「そんな悠長な事を言ってられない!サクラ、お前なら分かってる筈だ。これは一刻を争う、こうして話している時間さえ惜しいくらいにだ。…で、なければ、俺だってそうしてる。
お前にとってショウが唯一無二な様に、俺にとっても唯一無二の一人娘なんだ。」

リュウキがそう言った所で、サクラは観念する様にギュッと強く目を瞑むり悔しさのあまり全身が小刻みに震えていた。

そんなサクラの様子に、ショウは不安になりギュッとサクラの手を握った。そこで、サクラはハッとしたように、すぐさま床に膝をつきショウが握ってくれた手を更に包み込むと

「…ショウ様。私は強くなる為に修行に専念しなければならないので、しばらくの間ショウ様と会えなくなります。」

と、眉を下げ、今にも泣きそうな顔をしてショウを見上げてきた。

そんなサクラに

「……みんなのお話を聞いてて、難しくてよく分からないところもいっぱいあったけど。
今、凄く大変なんでしょ?だから、みんな自分が出来る事を精いっぱいやらなきゃいけないんだよね?」

「…はい。」

「私もね。どこかに封印されてる私の召喚従を見つける旅に出なきゃいけないみたい。
それで、私がどれくらいみんなの役に立てるか分からないけど大変な時に、少しでも役に立てるなら頑張りたいの。」

「…ショウ様…」

「…どのくらいの時間、サクラと離れなきゃいけないか分からないけど…サクラも頑張るんだもん!私だって、頑張るよ!?」

「………ッッッ!!?」

「…だから、なるべく早く帰って来てね。」

と、我慢できずポロポロ泣き始めるショウを思わずギュッと抱き締めると

「ショウ様、私は絶対に一刻も早く修行を終えショウ様の元へ帰ってきます。…それまで…ッッ!」

サクラは、ショウにたくさん話したい事があったが、強い想いが込み上げもはや声にならなかった。これ以上、声に出してしまったら涙が止まらなくなりそうだったから。

そして、気持ちが揺らぐ前にと

「…では、行って参ります。ショウ様もどうぞ、お気をつけて下さい。」

「うん。サクラも気をつけてね!いってらっしゃい。」

サクラは、ショウにしばしのお別れの挨拶をすると、ゆっくりと立ち上がりショウの肩に乗るロゼを冷たい視線で見下ろし

ロゼは、サクラ…怖い…とショウの頭にヒシーっと捕まって恐る恐るサクラを見上げると


「…おい、クソ猫!」

と、すこぶる機嫌悪く呼ばれ、思わずビクーーーッッ!!と、肩が飛び跳ねてしまった。

「…に、ニャッ!?」


…ドキドキ!


「テメーがどうなろうと構わねーがショウ様に不快な思いはさせんな。そして、何が何でもショウ様を守り抜け!もし、ショウ様になんかあったら、…ただじゃおかねぇー。呪い殺してやる!!」

