「……べつに、なんとなくそう思った、だけ、です」
「なに?樋野になんか言われた?」
「…特別なことなんて言われてない。当たり前のこと言われただけ。………リュウ先輩なんて辞めとけば?終わりにしなよって、言われた、だけ」
………やめとけ、か。
ぽつりぽつりとミナが語る樋野の言葉たちに妙に納得して、それから、俺が言えないことを簡単に言ってのけた樋野が、憎いほど羨ましいと思った。
たぶん、樋野は、俺の言えないことや俺のできないことをこれからミナにしていくんだろう。
何も壊せなくて、何も進めなくて、何年も足踏みしてる俺なんかすぐに追い越していくんだ。
はやくすきになったからって偉くないって、よく聞くセリフだけど、はやくすきになったからこそ、後から現れた人に取られるのってこたえるんだよ。
何年もずっと出来なかったことを、壊さないように傷つけないようにしてきた大切なものを、一瞬で、簡単に、壊すアイツが憎い。


