「樋野くん、クールっぽいから」
「クール?」
「リュウ先輩の周りにいる女の子たちに話しかけられても全然反応しないし、嫌そうな顔してるし。勝手にこうやって集まるの嫌いそうだなーって」
「……まあ、間違ってはないですけど」
「ねー!やっぱりー!」
樋野くんの真っ黒い髪が、一瞬吹いた風に揺れた。
常に他より落ち着いた雰囲気を放っている樋野くんは、一見リュウ先輩と同じくそれはもうモテそうな感じではあるけれど、樋野くん本人にその気がないのか、冷たすぎる表情で女の子たちを寄せ付けていないように見えた。
きっと変にちやほやされるのがすきじゃないんたと思う。仲良くなる相手は選ぶ、という感じ。
リュウ先輩にもすこしばかり見習って欲しいところだ。リュウ先輩は、鼻の下を伸ばしてデレデレするタイプではもちろんないけど、来るものを拒まない。
近くに女の子が沢山いても別に気にもとめない。それを周りからどう見られるとかも全然気にしない。本当に掴めない人だ。
……清水先輩は絶対鼻の下伸ばすタイプだと思うけど。
「樋野くんってモテそうだね」
ぽろりと。脳内分析結果を本人へと吐露すれば、「え?」と素っ頓狂な声。
「クールで一匹狼気質でってモテるじゃん。女の子はみんなすきなやつ、よくさ少女漫画に君臨してるタイプだよ、それ」
「………先輩は?」
「へ?」
「先輩は、その…いや、すみません。なんでもないです」
「…?」
樋野くんがバツの悪そうな表情で視線を逸らしてから、くしゃくしゃっと頭をかいた。
その瞬間ちらりと覗いた耳たぶはすこしだけ朱に染まっているような気がして、一瞬の違和感が脳内を横切ったけれど、すぐに眩しすぎる太陽のせいか、と察しがつく。
サクラも言っていた通り今日は5月にしては暑すぎる。


