君に毒針



「リュウ、今日全部講義サボったろ」

「頭いてえから仕方ねえじゃん」



清水先輩の問いかけにいつも以上にダルそうに答えるリュウ先輩が、今日も最高到達点でキラキラして見える。

あー、ほんとにこれって病気なのかも。



「せんぱあい、ピアノ教えてくださいってば」



さっき竜星くんって呼んでた1年生の女の子がすこしだけ煩わしそうにわたしのことを一瞥してから、そうリュウ先輩にすり寄る。
頭が痛くなるくらいの猫なで声だ、なんて言ったらきっともっと睨まれるんだろうな。

サクラがここにいたら何アイツってわかりやすく嫌がるだろうし、もしかしたら直接文句だって言うかもしれない。



でも、今日はわたしの味方、サクラは帰っちゃったし、わたしはそんな文句つけられるほど強くない。

かといって、この場から逃げ出すことも出来そうにない。

「いいよ、」なんて優しさをその子に見せたリュウ先輩は、別にいつもと変わらないはずなのに、心臓がずっと痛い。


本当に、自分の中途半端な弱さが嫌だ。こんな辛い感情欲しくないのに。痛いよ、ずっと。




見てられなくて、耐えられなくて。きゅっと唇を噛み締めながら下を向けば、手に握りしめていた携帯がブーブーっと2回振動。






【今日くる?】

たった一行の可愛げもなんにもないメッセージ。
毒みたいに広がるそれに、クラクラした。


【行く】