君に毒針



「先輩!連弾しましょーよー!」

「…はあ?」

「ピアノ!弾きましょ!一緒に!」

「なんで」

「何でもですってば」



あの子とは一緒に座って弾いてたから。わたしとだって弾いてほしい。あの子に出来てわたしに出来ないことないでしょ?先輩。
あの子に優しくしてたんだから、わたしにだって同じくらい、いや、それ以上に優しくしてくれなきゃ、嫌です。

なんて言えるはずもないから、本心を隠すように「いいじゃないですかー?」と、声音を上げる。



「まーさ、リュウ、お望み通り連弾でセッション、やってあげなよ。今日は樋野がいるからさ」



わたしとリュウ先輩の押し問答を物珍しそうに見ていた樋野くんは、清水先輩に急に話を振られて、「えっ」と一言発してから、わかりやすく固まった。

どうして樋野くんがいるから、が理由になるのか?疑問符を浮かべるように首を傾げれば、察した清水先輩が、樋野はドラム専門なんだって、とわかりやすい注釈。

なるほど。ピアノかドラムをよく触るわたし。ピアノ専門のリュウ先輩。そこに、ドラム専門の樋野くん。全員が参加出来る割り振りはひとつしかない。



「樋野まだセッションしたことなかったろ?いいじゃん、リュウと神楽がピアノで俺がサックスで樋野がドラム。はい決まり」

「わーい!リュウ先輩!ピアノ一緒に弾けますよ!」



ぴょんぴょんって飛び跳ねそうな勢いでリュウ先輩に喜びを伝えたら、動きがうるさいって怒られてしまったけれど。
すぐにリュウ先輩は無言で椅子の半分を空けてくれるから、単純なわたしの心はキュンってする。

そういうのほんとにずるいんだもん。