君に毒針



さすがに舐められている状況はよくない気がする。
だってほら、初めての後輩に舐められている先輩ってそういう流れ、出来ちゃうじゃん?

という最後に残ったちっぽけな先輩としてのプライドを死守すべく、先輩(わたし)からのありがたーいお言葉(お説教)を唱えようと、樋野くんへしっかりと向き直せば、まだ赤いままの彼の耳たぶがどうしてか鮮明に視界に入ってくる。


確かに暑いけど、なんか変な感じだなあ、と。
お説教の前に気を取られて出かけた言葉を一瞬飲み込んだ瞬間。

樋野くんは初めて見る熱の篭った視線とともに、数回言い淀んでから、はっきりと、言う。



「……俺は、話したい人のところに行くんで。リア充軍団に入りたいわけじゃないです」

「え?」

「話したい人、だからここにいます。俺がいたいから、ここに」

「…えっと…あり、がとう?」



なんだか、太陽暑すぎるんでは?氷点下ボーイな樋野くんが溶けておかしくなってるよ?

気まずいような居づらいような。
そわそわした感覚が慣れなくて、描いていたお説教の出鼻をくじかれたわたしは、もう黙ることしか出来ない。

───が、その反応が、もしかしたら過ちだったのかもしれない。