「君はあっちでしょ?」
駅に着いてからも、ぼーっと先輩の顔に見惚れていたわたしに、先輩は意味のわからないことを言い出した。
首を傾げて意思表示をすれば、ん、って言いながら、先輩は反対側のホームを指さす。
「電車。俺はこっち。君はあっち」
「………え?」
「違った?」
「違わない、です」
なんで知ってるんだろう。わたしは先輩のこと知らないのに、先輩はわたしのことを知っていた。
その事実がゆっくり心に浸透して、フワフワした。
「朝、聴いたことあったから」
「聴いたこと…?」
「ジャズ聴きながら登校してる人、珍しいじゃん」
先輩が、傘をバサバサってして、水滴がアスファルトを黒く染める。
じわじわ広がる色が、まるで心みたいだ。


