君に毒針



出会って数日。名前を知ってるだけ。

誕生日も好きな食べ物も趣味もなんにも知らない。

知っていることは、リュウ先輩って人のことをずっとすきらしいこと。それだけ。



「あの人って、ミナのこと?アイツなんかした?」

「あっ、いや。なんもしてないです」



不可解な行動を責められた気になって罰が悪くなった。

逃げるように視線を逸らせば、そんな俺を木下先輩は小さく笑ってから、からかうように含みのある「ふうん、」を返してくる。



「あ、ごめんね。もしかして、樋野くんって変わり者なのかなって思って」

「……変わり者?」

「猪突猛進リュウ先輩なミナのこと、気にかけてくれるなんて変わり者でしょ?」

「そういうわけじゃないです」



そういうわけじゃない。べつに気にかけているわけじゃない。自分自身に言い聞かせるように言葉を反復する。

これは興味関心が向いてるだけ。あの人が変だから、気になるだけ。