君に毒針



すきだから、伝えることが出来なかった。意気地なしで、何も出来なかった。



はじめて彼女を見たのは、リュウが風邪をひいた日だった。
震えながら俺たちの教室に来たショートカットの後輩を、ああまたリュウが引っ掛けてきたのか、と思って、気にもとめていなかった。


次に彼女を見たのはリュウがいないときで、「リュウ先輩いますか?」と尋ねてきた彼女に「ごめんね?リュウいないんだよ」と俺が答えた。
「えっと…シミズ…先輩?教えてくれてありがとうございます!」と俺のスリッパに書かれた苗字を読んでそう言った彼女の笑顔を、今でもずっと覚えている。




─────いつ、すきになったんだろう。
考えても思い返しても、具体的ないつ、はわからなくて、でも、気付いたら目で追っていた。

リュウのために伸ばした髪が嫌いだった。リュウのために頑張る姿も嫌だった。リュウの横顔ばかり見ている彼女の横顔ばかり、俺は見ていた。