僕らは家族だった。いやいやもちろん血の繋がった姉弟ではないのだけれど。勘違いしないで欲しいのが、私たちにはそれぞれ恋人がいてそれぞれが幸せだったこと。
「最近どうなの?」
何の気なしに恋バナをしたくて話を振る。
「まぁぼちぼちかな」
私はその言葉をまに受けすぎていた。もっと警戒すべきだった。なぜなら弟の彼女を幸せにするために身をけずっていたからだ。 あの子はそんなことを知った私がなにか思うことを知っていたからこそ何も言わなかった。
「姉さん…助けて」
ある日の夜に助けを求める弟の連絡があった。その時初めて彼の恋は幸せなどではなかったことを知った。
「ばか!なんでもっと早く言わなかったんだ!」
「姉さんの嫌いなタイプの子だから、もめてほしくなくて」
「その子はあんたがそうなってること、知ってるの?」
「知るわけないよ」
初めて沢山話を聞いた。私は彼が幸せならそれでよかったのに、どんなに聞いても幸せそうに見えない。
「別れてよ、そんな相手なら」
「嫌だ」
「幸せじゃないじゃん!傷付いてばっかじゃんか!」
そこからはずっと同じやり取りをしていた。別れて、嫌だの応酬だけ。まるで私が彼と付き合いたいみたいに聞こえるが、私は彼氏がいるし幸せだ。ただ幸せであって欲しかっただけなのだ。きっと、他人に理解されないだろうけど。私は自分で幸せにしたい人を恋愛、幸せになるなら誰とでも良い人を友愛だと思っている。それを、彼も知っている。
「お願いだから、幸せになってくれよ…」
涙ながらにそう訴えるが彼の心は変わらない。
「ごめん、姉さん」
「どうしてもか」
「うん」
僕達の互いに思う心は同じ。そして譲らないのも分かっている。彼の心は変わらない、それもこうと決めたら一生変えない。それくらいは私でもしってる。
「姉さんの気持ちもわかってるよ」
「死ぬまで、変えんなよ…じゃなきゃあんたなんか弟じゃないんだから」
精一杯無理やり納得させて虚勢を張る。お互いのことを誰よりも知っていた、誰よりも姉弟だった。だから私が納得しないことも、彼もわかっていた。
どうか誰よりも努力家で馬鹿な弟が幸せになってくれますように。そのための力は惜しまないから。いつも同じだった私たちの初めての衝突は変わらない心同士のぶつかり合いだった。

数年後、無事にそれを乗り切り結婚すると聞いた。そんな彼は誰よりも幸せそうに見えた。これは私か望んだ未来だ。どうか彼を死ぬまで愛してくれますように、もう傷つけないように。
その願いを込めて私はスピーチをする。彼から直々に頼んでもらえたのだ。私はあの日どちらも心を折らなかったことを今では感謝している。
さようなら手のかかる可愛い弟。
お疲れ様心配性な姉さん。