君に毒針



(樋野side)


「あの、木下先輩ですよね?…おはようございます」

「え?あー!えんと…確か樋野くんだったっけ?うん、木下だよ、あってる。おはよー」



教養科目っていうのは、結構先輩たちと被るらしい。

俺が座った2列後ろあたり。ちょうど眠たそうにあくびをしていた木下先輩に思わず話しかけたけれど、次の言葉が浮かばない。
わざわざ立ち上がって先輩のとこにきてしまったことにすこしの後悔を覚えつつ、でも、無性に気になってしまったから。



「……ひとり、ですか?」

「え?」

「あ、いや、あの人もおなじ学科って、聞いてたので。この講義とってるのかなって」



どうしてこんなこと聞いているのか、自分でもよくわからなかった。

わざわざ友達の輪から抜けて、先輩のところに来て、あの人のことを聞く自分の行動に、自分でも驚いている。