「ねえ、生まれ変わりってあると思う?」突然の問いだった。

「生まれ変わり?」何も答えられない翔のかわりに友哉が尋ねてくれる。

「うん。私さ、分かんないけどこの丘すごく好きで。初めてきた街のはずなのに、保育園幼稚園とか駄菓子屋さんとか、この公園のこともさ、何故か場所も名前もすぐ頭に浮かんだの。」茜は静かに息を吐いて話を続けた。

「それが怖くて、知らない場所を知りたくてあの日中学校を歩き回ってた。そしたら確かに場所は知らなかったの。でも、翔くんを見た瞬間にあの人に話しかけろって、そう強く思ったの。何故かはわからない…だからね私、もしかしたらこの街に住んでた誰かの生まれ変わりなのかもしれないなあって最近思うようになってきたの。」

「朱音…」翔の声が震えていた。話し終えた茜は2人の反応をどこか楽しそうに伺っている。「茜だよ?」そう答えた彼女はいつものように無邪気にケタケタと笑った。

「ふふ。冗談だよ。生まれ変わりなんてあるはずないよ「あると思う。」

茜が喋り終わる前に食い気味に答えたのは翔ではなく友哉だった。友哉は、きっとあるよ、そう言って笑う。

「茜ちゃんは誰かの生まれ変わりかもしれない。でもね、茜ちゃんは茜ちゃんで、それ以上でも以下でもない。そこだけは間違えたらだめなんだよ。」

「実はね、この前、知らないおばちゃんに茜?って声掛けられたの。そうだよ、って答えたら抱き締められた。知らないおばちゃんだよ?なのに怖いとか誰とか思わなかった、ただただ懐かしい感じがしたの。」

きっとそれは朱音の母親かもしれない。茜は茜なりに悩み苦しんで翔と友哉に相談してきたのだ。

その時、5時の鐘が鳴った。カラスの歌が鳴り響き、さっきまでの喧騒が嘘のように遊んでた子供たちが一斉に帰路につく。

茜の瞳から涙が零れ落ちた。何か忘れている気がする、何か大事な約束…

「よしっ、飯いこう。茜も来る?奢ってやるよ。」友哉が鐘が鳴り終わると共に立ち上がった。翔もそれに倣って立ち上がる。

「私、家に晩御飯あるから大丈夫…」
「じゃあ家まで送っていくよ。」翔が茜に手を差し出す。茜はその手をにぎり立ち上がった。茜は丘を駆け降りる。翔もそれに続いて駆け下りた。「公園出る時周り見ろよ。」友哉が笑いながらゆっくりと丘を降りる。


小さな街の小さな公園に3人の笑い声がこだましていた。