君に毒針






「先輩ならどっちにしますか?」

「え?わたし?」



樋野くんがわたしを連れてきたのはショッピングモールだった。

ひとり暮らし始めて色々足りないものが見えてきたから、買い揃えたいらしく、「デートって言っといてこんなんですみません」となぜか罰の悪そうに樋野くんが視線を逸らすから、おかしかった。


…ふたりで家電を選ぶのって、はたから見たら既にカップルなふたりみたいで、わたしはむしろデートすぎるような気がしていたけど。



「先輩って、意外と大人しいですよね」



白にするか、黒にするか。置き時計の色味を悩んでるらしい樋野くんは、不意にそう呟く。

大人しい、とは?言葉の意味がわからなくて時計を見ていた視線を樋野くんへと思わず移動させれば、いつの間にかわたしのことを見ていた樋野くんの双眸と、重なる。



「サークルにいるときはいつも元気です、今みたいじゃない」

「……今も元気だよ?」

「嘘。俺とふたりになると、いつも困った顔して、言葉数減るじゃないですか」