「………樋野くんのこと苦手」
「なんで?」
「嫌なこと、言うから」
樋野くんといると、心臓のもっと奥の方が痛くて張り裂けそうになる。
もういい加減変わりなよ、わかってるんでしょう?と。聞いたことのない誰かの声が、聞こえてくる気がして、怖い。
樋野くんの綺麗な好意が、怖い。
その好意に見合うような綺麗な自分じゃないことにひどく悲しくもなるし、辛くもなる。
ただすきだけで構成された思いは、わたしにとっては凶器みたいなものだ。
純粋無垢な言葉は、汚れてしまった、ひねくれてしまった自分に深く刺さりすぎて、ずっと抜けない針みたいに身体の一部になってしまう。
樋野くんの刺したちいさな針の傷から、わたしの恋が暴かれるのが怖かった。
必死に隠している醜さを孕んだ思いのすべてを、暴いてほしくはない。


