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「あ、」
今日の全部の講義が終わって、ひとりサークルに向かう途中。
講義棟からサークル棟に向かう曲がり角でちょうど、あの人──神楽先輩が目の前に現れた。
「あれ?樋野くんだ、おはよー!」
「……もう3時すぎてますけど」
「あ、確かに。3時すぎてますね」
「こんにちは、だったか」と俺に挨拶をし直した神楽先輩は、 すこし気まずそうに視線を左右に振ってから、「…サボりじゃないよ?いろいろな理由があって今大学来たけど、決してサボりじゃ…」と聞いてもないのに弁明をはじめている。
その焦りようがどうにもおかしいから、サボりですよね、とすこし意地悪をしてやろうと企んだけれど、そんな俺の計画は、遅れて曲がり角を曲がってきたもうひとりの先輩の登場で、白紙になった。
「おい、神楽。置いてくなって、」
「…あっ、清水先輩。人聞き悪いこと言わないでくれませんか?清水先輩の歩く速度が遅すぎるんですよ」
「神楽がはやすぎんだろうが。って、あー、樋野じゃーん。おはよ」
「………清水先輩まで。おはよじゃなくてもう3時すぎてます」
「樋野、もしかしてお前細かいな?」
「…もうおはようでいいです」
すっかりペースは崩れていた。
突然の会話のカロリー上昇に、はあ、と思わずため息をつけば、清水先輩はケタケタと笑ってから、「ごめんな?でも、おまえもすぐに俺みたいな先輩になれるからな?寛大な心で登校しよう、いつだっておはようなんだよ」と意味のわからない持論を展開するから、聞くのをやめた。
「というか、揃いも揃ってなんで今校門の方向から現れてるんですか?」
「え?それは、神楽と俺が運命的に出会ってしまって、「先輩黙ってくれません?たまたまあそこで会っただけですよね?変な言い方しないでください」


