耳元に落とされる掠れた声が、振動する。しん、とした空気が揺れる。
「先輩が、俺のことすきになってくれたら、そしたら、こんな風にみっともないところ、見せずにいられる。こんな風に閉じ込めたり、しない。もっと、余裕がある俺でいれます。リュウ先輩と話してても、他の人と笑いあってても、全部、大丈夫になる。なるから…………先輩、
すきをください。先輩のすき、全部、はやく、ください」
こんなに甘くて痛いの、しんじゃいたいくらいだ。
もうずっと、夢の中にいるみたい。樋野くんのシトラスの香りは、わたしの思考を停止させてしまう。
だから、自分でも、制御不能だった。
抱きしめられた横から、なんとか腕を取り出してぐうっと伸ばす。樋野くんのほうに、伸ばす。
彼が背負っているリュックが、わたしの手のひらに触れた。そして、そのまま────
「っ、う、わあ!!?」


