耳を塞いでも、心を塞いでも、時間は平等に過ぎていく。
ドタキャンをする勇気もなければ、樋野くんの気持ちを受け止める勇気もない。
どっちつかずの意気地のないわたしは、どうして言われた通り10時にマンションの前に来てしまったのか、自分でもおかしくって笑ってしまいたい。
「…本当は断られるかと思ってました。だから、ありがとうございます、来てくれて」
「え、断る?どういうこと?」
「リュウ先輩がすきだから、他の人とはデートしませんって、言われるかなって。俺、ちゃんとデートに行こうって誘ったから、もしかしたらだめかもなって」
「………、」
「違いますか?」
違わないよ。違わないけど。
わたしは、樋野くんが思っているような真っ直ぐで穢れのない女の子じゃないんだよ。
リュウ先輩に、ずっと真っ直ぐでいたいだけ。ただの願望。
リュウ先輩を、ずっとすきでいたいだけ。すきでいなくちゃ、だめなだけ。