「何事かと思うたら、その様な当たり前の事。安心せい!ソチと違って“正式な剣の天守”の我に任せておけ。大船に乗った気持ちで、修行に励むと良いぞ!」

と、ドヤ顔で胸をドンと叩くロゼに、イライラしつつ

「…ムカつく。あと、変な事はするんじゃねーぞ、エロ猫。」

「…変な事じゃと?」

「テメーは、何かに付けてショウ様に不埒な事をしようとする。俺が戻って来るまで絶対に手ぇ出すんじゃねーぞ?抜け駆けは絶対許さねーからな!」

と、鬼の形相でロゼを見てくるサクラが怖くて、ロゼは口元をヒクつかせ

「…む、無論、それは正々堂々と真っ向勝負じゃ。アプローチはせど、抜け駆けはせぬよ。(…た、多分…。じゃが、ちょびっとばかしなら…)」

と、言うものの目が泳いでいる事に、気が付かないサクラではない。


「オブシディアン、ロゼがショウ様に変な真似しない様に見張っておけよ。このメンバーで信頼できんのはお前しかいない。ショウ様の事も頼むぞ。」

「大丈夫だよ、サクラ様。」

と、オブシディアンの言葉を聞いたところで、またショウをギュッと抱きしめ

「辛かったら、いつでも旅なんてやめていいんですからね?無理だけはいけませんよ?」

「うん、サクラも怪我とか風邪とか気をつけてね。一緒に頑張ろうね!」

「…はい。」

なんて、いつまでも終わらない茶番に、いい加減痺れを切らしたマーリンが

「いつまで、おんなじやり取りしてんだよ。ほら、時間ないんだろ?さっさと行くぞ!」

と、サクラに声を掛けてさっさと部屋を出て行こうとした瞬間、扉からひょっこり顔を出し

「愛してるぞ、リュウキ!また、すぐに会おう!」

なんて、ニカッと笑い投げキッスまでしてきた。知的で気の強そうな容姿からは想像がつかないほど、カラッとした元気娘(?)であった。

その後を、後ろ髪を引かれる思いでサクラは渋々ついて行った。

そんな様子を見ながら、ゴウランはこの耳でしっかりと聞いてしまった。王様はさっき何と仰った?“ショウが唯一無二の一人娘”聞き間違いでなければ、そう言ったはず。

王様のショウへ向ける態度や優しい眼差しを見て、リュウキの言葉を聞いて、タイジュから聞いた王様の過去の話や直接自分の血を引く子供達への気持ちや思いなど信憑性が高く納得できた。

しかも、化け物級に強いサクラが戦力外通告され、強制的に修行に連れて行かれた。

…って、今さらだけど!

さっきの妖艶な美女が、得S波動士だって!!?
得Sとか、本当にあるのかよ!!?都市伝説くらいにしか思ってなかったぜ

本当かどうか分からないが、ここにいらっしゃる副騎士団長様も若干17才でS級魔導士らしい

挙げ句、SS級魔導士になるのも間近とか…本当かな?本当だったら、とんでもない話じゃないか!魔導レベルFになるってだけでもかなり凄い事なのに。魔導どころかS級…しかも…同じ人間なんだろうかと疑ってしまう。

魔法レベルBの自分。魔導レベルに到達できるかも危ういって時に…

と、同い年でこうも違うのかと無力感に襲われていた。

それもそうだ。魔法レベルAまで到達して、それからまた審査が入りそこから魔導レベルFから始まるのだ。気の遠くなる話だし、魔導レベルに到達出来るものなんてほんのひと握りなのだから。

それに、色々踏まえて思った事がある。
周りの何人かはショウの事を“ショウ姫”と、呼んでる。これは間違いないと思っていいはずだ。それに仕方ない事だと分かってはいるが、よく分からない内容だらけで自分だけ蚊帳の外でとても居心地の悪い気持ちだ。


サクラの姿が見えなくなると

「…サクラ…」

ショウは、親とはぐれ迷子になった子供のように大きな不安が襲ってきていた。それを見て、とても心苦しく感じたロゼは下心アリアリでここぞとばかりに元の姿に戻りショウを抱きしめ慰めようと考えていた。…のだが…


…ぎゅっ!

…にゃ、にゃぬぅぅ〜〜〜!!?


「寂しいだろうが、いっときの我慢だ。サクラもやるべき事があるが、ショウだってやらなければならない大事な事があるだろ?」

「…それは、分かってるけど…けど…」

「ショウとサクラ、どちらが早く目的を達成できるか競争だな。」

「…競争?」

「ああ、そうだ。サクラよりも早く目的を達成してサクラをビックリさせてやれ。きっと、サクラも喜ぶはずだ。」

と、ショウのワクワク心を少しづつ少しずつ焚き付けていくリュウキ。

「少しの間だとはいえ、サクラだって本当はショウと離れたくないんだ。だが、サクラはショウの為に頑張るんだ。」

「…私のため?」

「そうだ。ショウも見て知っていると思うが、あの恐ろしい力を持った鬼がいつまた現れて襲ってくるか分からない。
だから、その悪い鬼からショウを守る為にサクラは修行に行ったんだ。だから、サクラを信じて待ってあげてくれないか?
それに、ショウには頼もしい味方がいる。味方を信じてショウも頑張れるか?」

と、ショウの頭を撫でながら心配そうに聞いてくるリュウキ。
ショウを見るリュウキの顔は柔らかく雰囲気も温かく優しい。その姿は王様などではなく父親そのものだった。

それを目の当たりにしてゴウランは、王様にもこんな一面があるんだななんて感慨深い気持ちで二人のやり取りを見ていた。
そして、本当にこの二人は親子なんだなぁと実感するのだった。
こんなにも容姿も出来も何もかも全く違う二人なんだけどなぁなんて思いながら。