「ほんとは当日がいいんですけど、今はまだそーじゃないかなって。先輩、今週の土曜は?空いてますか?」
「え、っと…空いてます、けども…」
「じゃ決まり。デートね、その日俺と」
弧を描いた瞳がまるでいたずらっ子のようだった。
頬杖をついて柔く笑った樋野くんは、本当に真っ直ぐわたしを見ていて、まだ慣れない彼の行動にも言動にも、わたしはたじろぐしか出来ない。
「楽しみにしてるね、ミナ先輩」
有無は言わせないようだった。
行きます、とも、行きません、とも答えていないのに、そうやって楽しみにしている、なんて断りにくい甘え方をするのは、樋野くんの常套手段なのか。
心の底に苦いような甘いような味わったことのない感情がマーブル模様で存在している。
ああ、どうしよう。こんなはずじゃ、なかったんだけど。本当に、こんなはずじゃ。
言い訳がましく並べ立てた逃げ道は、どれも進むには勇気が足らなくて。
意気地のない自分のことがまた、嫌になった。


