君に毒針



(神楽side)




*


あの日は雨だった。

高校生になってウキウキで、まだローファーが痛いような、そんな季節。


どうしてあんな時間まで学校に居たのか、今になっては思い出せなくて、わたしの都合のいい頭は、全部先輩に出会うためだったんじゃないかって思い始めてるんだ。



「……入りなよ」



玄関で立ち尽くすわたしに、素っ気ないようなどこか優しいようなそんな声をかけたのは、初めて見る顔で。

端正な顔立ちに一瞬で心が掴まれた。



「傘、無いんじゃないの?」



時が止まったみたいに固まるわたしになんて構わずに、先輩は話を続けてて。

でも、頭がパンクしそうになってるわたしは、そんな声届かなくて。


雨の音が止まっているような気がしていた。

ポツポツっていう水音が消えて、世界がわたしと彼だけになったような感覚。