君に毒針



「…コウキ、暑いんだけど」

「暑いくらいがいーんだろ」

「意味わかんない、」



これは勘違いなんだ。お互いに、お互いを、利用しているだけ。
わたしは傷が癒えた気になっている。彼は───守った気になっている。
テレビの音は耳をすり抜けて。見るって言ったくせに全然集中できないの。


そういうわたしのこと、たぶん彼は見透かしてる。でも、言わない。わざと、言わないのだ。



「寝ていーよ。寝たら運んでやるから」



ひどく安心する声が、そう鼓膜をゆすって。

そのセリフが合図みたいに、わたしはすぐに意識を手放した。