君に毒針




『いや、先輩。なんか困ってません?無言だし』

「そ、うなんだけど、いやちがう、そうじゃなくて」

『……気遣わなくても大丈夫ですよ、間違いなら間違いで、』

「ちが、ちがう!そうじゃない、そうじゃなくて、」



すう、と息を吸う。スマホを握る手はずっと震えていた。こわくて、ずっと。
言うのが怖い。幻滅されるのも怖い。嫌われるのも怖い。全部が怖い。でも、それよりも、



「樋野くん、あのね、」







────言わないままの方がもっと怖い。



「樋野くんに、聞いてほしいことがある、あって、電話した。けど、急にかけたら迷惑かなって思って、切っちゃって、でも、樋野くんがかけてきてくれた、の」

『……はい、』

「……それ、で、わたしは、」



いつの間にかついてしまったマンションの前。立ち止まって、紡ぐ。全部じゃなくていい。ただ1個、伝わればいい。



「─────樋野くん、がすき」