誰よりもそばにいた。誰よりも知っていた。
いつか離れていくこともわかっていた。
「ねぇ、見て。綺麗に咲いたでしょう?」
そんなことも知らずに、無邪気に君は笑う。汚れたこの狭い箱庭の中で、たった一輪の小さな命を美しいと笑う。
「えぇ、とても。ですが、そんなところにいてはお身体に触ります。せめて上に何か羽織って……」
「平気よ、これくらい!それよりも見て、とても美しい深紅の薔薇!」
愛おしそうにうっとり微笑む我が主はとても愛らしい方だった。
たとえその身が汚れていても、それすらもその色を纏っているかのように。
どんな服も着こなしてしまうかの如く、その身は色褪せない。
「ねぇ、貴方もそう思うでしょう?」
彼女が纏う深紅は、ただの赤いドレスに過ぎない。
「えぇ、さすがでございます」
その薔薇の深紅がただのニセモノでも、身に纏うドレスが汚れていても、人の道を踏み外していても。
「綺麗な花を咲かせるコツがわかったのよ。若いほうがいいの」
無邪気さをそのまま守るのが私の使命。だからずっと笑っていてください。
「だから次は」
貴女が望むのなら、私は喜んでこの身を捧げましょう。
「あなたが私の薔薇になってね」
あぁ、可哀そうに。つい最近彼女の身の回りの世話を始めたばかりの新人の彼が怯えてしまっている。最近若い使用人を求めるようになったのは歳が近い相手が欲しいわけではなく、ただの肥料として必要だっただけ。たまたまそれに選ばれてしまったのはお気の毒、だけれど私は彼女を……主を悲しませるわけにはいかないのです。
だからどうか、大人しく殺されてください。

私の肥料となるために――