「はやく帰ろ」
先輩は、慣れたようにわたしの腕を掴んで、それから小さな折りたたみ傘の下にわたしを招いた。
ネクタイの色が違うから、この人は先輩なんだろうな。
ぼーっとする頭でそんなことを考えていた。
先輩は、半ば無理やりわたしのことを傘の下に入れたくせに、それからはなんにも話さなくて。
でも、無言の空間もどこか気持ちよくて、こういうのなんかいいなって思ってた。
見ず知らずの先輩と歩く駅までの道は、いつもの道より短く感じた。
友達と話しながら歩くより、だいすきな音楽を聴きながら歩くより、なによりも、短かった。


